【第70話:たちむかうために】
その日の夜は久しぶりにひまわりハウスのバーベキューだった。
もう恒例なので、マルタス達オフィスからも人が来て準備から手伝ってもらう。
すでにルメリナ南部地区のお祭りのような位置づけであった。
「そうなんだ‥‥じゃあ今日はあまりうるさくしないようにしよう。皆にも話しておく」
「おねがい‥‥お料理だけわたしが後でもっていく」
ラウマとユアで話していたのだ。
おとなりのおじいさんは体調が優れないので、今日は不参加とのことだった。
ラウマはひまわりハウスのシェフとして一番おとなりのおじいさんと話をして、仲が良い。
さみしそうにするラウマが心配でついユアは抱きしめてしまう。
ふわりと抱いて耳元にささやく。
「大丈夫きっとすぐによくなるよ」
「‥‥うん」
ラウマの表情は晴れなかったが、すこし力を戻してくれた。
皆にもはなして静かにと始めたが、酒がはいるとだんだんうるさくなったので、ラウマは渾身の結界をおじいさんの家に貼るのだった。
「これで静かになるはず‥‥はやくよくなってね」
にっこりラウマは笑うのだが、心から笑うのは難しいようだった。
セリシアはレヴァントゥスの秘密の拠点に戻っていた。
王都西部の山岳に隠されたそれなりの大きさの拠点だった。
レヴァントゥスは世界中に似たような隠し拠点を持つが、ここは特に大きく設備が整っている。
この拠点で再調整の後遺症にも耐えたセリシアだった。
実はここはセリシアが初めて訪れた影獣の拠点でもある。
王都の研究所で育てられたセリシアは10才頃にレヴァントゥスに引き取られ、セルミアの元に連れられた。
セルミアは最初興味をもたず、レヴァントゥスに教育を任せると預けたので、ここで大人になったとも言えた。
研究所では戦闘訓練と魔法教育がメインで一般常識にはあまり力をいれてなかった。
ここで一から家令達やメイドに仕込まれたのだ。
そのころのセリシアの心はただの少女と変わらなかった。
そうしてセルミアには道具としてしか見られていないと不憫に思ったレヴァントゥスはセリシアに愛情を与える。
セリシアは恋心を抱き、レヴァントゥスに焦がれた。
レヴァントゥスは速やかに察して距離を置き、セリシアはとても淋しい少女時代を送るのだった。
徹底してレヴァントゥスは主君の妹として、弟子として扱う。
セリシアはそれでもレヴァントゥスといられるのを喜んだ。
レヴァントゥスは騙すことになってもいいと、セルミアの真意を曲げセリシアに伝えた。
愛されているのだと伝えた。
優しく思いやりのある素晴らしい姉なのだと。
愛情に焦がれたセリシアは飛びついてしまうのだった。
その優しい嘘に。
今の拠点は完全に無人で、使用人すら居なかった。
あちこち見て回れば、セリシアが過ごした日々の思い出があり、レヴァントゥスが恋しくなった。
この施設で後遺症に苦しむセリシアを、愛をもって更生させてくれたのもレヴァントゥスだった。
そうして愛してもらうことでセリシアは立ち直ったのだ。
この施設には秘密の魔方陣がある。
太古に失われた転移の魔法陣だ。
この拠点には2つあり、1つはミルディス公国の西部に繋がり、もう一つはルメリナとノルドヴァルドの中間にある小さな岩山に隠されている。
その1つが作動し、知らせを主人の一人となっているセリシアは受け取る。
誰かが拠点に戻ったのだ。
セリシアはなんの疑いもなくレヴァントゥスだと思い、魔法陣の隠し部屋に入った。
「レ‥‥どうしたの?!しっかりして」
そこにはレヴァントゥスの部下である家令の一人が倒れていた。
両足がなく、顔色は最悪だった。
助け起こすとセリシアを認識し声をもらした。
「せ‥りしあさま‥レヴァン‥トゥスさまが‥とらわれました‥まおう‥」
それ以上の言葉はでてこず、男は固まったまま動かなくなった。
セリシアも幼い頃から知っている男だったので、そっと目を閉じて弔いの影炎をあげる。
影獣は互いを食らうことでも力を増やすので、影で喰らうことで力にするのが弔いにもなる。
セリシアは瞳に赤い光をにじませる。
久しぶりに影獣としての力が湧いてきた。
「ゆるさない‥魔王だかなんだか知らないけど‥とりもどすわレヴァンを」
セリシアは全身に影をまとい赤い光を両目に灯した。
それはユア達には見せたことのない影獣としてのセリシアであった。
影獣女王セルミアの妹のセリシアだ。
スリックデンからエリセラとエイシスが戻った。
家人を10名老若男女取り混ぜ連れてきた。
大型の自走馬車も入手し、色々と物資も積み込んできてくれた。
2台の大型馬車だけで簡易の拠点を成せる仕組みも工房の強力で準備してくれたそうだ。
「エリセラさんおかえりなさい‥ご無理をありがとう‥」
ふわっとハグで迎え入れるユア。
もうひまわりハウスでもこれは恒例なのだ。
エイシスも抱いておかえりと耳元に囁くユア。
前なら真っ赤になったエイシスも頬を染める程度になった。
人の体温にだんだんとなれてきたのだ。
スリックデンからはいつもユア達の装備や馬車などを見てくれる親方も来てくれた。
「おうユア、なんか面白そうだから手伝ってやんわ!」
わははと笑う親方にもハグをするユア。
「おやかたぁ‥ありがとう心強いよ」
技術職が一人いるだけで色々と捗るのだった。
エイシスより真っ赤になったドワーフの親方はユアの背中をばしんと叩いた。
「まかせとけ!」
そういって照れ隠しをして笑った。
スリックデンの工房は若手の頭に任せて引退としてきたらしい。
ことがなったらルメリナに住むというのだ。
ルメリナにはちゃんとした工房がないので、弟子を取って営業すると言ってくれた。
ルメリナのすみれ館からも、支援として中古の寝具や食器を分けてくれた。
そうして沢山の善意を少しづつ集めてくれて、ユア達を送り出してくれたのだった。
忙しいだろうに見送りにも沢山の人が集まってくれた。
代表してマルタスが声をくれる。
「無理はすんなよ‥必ず戻れユア‥‥お前が居ないとオフィスがさみしい‥‥」
そういってふいと居なくなるので、副所長のローデンさんが引き継いで話しをしてくれた。
「マルタスはあれでお前らのことが好きなんだよ。心配してるのも本当だ‥‥ルメリナは任せておけ。存分にあばれてこい!」
わあと皆からも声をもらい、ユアの白い馬車を先頭にミルディス公国を目指し旅立つのだった。
メンバーにはイーリス、エーリスとエーシスも加わり、6人姉妹に3人姉妹がたされエリセラを加えた10名の中心メンバーと、非戦闘員が11名となる。
これがこの時点でユア達の準備できた全てだった。




