【第82話:たたかいのはじまりを告げる】
巨大なスロープを駆け上がるユア。
右手にアミュアを左手にラウマの手を引きながら、強化魔法の赤い光をまとい飛び跳ねるように上部にたどり着く。
「くぅぅう!!」「あぅうう!!」
アミュアもラウマも必死にユアの手を両手で握って全身が後ろに流される力に抗っている。
二人の身体が並行に引かれる速さだ。
ぱっと手が放されて、宙を飛ぶアミュアは咄嗟に強化魔法を高速詠唱。
慣れていない身体強化は無詠唱では咄嗟に出せなかった。
ラウマはころころころところがって止まったが目がばってんになって失神している。
ユアは眼の前に現れた影獣の集団を、左右にばさばさ切り捨てる。
すぐにエイシスをそっと下ろしたノアが横に並び、ユアの右側を支える。
(どんどん雷神の力が減るのがわかるよ‥‥)
焦りを覚えた瞬間に左側にも支える力。
アミュアが水色の魔力をまといクロスコンバットと、ロッドから打ち出す光魔法で一気に押し込んだ。
「ナイス!アミュアたすかった」
エイシスに助け起こされたラウマも頭を振りながら合流し、5人で奥を目指す。
「どこにすすむの?!」
ノアがエイシスをおぶって走る。
「だいたい偉い人は上にいるんじゃない?!」
ユアにおぶわれたラウマが言う。
「あそこに階段です!」
ユアのすぐ後ろを走るアミュアが左手を指さし、全員でひとかたまりに向かった。
階段の上からも影獣が雪崩落ちてくる。
ラウマとエイシスがそれぞれ飛び降り詠唱に入る。
ユアとノアとアミュアが二人の前で防御姿勢。
ガンと勢いのある攻撃を3人がかりで止めて一瞬押し返す。
そのまま前に倒れた三人の頭上を、輝く光を撒き散らし魔法が駆け抜ける。
『アインツェルシュトラール!』
『エンヴィ・ロトシュトラール!』
ラウマとエイシスの上級光魔法と上級闇魔法。
それぞれ黄色と紫のビームを曲射して6本づつ放つ。
オートエイムを付与されたビームが次々と影獣を穿つ。
それで階段の踊り場近辺までの敵が一掃される。
カルヴィリスから聞いていた話で、闇魔法も光魔法並に影獣に効くと知っていた二人の多重発動だ。
開いたスペースを前衛が埋めて一気に進んでいく。
詠唱が終わったアミュアの光魔法が階段上に照射され、黄金に輝いた。
ラウマとエイシスは送れないようにと駆け出した。
カーニャは翻弄されていた。
「なかなかやりおるの?この娘」
「ほんにな‥‥活きが良い‥‥たのしみだな」
「あまり痛めつけるなよ?楽しみが減る」
カーニャの攻撃を軽々といなす影獣達は、余裕をもっていたぶる。
「くぅ!」
ぶんと大ぶりの切り上げを三人ともに下がり避けられる。
止めるより避けたほうが消耗が大きいと知っているのだ。
「はぁ‥はぁ‥はぁ‥」
息が上がっているカーニャは汗もだらだらと落ちる。
ここまでにも何度も避けられて余計な消耗をつのらせた。
影獣達はかなりの上位者らしく、知性も深く感じられる。
(そうとう手強い‥‥回復するひまがないわ)
強化魔法を薄くまとい、身体をできるだけ休ませながら回復を待つのだが、みこされているのか休ませてくれない。
一瞬だけ強化を増やし、後方に飛ぶカーニャ。
ビルの下まで落ちて時間を稼ぎたいと思ったのだ。
しゅっと消えるように加速した一体がカーニャの後ろに回り込んだ。
「あうぅ!!」
ガンと後ろから蹴られてごろごろ転がるカーニャ。
身体強化の防御越しにかなりのダメージが入る。
先程の受け身の時のように手足の制御まで手放して、転がってしまった。
レイピアをガンと蹴り飛ばされ、遂に無手になってしまうカーニャ。
後ろから左右の手を握り、軽々持ち上げられる。
「くひひ‥‥うまそうな匂いだ」
影獣からおぞましい気配を感じとるカーニャ。
くらくらと視界が定まらなかったカーニャの瞳に意思がもどる。
「くぅこのおお!!」
ぶんと左足のかかとが後方に立ち拘束していた影獣に向かうが、バシと別の影獣に足も取られた。
前から近寄る影獣がカーニャの左右の足をとり地面に押さえつける。
「くぅいいぞぉ!もっと抵抗しろよ?!」
後ろの影獣も共に動き、カーニャは地面に縫い止められてしまう。
「くっく、いよいよお楽しみの時間だなあ?勇者さんよ?せいぜい美味い苦痛と屈辱を喰わせてくれよ?」
影獣がカーニャの胸元に爪をかける。
ビリィイとカーニャのシャツが引き裂かれ肌が剥き出しにされた。
「いやぁあああ!!」
カーニャの悲鳴を打ち消すように、ブン!と恐ろしいほどの圧力を伴った紫の光の柱が降り立ち、周囲を包んだ。
「ぐああ!」
「なんだ?!」
「ぐぐ」
手足を押さえていた影獣達が、瞬時に地べたに這いつくばる。
カーニャも地面にさらに押し込まれて意識を失いかける。
(くぅ‥‥なんて魔力圧なの‥‥)
ふっと圧力が消えた瞬間に、パパパと音がして三方向で黒い炎が上がった。
影獣達が一瞬で黒い炎になり上空に吸い上げられていった。
ふわりとカーニャの上に白い布がかけられる。
「無事かい?カーニャ‥‥怖い思いをさせてしまったね」
そっと抱き起こす男はレオニスだった。
「おとうさま?!」
カーニャは事態を飲み込めないでいた。
黒いシルクのチェニックを揺らし、カーニャを横抱きに抱き上げたレオニスが上を向く。
また紫の光りが舞い降り、ふたりは瞬時に移動して消えた。
光は上空のレギオトゥニスから落とされていたのだ。
光柱がきえれば、後には塵一つも残っていなかった。




