【第84話:グルドトライドレイク】
ゴフウウウゥゥウゥゥウゥゥゥゥ!!
部屋の入口に三人がかりで貼った結界が震える。
ビリビリとヒビが入った所でやっと炎が収まった。
「なにあれ?!ずるいんだけど?!」
ユアは涙目で叫んだ。
パリンと割れ砕ける結界の向こうは神殿のような巨大な空間。
その白と黒の広大な部屋に黄金の巨体が鎮座する。
部屋の巨大さに負けない大きさが有る。
一旦偵察に入ったユアが死ぬ気で外まで逃げてきた後だ。
「はぁ‥はぁ‥」「はぁ‥はぁ‥」「ふぅ‥はぁ‥」
アミュアとラウマとエイシスの三人で、全力の火炎耐性結界を、通路との間に3重に発動してやっとブレスを防ぎきったのだ。
黄金の巨竜はシルヴァニアに匹敵するサイズで、3つの口から火を吹いて出迎えたのだった。
回廊からこっそり中を覗くノア。
「黄金の三首竜‥‥かっこいぃ‥‥」
頬を染めて見つめる先で、長い首が動きゆらゆらとこちらを牽制している。
「いや‥‥反則でしょ!?あんなの」
通路はここで途切れ、この先にはあの竜の後ろまで行かなければ通れないと、確認済みだった。
ユアはだらだらと汗を流す。
炎のブレスの余波だけではない汗だった。
「ユア‥‥雷神は使えないのですか?」
「つ‥‥使えるけど‥‥後一回撃ったらおわりなんだよぉ‥‥魔王に残さないと」
女神ペルクールの言う通り、節約してきたが、ユアの感覚では最大出力一回分の残量だ。
ここで撃てば、雲を出るまで使えないと解る。
「‥‥わかりました。ラウマ、エイシス‥‥相談です」
くいとラウマとエイシスの首を両脇に抱えてしゃがみ込み、こそこそ話すアミュア。
(あれを倒せるのは3種以上の上級複合魔法がいります)
(え?3人も同期はむりでしょ?)
(わたしも制御はちょっと苦手です)
(外部複合魔法の同期は私が魔導波動制御で強制的に揃えます)
(ええ?!どうやっって?)
(体内から波動で操作します‥‥)
(え‥‥)
(えと‥‥口でいいですか?)
(口は魔法を詠唱するのです!)
(あ‥‥)
(まさか‥‥)
(体外から操作は流石に無理です、できるだけ身体の中心部が好ましい‥‥諦めましょう)
(ええぇ‥‥)
(そんなぁ‥‥)
「ん?どうしたの?」
ノアが気になってつんつんとユアを指で突く。
「さあ?なんだろうね?」
すっと立ち上がったアミュアが言う。
「ユアとノアでなんとかあの竜のヘイトを20数える間取って逃げてほしいです」
「イヤむりでしょ?!」
「あの部屋の中じゃむりだよぉ」
アミュアが真剣な眼差し。
「三人で外部複合魔術を撃ちます。どんなに頑張っても魔力同期にそれくらい必要です」
外部複合魔術は発動者の魔力量とタイミングが揃わないと発動すらしない。
ラウマとエイシスはなぜかもじもじして赤くなっている。
「今からわたしの全力で支援強化魔法を二人にかけます。それでなんとか逃げ回り、こちらを向かせないでください。ユアとノアも見てはいけません」
ユアもノアもコテンと首をかしげる。
『なんで?』
「ダメです!」「みないでぇ‥‥」
ラウマとエイシスも見るなと言う。
「あのレベルの竜では防御結界で生半可な魔法は通さないです。それ以外にあれを倒せる攻撃がありません‥‥」
アミュアは至って真剣だが、頬が赤い。
「わかった‥‥これ以上時間がおしい。やるよ」
ユアがすっと戦士の目になる。
ノアも真剣になり頷いた。
アミュアが長大な詠唱から魔力を吹き上げ、第四階梯の強化魔法をユアとノアに掛ける。
「そう長くは持たない魔法です。作戦開始!」
アミュアの号令でユアとノアが自前の強化魔法も全力投入して駆け出す。
すでに飛んでいるかのような速度で竜に向かった。
アミュアは波動制御術式を発動し、指を上向きに2本立てて輝く波動の印を成した。
両手を二人に突き出す。
ビイイイィィィィと魔力波動の音が大きく唸る。
「ほら!二人ともはやくする!」
「ふえぇ‥‥」
「クスン‥‥」
ラウマもエイシスも真っ赤になりスカートの後ろをめくった。
「くぅ!」
ユアのひねった身体の上下を首がかすめていく。
「ブレス無しでもつよいな!!」
ユアのこの異常な速度を補足して首や尾が振られるのだ。
視界の端でノアもピョンピョンと天井と床の間を飛び回っている。
「くはあ!!」
避けきれず短剣で上に流すユアが吹き飛ぶと、追いかけるようにもう一本首が来る。
ユアは決死の表情で瞬歩を使い前に出る。
あぎとが落ちる寸前に鼻先を蹴り後方宙返り。
バクンと恐ろしい音に続けて後方からも口がガブリと閉じる。
ユアはそこまで計算して上に飛んでいたので、足元で牙が噛み合わされた。
「ひゃあ!ぎりぎりなんだが?!」
さすがのユアをして首二本がギリギリで、ノアは首一本でも苦戦している。
「ユア!!!」
アミュアの叫びに反射で目を向ける。
アミュア達三人の前に黄金と紫と緑の魔力が渦巻いていた。
「のああ!!」
「がってん!!」
ユアの叫んで左右に同時に逃げる二人。
こうして首が届かない逃げ方をするとブレスが来るのだ。
2つの口が限界まで開きオレンジの炎が燃え盛る。
(あ‥‥これは死ねるよ‥‥)
この状態からどうやっても範囲の外には逃げられないユアは覚悟を決めた。
巨大竜のファイヤブレスをクロスファイヤでもらう状態だ。
物理的に安全地帯は無いだろう。
(ちぬぅ‥‥)
『シュヴィエサ・リヒトゲリヒト!!』
『エルデンアンブラス・モール!!』
『エクリプス・ゲイル・シュトア!!』
ゴォオオオオオオオオオ!!
アミュア達の魔法が発動し、3本の巨大なビームが絡み合い螺旋を描く。
本来は混じらない光と闇を風魔法の極大単体魔法で遮り螺旋と成した。
究極の制御を求められアミュアの顔は真っ赤になり、毛細血管の破裂であらゆる穴から血が吹き出す。
血涙を流し、耳と鼻からも血が落ち、銀ロッドから余剰魔力をバシュウと拭き散らしていた。
そして後ろにはなぜか真っ赤になって横すわりのラウマと、女の子座りのエイシスが座り込んでいた。
ボヒュウゥゥ!!!
「あふうう‥‥」
ごうごうと魔力に包まれ大穴を開けて燃えている骸を前に、息を吐きアミュアがぺたんとくずおれた。
その両手が少し濡れているのが、この複合魔法の肝だとは3人以外知ることはなかった。
こうして上級3種複合魔法によって、黄金3首竜をくだすアミュア達であった。
アミュアは、ふふっと誇らしげに笑みを浮かべながら、両手をローブでふきふきしていた。
「やーん‥」「クスン‥」
ラウマとエイシスも涙を拭うのであった。
「やったね!」「いえい!」
パチンとハイタッチのユアとノアには三人の様子は伝わらないのであった。
ラウマとエイシスとアミュアは今まで以上に親密になった。




