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【第78話:すすむことを決めた日】

影獣は上位者に逆らえない。

上下はシンプルに力関係で、文字通りの力を基準に自然と決まる。

強いものには逆らえないのだ。

そのように作られていた。

それゆえにセリシアの行く手を遮れるものはいない。

セリシアは影獣の王セルミアに準ずる力を持っているから。

これは実際の力よりも血によるところもあった。

恐らく適切に指導を受け、順当に贄を喰らえばそうなるという力の可能性が序列に影響している。

未来のセリシアに誰も逆らえないのだ。

レギオトゥニスにこっそり影獣達にまぎれ侵入するのも容易なことだた。

なんのセキュリティもそこには存在せず、ただその影獣の序列による秩序が敷かれていた。

(どこ?レヴァン‥‥)

流石に敵地でディテクトの魔法を使うのをためらうセリシアは、潜伏し嗅ぎ回った。

都市にも匹敵する広すぎる城内を影に潜みつつ探る。

どうしても通れない時は、力で黙らせる。

なにか自分の知らない方法で見張られている脅迫感があるので、できるだけ見つからないようにと思うのだ。

丸一日近くこの城内を彷徨って解ったことが有る。

(上に行くほど強い者が居る)

外から見たこの空中の巨大な城を思い出すセリシア。

(半分以上は登ってきたはず)

レヴァントゥスは場合によっては王となれるほどの実力と格がある。

配下をあまり求めないので、王の下に収まっていたとも言えるのだ。

(きっともっと上に居るのだわ‥レヴァン待っていてね。今度は私が助けに行くよ)

フロアを上がる階段や昇降装置には、大抵警備が付いている。

ここは流石に影渡で抜けられないので、実力を示す必要があった。

影からセリシアが滲み出し立ち上がる。

全身に影をまとった影獣本来の姿だ。

コツコツと靴音をさせて歩くだけで、警備をしていた巨大な影獣が跪く。

上位者の歩みを妨げれば、殺され喰らわれると恐れるのだ。

この絶対的な秩序が影獣の強さでも有り、限界でも有るとセリシアは知った。

ユア達の中にある強い想いは、そういった限界を持たないと見せつけられたのだ。

階段を登った先に今度は人型の影獣が一人居る。

影獣は一定の力を持つと人型になれるので、今のセリシアの姿だけである程度力を見せていることになる。

セリシアは怪しまれないように、注目されないように周りに合せて力を押さえている。

行く手を遮った人型に威圧の気をだす。

ごうと一瞬セリシアの輪郭が溢れる。

すっと人型は下がりひざまずいた。

格の違いが解ったのだろう。

(ここからは急がなくてわ‥‥場合によっては侵入がバレた恐れがあるわ)

一気に加速して上を目指すセリシア。




翌日も話し合いは平行線に入ろうとした。

ユアとカーニャの意見が相容れないため、折衷案も取れずにいた。

「おねがい‥ユア。今は耐えるべきなのよ‥‥‥丁寧にいきましょう」

カーニャの説得にユアもゆらぐ。

基本的にカーニャの意見が正しいのだとユアも解ってしまうのだ。

ユアの直感的な部分もあり、こころが急いてしまう。

そんな中お昼前に転機が訪れる。

増援が来たのだった。

「よう、またせたな‥‥」

マルタスがルメリナのハンターを二人連れてきてくれた。

「すまんがずっと居ることはできないんだ‥‥リミットは1周間程度だな」

そうれがマルタスが無理を通して来てくれた限界なのだろう。

ユアはマルタスの手を両手で握る。

「‥‥いつもありがとう‥‥無理させてごめんなさい」

ちょっと感動して目が赤くなっている。

残りの二人にも同じ様に手を握り、頭を下げ感謝を伝えた。

これで部隊を分けるというユアの案が通るのだった。

マルタスと増援の二人は斥候兵としての能力も高く、マルタスは偵察強襲救出などの作戦立案能力も有る。

ユア達より上のレベルだといってもいいだろう。

賢者会も震えあがる英雄マルタスが指揮を取るのだから。

応援3人にイーリス達姉妹と、動けるようになったエイルマルク辺境伯の部下数名が、偵察救出に当たってくれる事となった。

ユア達6人で公都エルガドールを急襲するのだ。

キャンプの護衛もマルタスチームが受けてくれて、ユアへの反対意見はこれで片付いてしまった。

「お母様‥‥どうかご自愛を‥‥」

「カーニャさん‥‥‥‥心に従いなさい‥いつも頭で答えをだせばいいのではないのよ‥‥それは時に大きな後悔を生みます。‥‥‥‥ユアさんの側を離れないで」

「おかぁさま‥‥」

そっといつものやさしいハグがカーニャをあたためる。

「ありがとう‥‥行ってきます」

しっかりと決意を秘めた瞳をエリセラに向けるカーニャ。


「エイシスねえさま‥‥必ず帰ってきてね‥‥」

『ねえさま‥‥』

いつも一番したの妹として甘やかされるエイシスも、下の三姉妹には甘えてもらえる強さを見せなくてはいけなかった。

「三人とも無理をしてはだめよ。マルタスさんの言う事をちゃんと聞いてね‥‥必ずもどるから」

『ねえさま‥‥』

ぎゅっと三人をひとまとめに抱くエイシスは、久しぶりに姉の顔を取り戻した。

(必ず戻らなければ‥‥幸せになれるとこの子たちにも見せなければ)

新たな決意がエイシスを強くするのだった。


「ユア‥‥無理はいけないよ」

「はい‥‥おじさま」

まだ杖が要るのだが、カルディスは己の足で立ち上がってみせた。

カルディスはまず叔父としてユアを抱く。

ユアも姪として甘えられる瞬間だった。

すっと肩を押して瞳を合わせるカルディス。

「ユア‥‥必ず生きて戻りなさい‥‥それは率いるものの務めなのだよ」

「おじさま‥‥」

揺らぐユアの瞳にも光りが強くなる。

実際に率いて敗れ、失っても立ち上がる叔父を見たのだ。

ユアの中に父母以外の教えが1つ刻まれた。

きりりと勇ましい顔に戻るユア。

「行ってまいります‥‥必ず皆を連れ帰ります」

にっこりと笑顔にもどるカルディス。

「それでいい‥‥無事を祈っているよ」

その笑みには女神ラウマに見せてもらった父ラドヴィスと似た気配があり、ユアも自然と同じ笑顔を返す。

「はい!」

ユアもにっこりと笑顔にもどり答えたのだった。


こうしてユア達は後ろを気にせず、進めることとなったのだった。

必ず戻ると約束をして。

ミルディス公国を覆う暗闇は深く、陽の光も季節も感じられなかった。

ただこの涼しすぎる風の中に確かに温かい場所が有るのだと、ユアは心に刻む。

前に進むために。



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