【第85話:カーニャは飛べたが女神は‥‥】
レオニスの瞳が黄金に輝き、カーニャを照らす。
「カーニャ目を閉じずこちらをみるのだ」
眩しさに反射で目を閉ざしたカーニャが瞳を開ける。
レオニスの用意してくれた白い洋服にカーニャは着替えていた。
「まぶしくない‥‥」
「そうだ。これはコードと言われる権能を示すものだ」
レオニスの瞳が輝きを強め、カーニャの瞳も黄金に輝いた。
その瞬間にビシシっと空間が悲鳴を上げた。
「ぐあああ!!」
レオニスのからだも引き裂かれ粉々になっていく。
「お‥‥おのれ!ゼルディアス‥‥させんぞ!」
レオニスの叫びが収まるとそこには粒子一粒残さず、レオニスは消えていた。
「お父様!!」
カーニャは慌てて見回し探すが、そこにはレオニスの身体はなく、魔力も気配もなかった。
「いえ‥魔力は有る‥‥そこかしこから‥いえあらゆる場所にお父様の魔力が」
カーニャは大きな窓に近づき外を見る。
漆黒の空を背景にカーニャの姿が映り込む。
ぱぱっと頭の中に、今の自分に出来ることが浮かんでは消える。
「そうだ‥‥私はもう飛べるんだ!お父様を、ユア達を探しに行こう!」
窓を大きく開き、カーニャは心の求めるままに飛び出した。
バサッ!!
長大な黄金の翼を一組広げて白ワンピースのカーニャが大空に飛び立った。
カーニャは翼を力いっぱい羽ばたかせる。
しゅんっと一瞬でとてつもない高度に上がっていた。
「えええ?!‥‥いったい何が‥‥」
眼下に青い色に真っ白な筋をまとわせた宝石のような巨大な玉が、ぎりぎり視界いっぱいに浮いていた。
「こ‥‥これが‥‥私達のいる世界?」
カーニャは1羽ばたきでこの星の外まで出てしまっていた。
そこには大気がもう無いのだが、カーニャの回りには膨大な量の大気が一緒に運ばれ保持されている。
「えと‥‥加減がむずかしい?」
そう思った途端に、脳裏に加減の仕方や、高度の関係を表す情報が流れた。
「んと‥‥こうかな‥‥」
すっと翼の角度を変え、先程の場所を目指し下りていく。
段々と高度が下がるに連れ、カーニャの見たことのある地形が浮かび上がる。
「これ‥‥地図で見て知っている形‥‥あの灰色の雲は?!」
カーニャはミルディス公国をみつけ高度をゆっくり落としていく。
まだ急激な速度の調整が自信がなく、拙い移動になってしまった。
カーニャの背に羽ばたく翼は今とても小さくなっていた。
最初に力いっぱい羽ばたいた時はカーニャの身長の何倍もある翼だったが、今は小さな金色の羽が腰から生えている。
カーニャの腕より短いものだった。
そのあたりも気になってカーニャは確認しながら下りていく。
「服に穴が開いたりしていないから‥‥これは魔力で出来ている?」
ぱたぱたとはばたく姿がなかなか可愛いなとカーニャは気に入った。
色々姿勢を変えてみたりすると、翼はそれに合わせて色々と動きを変えた。
「これは‥‥たぶん実際にこれで飛んでるのではなく、飾り?シンボルみたいなものかしら?」
色々と試してみたい気持ちが他にもあったが、まずはレオニスとユアを探そうと高度を落とし、雲に飛び込んだ。
ユア達はついに最上部と思われるフロアまで到達した。
「ここは?」
階段を上り詰めた先は長い明るい回廊になっている。
左右にガラスの部屋がいくつもあり、先の方では回廊にまであふれた壊れたガラスが積まれていた。
一塊になって進んでいく5人は左右を見回す。
「なんか不気味だよ?半透明の影獣が蠢いている」
ユアの感想通り波打ち揺らぎながら左右のガラスの部屋の中で影獣が薄れていく。
「消えちゃったよ?」
ノアの言うように薄くなったまま消えていく影獣達。
「何が‥‥おきているの?」
アミュアが疑問をこぼした。
「進んでみよう‥‥」
ユアが告げて先へとすすんだ。
こうしている間にもミルディス公国中で、人々が苦しんでいるのだ。
「待って!ユアおかしいわ!」
アミュアが突然大きな声でユアを止めた。
「こ、この気配は‥‥アグノシアだわ‥‥」
「ええ?!」
ユアも驚いてアミュアの側に戻り抱きしめる。
「アミュア‥‥こわいよぉ」
ユアはアグノシアでアミュアを失いかけた記憶があった。
「‥‥進みましょうユア‥‥慎重に行けば大丈夫です。完璧ではないですがアグノシアは一度解析しています」
「アミュアあたしの側にいて‥はなれないで」
ぎゅっと腕を組んで進む二人に、残りの3人が恐る恐るついていく。
右手のガラスの部屋にごうごうと影獣がいてプリズムの帯に囚われている。
見間違いようのないアグノシア発動の姿。
それを確認すると同時にラウマとノアが反応する。
『おかあさま!!』
だっと駆け出す二人を慌てて追いかけるエイシス。
アミュアとユアはちらりとアグノシアをみつつ、ラウマ達を追いかけた。
「ああ!おかあさま!ラウマさまあ!!」
ラウマがすがりつこうとするのだが、結界のようなものに阻まれ進めないでいる。
女神ラウマと女神ノアが並んで壁に拘束されている。
(逃げるのです!オリジナルと争ってはいけません!)
女神ラウマの神威が溢れ出し、全員に伝わる。
(ノア‥‥あぁ愛しい我が娘‥‥どうか生きて‥‥)
女神ノアの神威も全員に染み渡った。
その姿は他の影獣達と同じで、ゆらぎ消えかけていた。
アミュアは冷静にディテクトマギを放ち、周囲の魔力を確認する。
「ラウマ‥‥無属性の結界だわ‥‥なんだろう飛行魔法に似た気配がある」
「でぃ‥ディスペルを‥‥」
ラウマが詠唱を始めるがうまくいかない‥‥焦っているのだ。
アミュアが無詠唱のディスペルマジックを放つが、簡単に弾かれてしまう。
「ああ!だめえ!」
女神ラウマと女神ノアがゆっくりと薄れて消えていく。
慈しみの瞳をその娘たちに向けたまま。
結界に三姉妹がすがりつく中ですっと2柱の女神が消えてしまった。
ふわさとその美しい女神の衣装だけを残して。
「いやあああぁ!ああああぁぁ!!!」
ラウマは泣き叫びくずおれる。
ノアもアミュアも真っ赤な目で、そのラウマにすがりついて泣いた。
エイシスがユアにすがりつきもらい泣きしてしまっていた。
ユアの目も赤くなり、視線を逸らし雫が落ちていく。
そらした先にはまがまがしいアグノシアの光。
さらにその先には割れ砕かれたガラスの堆積をみた。




