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【閑話:それもまた里帰り】

カルヴィリスが妊娠したと気付いたのは、医者にかかったからでも妊娠検査薬を使ったのでもない。

アイギスと愛し合った時に感じ取ったのだ。

(‥‥なんだろう‥‥今温かいものがお腹に‥‥)

そうして2ヶ月もすれば検査薬でわかるなと調べて確信を持ってアイギスに報告した。

驚くか、もしかしたら嫌がられるかもと覚悟して話したが、涙をながして喜んでくれた。

アイギスの涙を初めてみたカルヴィリスも、ぽろぽろと泣いてしまった。

それから二人で出会って、初めて愛を語らったあの家に行きたいとカルヴィリスはねだった。

アイギスも賛同してくれて、どうせなら新婚旅行だとなった。

新婚旅行が決まってから結婚したのだ。

色々と順番がおかしいなとカルヴィリスも思うのだが、とても幸せなので順番などどうでも良かった。

そうしてノアにだけ本当の事を告げ、皆には結婚して新婚旅行だとだけつげて南回りの旅に出たのだ。

あちこち二人で見ながらゆっくりと周りあの家も、死んでしまったペットの犬のお墓も参り、公都エルガドールに至った。

予想外に知り合い達に出会ったが、ユア達に最後は泣きつかれてルメリナに帰れと言われた。

だいぶ公都エルガドールもミルディス公国もきなくさいのだと。

「今夜はここらで野営になるな‥‥」

相変わらず夫アイギスの言葉は少ないが、そこに言葉以上の想いを込めてくれているとずっと前から知っているカルヴィリス。

前は使わなかったテントを必ず立てるのも、カルヴィリスの身体を想ってのこと。

いらないと言ったらお願いだと頬を染めて言われて、また泣きそうになった。

(なんて幸せなのだろう‥‥)

明日にはダウスレムの古城に寄れるので、ダウスレムに報告したいなと考えていた。

(ダウスレムさまは何と言うだろう‥‥)

テントのあたたかな寝具の中で、ぼんやりとそんな事を考えたカルヴィリスだった。


翌日予定通り古城まで来た二人。

正式な名をルイム・ザニカ・ザヴィリスブルク城という。

これは歴史で言えばミルディス公国よりも実は古くからある城なのだった。

カルヴィリスはその歴史をすべて知っている。

ダウスレムと共に戦い抜いた歴史だ。

「ダウスレム様にご報告したいの‥‥付き合ってくれる?」

「あぁ‥‥」

そういって二人で玉座まで来た。

ここを目的地に来たのだが、カルヴィリスは何かちがうなと感じた。

黙っているとずっと話さない夫はとても無口だ。

「ごめん‥‥ここじゃないと感じる。地下まで行きたいの‥‥いい?」

「あぁ‥‥」

そうして二人で玉座の後ろの階段を下りて、かつてアイギスを捉えていた地下牢まできた。

「なつかしいわね‥‥」

「あぁ‥‥」

この男は「あぁ‥‥」しか言わないのかと心配になるカルヴィリス。

(今日は‥‥いつも以上に無口ね?なにか気に入らなかったのかしら?)

そうしてちょっと心配になりつつ隠し階段も下りてさらに地下に行った。

そこはダウスレムが守り抜き、そして最後の地とした深淵の井戸の部屋。

吹き飛ばされた扉をまたぎ入室した。

(あぁ‥‥やっぱりここがあの御方の眠る地だわ‥‥)

深淵の井戸は今は沈黙している。

そっとひざまづいて、両手を組み黙祷するカルヴィリス。

東方の死者への祈りだ。

無言でアイギスも並んで黙祷してくれている。

(ダウスレム様‥‥この者と結婚いたしました‥‥あと‥‥こ、子供も授かりました‥‥)

報告することは決めていたが、いざダウスレムに向けて報告しだしたらたら、とんでもなく恥ずかしかった。

真っ赤になるカルヴィリスは、最後にお礼だけを言いたかった。

(ダウスレム様‥‥わたくしなどのことを最後までお気をかけていただき、ありがとうございました‥‥子が産まれましたらまた報告に参ります‥‥)

そういって立ち上がると、先に祈り終えていたアイギスがそっと抱きしめてくれた。

自分でもきづかず、また涙が流れていた。

そっと背中を撫でてもらうと嗚咽が漏れてしまった。

(これでは‥‥本当にただの女だわ‥‥)

そう誇らしく思うカルヴィリスであった。

「ありがとうあなた‥‥帰りましょう」

「あぁ‥‥」

このたびの中でアイギスの事を「あなた」と呼ぶようになったカルヴィリス。

それもまた、ありきたりだなと、とても嬉しかった。

少し戻りながら城がすべて見える辺りに今日は泊まることとした。

キャンプを準備し終えたアイギスにそっと尋ねる。

「どうして今日はあぁとしか言わないの?」

「いや‥‥ちょっと緊張していたのだ。ダウスレム殿は武人であったろう?軟弱だと怒られるのではないかとな‥‥」

そういって頬をそめるアイギス。

クスクスと我慢できずにわらってしまったカルヴィリスはぎゅうと夫を抱き締める。

「あいしてるわ‥‥あなたぁ」

そういって唇をねだってしまうのであった。

夕闇にはまだ早く、アイギスはさらに赤くなり、カルヴィリスは幸せを噛みしめるのだった。

まるでただの女のように。



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