【第73話:カーニャは飛びたい】
ユアがいなくなった翌日。
カーニャ達は予定を話し合っていた。
「思ったんだけど‥‥ここで本拠地にするでもよくないです?」
ラウマの冷静な意見。
「どうでしょう‥‥昨日も今日もたどり着いた人はいなかったわ‥‥」
エリセラの意見には、難民達への心配がにじむ。
エイルマルク辺境伯の傷は重く、意識は戻ったが立ち上がることは出来なかった。
同じような状況の人はこの峠道を登れないだろうと考えたのだ。
「ユアが戻るまでは、一旦待機で良いかもね?安全に行ける所まで、馬車を連れて偵察だけ出しましょう」
カーニャの意見に皆がうなずく。
一旦解散して、偵察の準備などに皆が動く中、カーニャは真剣な表情でアミュアを呼び止めた。
「アミュアお願いがあるの」
「うん、なあに?」
アミュアは振り返り、ほほえんだ。
「連れて行って欲しい場所があるの‥‥飛行魔法の件よ」
アミュアは理解を示す。
カーニャはあと一歩まで飛行魔法を覚えたのだが、何故か消費が激しく使い物にならなかった。
アミュアの読み取るカーニャの式構成に問題点は無かった。
「こないだ言ってた、別の飛行魔法ね。本当なら試す価値があるとおもいます」
アミュアも気合をいれた。
現時点で最大の問題点は、あの雲の中では飛行魔法もレビテーションも使えない事だった。
エイルマルク辺境伯の話で、公都の軍がレビテーションで潜入しようとして、高空から落下して、部隊が半壊したらしい。
カーニャもアミュアも経験した打ち消しだろうと考えられた。
そこでカーニャが別の飛行魔法を見たことが有ると言い出したのだ。
「その飛行魔法の構成を間近で一度見たんだけど、解析までは出来なかった。でも、あきらかにアミュア達の式と違ったの」
カーニャはその使い手が雪月山脈にいると言うのだ。
「もちろん良いよ。ラウマ達にも言ってくるね」
笑顔のままアミュアが出ていく。
カーニャも続きながら思う。
(後は‥‥教えてくれるかどうかなのよね‥‥)
雪月山脈の奥地は夏でも雪が残る。
今は秋口なので一番雪は少ないはずだが、それでも山頂は白かった。
アミュアに抱きついたカーニャが指示を出す。
「あそこに下ろして!」
「りょうかいぃ!」
実はカーニャは目的地がわからない。
なにしろ何年か前に一度だけきた場所だし、目的地は隠里なのだ。
見つけられないよう工夫されていると想定される。
カーニャ達は残雪の間際に下りる。
「ここで試すわ‥‥」
カーニャの記憶が正しければ、頂上より少し下で、西側斜面なのだ。
その条件で、下りられそうな場所を探していた。
皮マントを外し畳んで敷物にする。
そこにあぐらをかいたカーニャが瞑想する。
「アミュア‥‥まかせたわ」
瞑想中は身体だけが残るので、無防備になる。
「うん、大丈夫ドラゴンが来ても平気だよ」
冗談ではなくアミュアなら平気なんだよな、と思いながらカーニャは瞑想に入る。
カーニャの瞑想は月夜の庭を想う。
あの半月ののぼる庭だ。
前は違う場所だったが、ユアを好きになってからはここになった。
すみやかに移行できて、月を見上げた。
(でっかいな‥‥月)
カーニャの世界には巨大な半月があるのだった。
目を閉じ集中する。
(師匠‥‥お力をお借りしたいのです‥‥どこですか‥‥)
カーニャが17才の時に一夜しか会っていない相手だが、その魔力はよく覚えていた。
自分の魔力にそっくりだったから。
山に浸透させるイメージで心の手を伸ばしていくカーニャ。
すっと手を引かれるような感覚があった。
(カーニャ‥‥いったいどうしたのです?)
あいても驚いたが、カーニャも驚いた。
ダメ元のつもりだったのだ。
(師匠‥‥教えてほしいことがあるのです‥‥お招きいただけますか?こちらは二名です)
カーニャの説明にしばしの間が有り、応えがあった。
(わかりました、お話は聞きましょう)
すこし戸惑いをふくんだ心がこたえた。
(ありがとうございます!)
パチと目をあけると目の前にアミュア。
「おかえり?」
上半身に前抱っこされていた。
「どしたの?」
「さむいかなと思ったの」
「なるほど」
そういってアミュアをぎゅうと抱き締めるカーニャ。
なるほどあたたかいと思っていると、上空に気配。
ぱっとアミュア抱きしめたまま立ち上がり、仰ぎ見た。
音も立てずに少女がゆっくり降りてくる。
地上に降り立つ少女はふわりと長い金髪を下ろした。
年の頃はアミュア達と同じくらいで、カーニャよりも若い。
「ひさしぶりですカーニャ‥‥そちらは?」
「ご無沙汰してました師匠。これは妻の妻です」
「??」
「ふくざつなのです。それは後で説明します」
カーニャはちょっと照れる。
「ハジメマシテ」
アミュアも挨拶をした。
びっくりして前抱っこのそのままだった。
そしてこのままでは失礼だと思いだしてカーニャから降りてお辞儀をした。
そこは楽園のような空間だった。
全体は大きな釣り鐘のような形で、外壁が天頂であつまり尖った天井になる。
外壁は全て水色の水晶で出来ている。
床は平で芝生のような緑が広がり、そこに白い石材で幾つのも円が重なっている。
直線のない階段のように重なり一番下は水色のプールの様になっている。
そこに何か所か水晶から小さな滝が落ちていた。
きょろきょろするアミュアもカーニャといっしょに飛行魔法で運ばれてきた。
かなり狭く複雑な通路を抜けるので、慣れてないとあぶないと言われ、連れてきてもらったのだ。
「すごい‥‥全体的に魔力が満ちている‥‥」
アミュアは素直な感想を持つ。
「わたしも三年ぶり?くらいだわ」
「へぇ‥‥そのころのカーニャはおおきさアミュアと同じくらいだった?」
アミュアの目線はカーニャの胸だ。
「もうちょい大きかったかな?」
カーニャはアミュアの身長を見ていた。
招いてくれた白ワンピの少女が、石材のテーブルにかけて手招く。
二人は、まよったが靴を脱いで石材の上に上がる。
少女が裸足なので靴はまずいかなと遠慮したのだ。
ぺたぺたと裸足で歩いていく。
「別にそのままでいいのですよ?」
カーニャは照れくさそうに言う。
「よごれちゃいます」
二人の気遣いに少女もアイスブルーの瞳を細めて、にっこりと微笑んだ。
アミュアもうんうんとして並んで少女の向かいに座った。
見た目だとカーニャがお姉さんで、二人の妹に見えるのだった。




