【第71話:助けられること】
雪月山脈越えの峠道を山頂部に戻った。
ここまでにも3組の逃げてきた家族とすれ違った。
食料と暖まれる衣類を少し分けてルメリナを頼るよう言って別れた。
夏が終わり、これから気温は下がっていくのだ。
山頂部からはすでにあの雲が見えて、ミルディス公国側を覆っている。
山を下り終えたら恐らく雲の中だろうと想像できた。
今夜はここで休んで、いよいよ明日からミルディス側に入る。
いつもの手順でついつい焚き火を起こすユア達。
「えへへ、ついつい始めちゃうね、焚き火」
「うんうん」
「落ち着くよね」
二人の妻を左右に侍らせたユアが、お茶を振る舞っている。
先日公都エルガドールで仕入れてきて、茶葉は充実していた。
皆とエリセラは大型馬車の性能試験も兼ねて展開し、そちらで休んでいる。
馬車2台を水平にならべ、間に布のキャンパスをはりテントの様に仕上げるのだ。
そこに簡易ベッドを並べ、難民キャンプとする予定なのだ。
「完璧ね親方。ありがたいわ」
「いえいえ魔導男爵さまのお役に立ててさいわいでさあ」
てれる親方に、ほほえんだエリセラだった。
前回最後に見てから雲が広がっていないので、今なら先日泊まったドレクハイム辺りが端だろうと見ていた。
行ってみないとわからないが、もしドレクハイムが雲に沈んでいるなら、ダウスレムの古城あたりが標高も高いので良いかもと話し合っていた。
そうして野営の準備をしていると、ミルディス公国側から馬車がやってくる。
中型の6人乗りのもので、ボロボロだが高級な作り。
ユアは素早く戦闘態勢をとり、目線でアミュアたちにも指示を出す。
ノアは素早くユアに並んで前衛だ。
既に聖剣を抜き右手に持っていた。
ユアは抜剣せずに近づき声をかける。
「大丈夫ですか?こちらはヴァルデン王国より来ている救助のものです。支援を求めますか?」
馭者の男も片腕をつっており、怪我をしているようだった。
「ノア偵察」
「りょうかい」
ユアの指示で馬車をこえ後方のミルディス公国側に偵察にでるノア。
馬車は大丈夫とユアが判断したのだ。
「たすかる‥‥もう護衛の騎士さまも倒れてしまって俺だけだ。車内に貴族さまを載せているのだ、怪我をなさっているので、医師がいるならば見てほしい」
そういって男は馬車を止めた。
偵察にでたノアが二人救助してきた。
「3人目は影獣に食べられてた」
そう言って半分になった3人目も連れ帰ったのだ。
ノアはとても悲しかったので、ラウマに抱かれてシクシクとないている。
「もう少しノアが早かったら助けてあげられた‥‥」
ラウマはそっと包むように抱きしめてノアに囁やき背をぽんぽんとたたく。
「ノアはがんばったよ、しかたなかったんだよ」
死体を見るのも、なんだったら作るのも初めてではないが、ノアは悲しんだ。
馬車から救い出したのは3人と馭者の男なので、これで6名救えた事となった。
試運転の様に動かしていた難民キャンプがそのまま使えて、すばやく看護することもできた。
その車両の隙間に作られたテントの入口は左右から引いてきたカーテン状のキャンパスだ。
看護に回っていたアミュアに呼ばれたのでユアはカーテンを開け入る。
馬車から救った男の一人はカルディス・エイルマルクだった。
「カルディスおじさま‥‥」
ユアを認めて目を片方開けたカルディスの表情が歪む。
痛みをこらえ笑ってみせようとしたのだ。
崩れるように簡易ベッドに寄り添ったユアは、そっとカルディスの手を取った。
「ユア‥‥偶然なのか?神に感謝を‥‥」
カルディスは叶う限りの情報を伝えてくれた。
他に話したいことも有っただろうに、公都エルガドールの状況と、遅い来たレギオトゥニスの事を伝えてくれた。
「‥‥おじさま‥‥もう休んで‥‥」
ユアはもう涙が堪えられず震えて手を握り続けている。
「ユア‥‥円環を使おう‥‥」
アミュアがユアにそっと耳打つ。
ぶんぶんと首をふり涙を散らすユア。
救助には女神ラウマの奇跡を使わないと決めていた。
一人助けるのは不公平となるし、全て救うことなど出来ないとユア自身が決めたことだ。
「でも‥‥」
アミュアがユアを抱きしめる。
「ラウマ様に次にいつ会えるか判らない‥‥」
有限の奇蹟を使うことに躊躇するユア。
アミュアがノアとラウマを目線で呼ぶ。
2人も必要だと思い待機していた。
三姉妹が円になり手を繋ぐ。
ユアはそれを止めることも出来なかった。
カーニャがそっとユアを抱く。
「ユア‥‥冷たく聞こえるかも知れないけど。エイルマルク様は貴族よ。一般の人と違うの」
ユアはついに涙をこぼす。
「そんなの!」
それ以上言葉にならないユア。
黄金の輝きが溢れんとするが、ラウマが制御にまわり逃さない。
ユアが入らないほうが制御しやすいらしい。
カーニャは辛そうに告げる。
「貴族は責任がある。情報も多く持つわ。それを活かさなければいけない」
カーニャ自身もその様に教育され生きてきた。
光りは一瞬で収められた。
カーニャがユアを胸に押し付けながらささやく。
「貴族は生きる義務が有るのよ‥‥」
ユアの気持ちを想えばカーニャも辛いが、伝えなければと姉の瞳を保っていた。
アミュアが進み寄り告げる。
「命を取り留める所まで治したよ。ユア‥‥」
アミュアも辛そうにする。
ユアに正面からアミュアが逆らったのは、これが初めてだった。
カーニャは腕を伸ばしユアを見つめる。
「選べるものには、選ぶ義務も有るのよ」
キリっとしたカーニャの瞳に甘えは無かった。
真っ赤になり涙をこぼしていたユアも、瞳に力を戻すのだった。




