【第81話:みんなで帰りたい】
低空を比較的にゆっくり飛んでいる。
新型の風魔法結界は横長の二等辺三角形だ。
翼端が立ち上がり左右の空力を得る仕組みだ。
利点としては6人横並びで仰向けに寝られることと、低速での安定性だ。
制御はカーニャが担当し、推力と浮力だけアミュアが作り出す。
この魔法がレギオトゥニスの妨害をうけないと、すでに確信している6人はそこに緊張はない。
別の部分で、固くこわばった表情になるのだ。
漆黒をなす天に一筋の光もなく、風は冷たい悪意で満ちている。
まるで世界中がそうなった地獄なのだと感じられる中、一筋の希望となり進んでいるのだ。
隠蔽結界と光学迷彩をエイシスとラウマが重ねて、可能な限り見つからず近づきたいと思っていた。
「カルナードが‥‥」
ついエイシスがこぼしてしまう。
左手に見えるカルナードの街があちこち燃えているのだ。
街のアイコンにもなる大きな橋も燃えている場所があり、川面に反射して赤々と目についた。
混乱に乗じようと街側から接近しているのだ。
「すぐ着くよ‥‥」
アミュアの宣言で速度が上がるのが全員につたわる。
隠蔽をすてキィィと風切りの音を響かせ、レギオトゥニスに近づく。
下部に開いているハッチがあり、紫色の光の柱が地上に下りていた。
「都合がいい?」
「そうね‥‥」
アミュアにカーニャが答えた。
事前の打ち合わせで6人まとまって進もうと話していた。
カーニャが操作して、風結界が形を変える。
両端から翼がまきこまれ、先端の尖った円柱状にして、6人をひとまとめにした。
6人で抱きしめ合うように突入する。
パリンとなにかが割れる音がして、ガンと衝撃が来る。
「なに?!」
アミュアは咄嗟に飛行魔法を逆転し減速した。
「防御結界?!」
結界を操作しているカーニャに直接ダメージが返り、つうと額を血が流れる。
「ダメ?!閉じちゃう!いって!ユア!」
ぎしぎしと結界が修復しようとする。
いまはかろうじてカーニャの魔力と拮抗して、先端はハッチ内とつながっている。
キッと一瞬だけカーニャをみたユアが決断。
「カーニャなんとか戻って!!」
そう言ってアミュアとラウマの手を引き飛び込む。
二人は肩が抜けそうな衝撃を受けるが、ユアと共にハッチの上に転がった。
ちゃんと意図が理解出来ているノアも、一瞬だけ悲しげな目でカーニャを見て、エイシスの手を引いて飛んだ。
「アミュア!!まかせた!!」
大きな声で叫んだ瞬間にバリンとカーニャの結界が破られた。
一気に落ちる高度に慌てながらも、再度1人分の結界を展開し滑空に移るカーニャ。
(ユア‥‥お願いむちゃしないで‥‥)
自分の身が一番危ぶまれる状況だが、心に浮かんだのはユアの事だった。
くらりと意識がブレるカーニャ。
(まずい結構バックラッシュきつかった‥‥)
なんとか制御して燃えているビルの屋上に転がり落ちたカーニャ。
ごろごろと受け身をとり、なんとか止まる。
屋上のへり近くで止まったカーニャは手足を放り出しねじれていた。
(いたた‥‥やばい‥‥身体に力が‥‥)
ぶるぶると手をつき気合で半身を起こすが、痺れて身体が動かなかった。
はるか上空となった空には黒々と飛ぶ大地、レギオトゥニスの姿が見えた。
落下するカーニャを補足していたのか、3体の影獣が飛び上がって屋上に現れる。
人型でカーニャより二回りは大きい。
「くぅっ!」
カーニャの目に光りが灯り、気合の呼気が吐かれる。
結界破壊と落下のショックは大きく、立ち上がってもぷるぷると震えてしまった。
腰のレイピアに手は添えたが、引き抜く力が出ない。
(じ‥‥時間をかせがなきゃ‥‥皆んなで帰るんだから‥‥)
勝利条件は全員の生還だと固く誓っていた。
カーニャのこの身は一人のものではないのだ。
失うわけにはいかないと、真紅の魔力をにじませ気合を入れなおした。
「め‥‥女神様なの?」
セリシアは震えながら声を出す。
レヴァントゥスの状態にショックを受けすぎて、思考も回らない。
(お逃げなさい影の娘‥‥その者を救うことは叶いません‥‥貴女の身を案じる心をもつその者が悲しむだけでしょう‥‥)
女神ラウマの気配には慈悲が溢れている。
それはセリシアが受け取ったことのないほどの優しい気配だった。
沈黙していた女神ノアも神威を向けてくる。
(その呪言はわたくし達でも解くことが叶わぬものなのです‥‥貴女まで失ってはその者は浮かばれぬでしょう‥‥セリシア‥最後まで貴女の居場所を告げず術に囚われたのですよ‥‥その者は)
女神達には自分のことすら知られているのかとおののくと共に、告げられた愛有るレヴァントゥスの行動に涙する。
女神ラウマの神威が溢れてくる。
(逃げなさいセシリア‥‥ユア達が来ています。今ならこのレギオトゥニスすらも混乱しています)
セリシアは神威を理解するが、動けない。
「わ‥‥私だってレヴァンを愛しているの!‥‥置いていけない‥‥」
そういってくずおれるセリシアに、女神達も言葉を失う。
女神ノアの神威がそっと届いた。
(では待って見ましょう‥‥勇者の到来を‥ユアと雷神の奇跡ならばあるいわ‥)
女神ラウマも少し下げた神威で続く。
(術に触れてはいけませんよ‥‥今はユアを信じてみましょう‥‥)
そういうと二人の瞳は輝きを失い、闇に沈んだ。
ガラスに遮られた向こう側に2柱の女神は居るのだろうとセリシアにも解るのだが、足も手も思うように動いてはくれなかった。
ただレヴァントゥスのゆれる黒い影と、あふれる赤光の瞳だけをアグノシアの向こうに見るだけであった。




