【第64話:ととのうこと】
戦闘艦レギオトゥニスは外輪山を離れ、公都エルガドールに向けて移動している。
もちろん主動力機や複動力機すら稼働していない。
それらは星を渡る力で、地上で扱うものではない。
今はレギオトゥニス生来の能力『飛行』によって緩やかに移動している。
その能力すらまだ試験運用状態なのだ。
レギオトゥニスは飛ぶという能力を支配していて、飛んでいるものは支配が及ぶ範囲ですべて自由にできる。
遥か上空まで連れ去ることも、飛行するものを地上に落とすのも自由だ。
今はレヴァントゥス本体を浮かせることに大半の能力を振っている。
眼下前方の進行方向に街が見えてくる。
西部への玄関口カルデュラの街だ。
平原の果でも有り、この街を越すと砂漠と荒野だ。
「レギオトゥニス‥‥少し補給をしようか」
静かな王の声が提案する。
「承ります」
拝礼したまま動かないレギオトゥニスは、何も指示をしたようには見えないが、本体の下方にあるハッチが2つ開く。
暗闇の奥には真紅の連なりが無数に蠢く。
ハッチがスロープとなったころ、暗闇と赤光は蠢き溢れ、こぼれ落ちた。
それは重力を感じさせず地上に落ち、むくりと起き上がれば影獣となる。
人形の影獣ばかりだ。
ハッチ一箇所から100ほどが下り、合流してカルデュラを目指した。
そうして暗闇に怯え隠れ潜んだ人々は次の運命に晒されることとなった。
レギオトゥニスがゆっくりと進んできて街をその下に収める。
市街地よりもレギオトゥニスの方が大きいのだった。
真下に食事を終えて肥え太った影獣達が集まっている。
レギオトゥニスから紫色の柱が降り立ち、影獣達を包むとまるで雷神に滅ぼされた時のように塵と化して吸い上げられていく。
そうして全ての影獣を吸い終えるとハッチは戻り、レギオトゥニスから上空にさらなる雲が放たれていく。
無人となったカルデュラから集めた影が雲となり、また暗闇を広げるのだった。
その広がりは緩やかで、雲を出している間は動かないのか、レギオトゥニスはカルデュラ上空にとどまるのだった。
無人の街を覆い隠すように。
「一泊だけでいいから泊まろう?エリセラさんを休ませてあげたいよ‥‥」
ユアが提案し、ルヴィーナの郊外にあるモーテルをとり、泊まることとした。
時刻は朝なので、おかしな気もするが寝るために部屋を取った。
基本ダブルの部屋しかないので、エリセラとカーニャが一部屋。
ユアとエイシスで一部屋、ノア・セリシアで一部屋と3つ借りた。
エイシスはエリセラと居させると休まないので、ユアに連行されてきて寝かしつけられた。
カーニャにエリセラをまかせて、残りの2人は風呂の後ダウンした。
暗闇を抜けてから一晩中星の下を走り、ルヴィーナについた。
街はかなり混乱しており、中央部では宿が取れなかったので山よりの郊外でやっと泊まれたのだ。
もう一つ明るい話としては、アミュア達と連絡がついた。
圏外はやはりあの雲の影響のようで、雲からユア達がでたところで文字通信の連絡が入っていたのだ。
ユアが涙ながらに通信をしたが、アミュアに高価だからもう終わりと切られてさらに泣いた。
以降は文字のやり取りだが、まもなくこの街で合流できる予定だ。
「タイミングが悪かったのね‥でもよかったねユア」
カーニャはそう言ってユアを慰める。
あの公都での偵察時に試して繋がらなかったのは、ラウマの深淵に降りていた時間だったらしい。
少しタイミングがずれていれば、あの時点で安心できたとユアが嘆いた。
意識をもどしたラウマとアミュアは、指輪で夜霧を呼び出し公都エルガドールを目指したらしい。
途中で雲に当たり、これは嫌だなと郊外に回っていきリュンゼルと言う公都に近い街まで行ったらしい。
そこからは公都エルガドールがすぐなのだが、雲に包まれていてどうしようかといったところでユアから連絡が来たらしい。
