【第66話:みたびめの町にて後編】
ホテルを予約してから、オフィスで情報を求めたが、驚くほど何も知らなかった。
公都エルガドールで起きていることすら把握していない。
不審におもいながらも、ボロは出さず退出した。
「ユア‥‥廃村の祠まで行ってみたいです‥‥時間無理ですか?」
アミュアはわらにもすがる気持ちなのだろう。
「大丈夫、暗くなる前に戻れるだろうし、先にあっちが着いても大丈夫なように支払いも済ませてある」
そういって夜霧を限界の速度まであげて、廃村のよこの像まで来た。
夜霧は祠にもテイムのルールで入れないので、外で待っていた。
ふとユアは前回来た時の二人を思い出した。
(あのときは‥‥アミュアの記憶が半分無くて苦労していたんだ)
ぽろぽろ泣いていた自分やアミュアを思い出す。
その記憶を今では愛おしくも感じるのだ。
「アミュア前に来たときのことって覚えてる?」
「‥‥はい‥‥ユア、あの時はごめんね」
そばに寄り添い、ふわりと抱きしめる温かさを、幸せだなとユアは思う。
「ユアの記憶は最初からわたしの中に仕舞ってあった‥‥それだけは無くさないようにと。師匠の記憶といっしょにね‥‥そしてその記憶だけが思い出せないでいたの」
「うん‥‥あたし思うの‥‥」
「うん?」
アミュアは不思議そうにユアを見る。
その表情に沢山のアミュアが重なる。
小さかったり大きかったり、泣いたり笑ったりだ。
にっこりと笑うユアが告げる。
「辛いことも沢山あったけど‥‥アミュアと一緒にいられて幸せだなって」
申し訳なさを思い出していたアミュアは、ユアの肯定する言葉が心に染み渡る。
「わたしも‥‥ユアが見つけてくれてよかったと思う‥‥ユアで良かったなって」
ぎゅっと抱きつくアミュアをふわりと抱きしめるユア。
(忘れないでいたいなこの気持ちを‥‥‥‥アミュアを幸せにしたい‥これからもずっと)
ユアは改めて心に誓った。
女神ラウマは応えず、接続の感触もないと解り、町に戻る二人。
高原の原っぱを駆け抜けると、気温の低下を感じられた。
季節よりも標高の影響だろう。
この町は麓のルヴィーナよりだいぶ高い土地にあるのだった。
ホテルに着いてもまだあちらは来ていなかったので、一旦部屋に入ってシャワーを浴びた。
夜霧の速度も速く、思ったよりも風で身体が冷えていた。
時短ですとアミュアが言うので一緒に入ったユアとアミュア。
二人で湯上がりのルーティンをこなし髪を乾かして服を着替える。
特別なことは何もしないのに、心まで温まるのは、それだけ二人で重ねた日々があるから。
(ゆらがない‥‥)
ユアはこころが安定してここにあると感じられた。
アミュアと共にあるのだと。
そっとユアの髪を梳かすアミュアが言う。
「あの記憶障害の中でも‥‥ユアの心にふれてキュっと辛かったりしたの‥‥とてももどかしかった」
「うん‥‥思い出せて本当によかった」
ユアの心が揺れ動かないので、アミュアも安心した。
女神ラウマが応えない不安も薄らぐ。
「うん‥‥よかったよ」
そういってぎゅっとユアの背中に抱きついてしまうのだった。
しあわせだよと伝えるために。
全員合流してから、ホテルの最上階レストランで食事兼作戦会議。
ここのホテルは大きさの割に格式高く、上階レストランはドレスコードがある。
一階に貸衣裳もあるので、みなでわいわいおめかしも楽しんだ。
ユアが白のイブニングを選んだので、カーニャが「じゃあ私も」と白を選ぶ。
自然とアミュアも白がいいと言い、ラウマ・ノアが揃える。
ノアがエイシスもだよと白にしてしまうので、6人姉妹が真っ白な集団になる。
それぞれのパーソナルカラーを一色入れて完成した。
セリシアは淡い紫に白レースのストール。
エリセラもクリーム色と、明るく華やかなメンバーで食事を進めた。
今日は宿泊客も少なく、レストランは貸切状態だった。
デザートとお茶のタイミングになり、明日からどうするかを話し合った。
「一旦ルメリナに戻ろう。マルタスさんにも相談したい」
ユアが口火を切る。
真剣な眼差しに皆も気持ちを引き締める。
「‥‥エリセラさんには、スリックデンに一度戻ってほしいです」
ユアは視線をゆるめ、淋しそうに告げる。
もうエリセラに出来ることは無いと言わなければいけないと、気を引き締めた表情になる。
重ねてユアが話す前に、にこりとエリセラが言う。
「わかりました。わたしもミーナさん達が心配なので、いずれ一度戻りたいとは思っていましたよ」
ユアはほっとした眼差し。
控えめに手をあげるセリシアが告げる。
「ごめん‥‥私は一旦拠点に戻りたいの。王都方面に行くから、ここでお別れだわ‥‥」
ユアに淋しそうな目を向けるセリシア。
「うん‥‥ごめんねレヴァントゥスを探すのも手伝いたいけど、今はアレをなんとかしたいの」
申し訳なさそうにするユアを、意外そうに見るセリシア。
「レヴァンのこと嫌いなのだとおもってたわ」
ニコと笑うユア。
「レヴァントゥスはあんまり好きじゃないけど‥‥セリシアの事は大好きだよ。カーニャを気遣ってくれてありがとう」
そして恥ずかしそうに目線を逃がし告げる。
「レヴァントゥスのことも嫌いじゃないのよ?」
クスクスとカーニャとセリシアが笑った。
今のレヴァントゥスもセリシアも影獣の気配がほとんど無い。
カルヴィリスと同じく、人の気配のほうが濃厚で、ふとすると忘れてしまうのだ。
二人が影獣だということを。
そうして方針が決まると後は特に意見もなく、ゆったりと夜を楽しんだのだった。
各々の心にある不安を紛らわし合うように、気遣いながら。
白い塗装の美しいピアノにカーニャが着いた。
目を伏せた微笑みは、ゆらがず頼もしくすら有る。
静かで穏やかな和音を、小さくゆっくり4つ奏でた。
主旋律がのどかなメロディを紡ぎ出す。
白いたおやかな指は、やさしく鍵をなでる。
すぐ側で言葉をなくすユア達。
短い曲だったが、とても懐かしく‥‥とても心温まる音だった。
最後の和音に整えるようなメロディラインが添えられる。
重なり響き合う音達がなんども共鳴し、柔らかな波を広げる。
事前になんの説明もなかったが、それぞれがちゃんと気持ちを受け取った。
やわらかくあたたかな演奏。
立ち上がったカーニャの微笑みは、ささやかだが揺るぎないものだ。
姉のようにたのもしく、娘のように思いやりにあふれ、そして妻の愛情に満ちているのだった。