今は夜霧を快調に飛ばし、合流を目指している。
話しは合流してからとなり、泊まる理由にも出来たのだった。
エリセラは泊まらず進むように指示をしていた。
夜になりもう一泊してアミュア達と合流することが決まったので部屋はそのまま借り続けた。
モーテルの外で営業している軽食の屋台で待つユア。
まもなくエリセラを寝かしつけたらカーニャがくるので、ご飯を一緒に食べようと話していたのだ。
今夜は月もなく晴天で星が天然のショーを繰り広げている。
ユアとカーニャが一番基礎体力があり、余力が残っているのだった。
軽食はスパイスの効いたシチューと軽いパンのセットを販売していて、屋根もないオープンテラス席がいくつか準備されている。
宿泊客も狙った営業であろう値段は少し高めだった。
ユアが先に食べ始めていると、カーニャがニコニコで歩いてきて隣に座る。
むぎゅっと腕に抱きついて肩に頭を載せ目を閉じた。
「カーニャ‥‥お疲れ様。お腹はすいていない?」
「へいき‥‥少しこうしていたい‥‥ユア成分補給よ」
ちゅと頬にキスをするユア。
まだ少しシチューもパンも有るので、カーニャに食べさせようとする。
「カーニャあーんして」
「‥‥あーん」
ぱくとスプーンに乗ったシチューとちぎったパンが口に入る。
「あら?おいしいわね?」
「ふふ、もっと食べてぇ。あーん」
「あん、ユアもたべてぇ」
そうやって辛めのシチューを、甘々で召し上がる二人だった。
カーニャも飲み物だけ買い求めて、少し話もする二人。
「カーニャをね‥‥探している時にね‥‥アミュアをとても傷つけてしまったの」
ユアがとても悲しそうに話し出す。
カーニャも悲しくなりぎゅっと抱きついてしまう。
「アミュアが一番酷かったときにね‥‥こういったの」
視線をあわせるユアは、泣きそうな顔だ。
「このまま二人で遠くに逃げたいって‥‥その時にやっとあたしはアミュアも辛いのだと解ったの」
顔を覆ったユアはついに涙をこぼしてしまう。
カーニャも真っ赤な目でユアを抱きしめる。
「ごめんね‥‥ユア‥‥私のせいで」
「ちがうよ!‥‥カーニャは何も悪くない‥‥あたしが配慮が足りなかったの」
カーニャの言葉を直ぐに否定したユアだが、また声は湿ってしまう。
「そこにどんな答えを返してもアミュアを傷つけてしまうと気付いて、やっとアミュアの辛さが解ったの」
カーニャもついに涙をこぼし、黙り込む。
「アミュアだってカーニャを見捨てたいって気持ちじゃないのよ‥‥ただ辛いから逃げたいと行ったの」
うんうんとカーニャも肯定。
「私は逆にね、このアミュアも救わなければと思ったの‥‥よくばりだよね‥‥」
カーニャは顔をあげて涙を散らしながら首をふる。
「それが‥‥それこそがユアだよ‥‥私の愛するユアだわ‥‥」
それだけをやっと告げてカーニャは声を殺してユアの胸で泣いた。
アミュアを想って涙が流れ、それでもと自分を想ってくれたユアに、感謝の涙を流した。
そして今それを話題に出した意味もカーニャには解ってしまう。
皆がそろったらきっと今後どうするかと話し合うだろう。
神なる力に敵うはずもない。
国に逃げ帰ろう。
きっとそういった意見が出る。
あの公都エルガドールで、ユアは親しく人と縁も結んでしまった。
ユアはあの暗闇を打ち払い、ミルディス公国を救いたいと言いたいのだろう。
困難で、もしかしたら犠牲を伴うかもしれなくてもと。
思考に行き詰まり、ふとカーニャは天を仰ぐ。
満天の星空に心が澄んでいく。
(また‥‥しばらく星を見ていなかったのだわ‥‥)
カーニャは思考速度が早すぎて、手元の情報から答えを導いてしまう。
それでは急ぎ過ぎなのだと、何度も反省してきたのに。
空を見てゆっくり自分を、ユアを皆んなを考えてみようと、決意を思い出した。
前だけ見ていても解らないのだと、心に言い聞かせる。
必ず皆で幸せになるのだと。




