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【第63話:目指すは北と決めた】

ユアが身体強化まで使った超疾走で、郊外の低山まで行って戻る。

「とても大きな雲が天まで続いていて、どんどん広がっていると思う‥‥」

こういった偵察の任務を与えると、驚くほどユアは正確にものを観てくる。

直感で映像を解釈してくるのだ。

詳細ではなく、全体から得た必要な情報だけを持ち帰る。

これはシルヴァ傭兵団の教えもあるだろうが、本人の資質によるところが大きいだろう。

雲の外も夜間になり暗かったが、西の空には僅かな藍色がまだ残り、全天に星が散りばめられていた。

カーニャとエイシスは雲を越えたところで探知魔法や、その他の魔法を一通り試しながら、ユアを待っていた。

「一旦ホテルに戻りましょう‥‥」

そういうと、エイシスを抱き上げて、駆け出すカーニャ。

ユアも無言で引き締めた表情のまま追いかけた。

チラリと暗闇の境を見ても曖昧で動きを感じられないが、離れて見たその巨大な雲は間違いなく領域を広げているとユアには感じ取れた。

(アミュア‥‥)

ユアの心は安らぐ事ができない。

約一年ぶりに味わう半身を失ったような喪失感を感じていた。




ホテルに戻り全員を集めて話し合う。

結局レヴァントゥスも戻らないし、アミュアもラウマも連絡がつかない。

緊急連絡用にカーニャがアミュア達に渡した魔導スマホも、圏外か電源がないようだ。

エイシスとカーニャで試した所、雲の外では問題なく飛行魔法まで使える。

ディテクトマナにはラウマもアミュアも反応が無く、夜霧だけを目的地近郊で発見した。

かなり山の奥なので、さすがのユアでも半日以上は片道に掛かりそうで放置した。

「ユアの偵察では、範囲が広がっている可能性が高い。時間が惜しい‥即時撤退を提案するわ」

カーニャ参謀長の意見は撤退。

「わかりました‥‥ルートについては?」

エリセラの判断にも迷いは無い。

「あの雲は低い部分をおおっていた。山地に‥‥雪月山脈を越えるルートがいいと思う」

ユアは北回りを支持。

「まっすぐ西ではダメなの?」

セリシアの意見。

「前衛と飛行魔法だけなら行けるけど‥‥かなり険しい山越えになる。魔物も強い」

ユアの意見に続けるカーニャ。

「今回飛ぶのはできるだけ使いたくない‥‥セリシアも一回落ちたでしょ?」

「あぁ‥‥あれは怖いよね‥‥」

今回の作戦中に何度も飛行魔法をキャンセルされたし、先程の確認でも同じ現象をみた。

高度によっては命に関わる可能性もあると、カーニャは嫌がるのだ。

「では決まりね。すぐ荷物をまとめて。私はホテル側と話してくるわ」

「ご一緒します‥‥奥様」

エイシスは護衛の意識が強くエリセラから離れない。

カーニャとユアに目線で確認して了承ももらっていた。




もともと北上する予定で馬車を借りてあったのが、功を奏して即時撤退を可能にした。

馬車は4人乗りの一般的なものだが、ユアとノアは常に走って護衛としたので、基本4人しか乗らない。

公都エルガドールの中央通りから、城の手前で左右に街道が別れる。

この左側がカルナードからルヴィーナを経由し雪月山脈越えのルートになる。

「こないだの偵察時にもさ‥‥飛行魔法で上がった直後に襲撃がきた。おそらく感知したんだ」

カーニャの意見が補足される。

頷いてからセリシアの質問。

「わかったわ‥‥レビテーションも禁止?」

「念の為ね‥‥」

その質問にもカーニャは使わないと答える。

半分は勘からくるものだが、先日の襲撃のタイミングは、レビテーションで上がったのを捉えた可能性が高いとカーニャは考えている。

もしかしたら魔力ではなく、高度で捉えている可能性もと想像もしている。

「とにかく‥‥あの雲にできるだけ触れたくない‥‥これは本当に勘だけの判断」

カーニャは正直に伝えるが、皆頷いて同じ意見だった。

「カーニャさん、もう少しペースを上げましょう。私の事は気にせず急いでちょうだい」

馭者をしているカーニャに支持を出すエリセラ。

客室の三人で一番か弱いのがエリセラなので、そこに合せたペースではあった。

「わかりましたお母様‥‥辛くなったら言ってください。エイシスお願いね」

最後はエイシスに、自分で無理と言わないだろうエリセラを見張ってと頼む。

「お任せをカーニャ姉さま」

真剣な声は言葉の裏まで理解しただろう響きだった。

とんっと馭者席にユアが戻る。

かなりの高さから着地したのにほとんど馬車を揺らさない。

「とりあえず見える範囲に追手はいないよ」

真剣な目線は戦士の目だ。

ユアの見える範囲は非常に広い。

ノアが先行して長距離偵察をしつつ、ユアが周辺をむら無く見て回る。

今はカーニャの支持で後方の確認に行ってもらったのだ。

「お疲れ様」

にっこりのカーニャはユアが側に来るだけでも心強い。

ユアの存在はそれほどにカーニャを支えている。

「すこし休んだらいいよユア?」

「平気。疲れはまだ全然ないよ。一周見てきてから休む」

ちゅっと頬にキスをしてふわりとユアが飛び降りる。

カーニャは微笑みを濃くして頬を染めた。




丸2日かけて進んだ頃。

橋の街カルナードを越え、水の街ルヴィーナまでの半分を過ぎたところで、空が明るくなってきた。

時刻的には夕方だ。

遮る雲が薄くなり明るくなるのだが、日が落ちていくので合せて暗くもなっていく妙な状態だ。

ずっと暗闇の中を走ってきたので、日時の感覚はもう無くなっていた。

休めるタイミングで寝て、起きたらただ進む努力をする。

食事も携帯食とお茶だけになり、お茶が唯一心の休まる時間だった。

「だいぶ明るくなってきた。ルヴィーナにつく前に雲を抜けると思うから、ユアとノアはそのタイミングまで休んで」

運転席を続けるカーニャの指示で、二人も車内でお茶を飲んでくつろいだ。

ノアの足をエイシスがもみもみとマッサージしている。

「あぅん‥‥きもちいいおぉエイシスもっとぉ」

うつ伏せで太ももからおしりを攻められ喘ぐノアであった。

「お疲れ様ですノアねえさま。いっぱい走ってくれてありがとうございます」

ここまで、ユアもノアも、ほとんど休みらしい休みは取っていない。

幸い弱い魔物以外接敵せず、戦闘は最低限で来たが、二人は不眠不休だった。

前衛の体力に驚きながらも、カーニャもほとんど出っぱなし。

カーニャとセリシアは時々交替で運転したが、セリシアが体力切れでダウンしてからは一人で運転を引き受けている。

エイシスもほとんど寝ていないでエリセラの看病だ。

食事の用意や片付けも全てエイシスがしていた。

エリセラは絶対速度を落とすなと厳命するが、半日程度で寝込むほど弱ってしまった。

時々外の空気をとエイシスが横抱きで、運転席まで出したり、身体を拭いたりとお世話が徹底していた。

「エイシスも少し休むといいよ。寝ていないでしょ?」

ユアはまだまだ体力があるので、余裕が見える。

エイシスの目の下にクマが出来ており、ユアは心配する。

「平気ですまだ、あっ?」

答える途中でノアに抱きしめられて強制的に横にされるエイシス。

「いいから‥ねんねしなさいエイシス」

「‥‥はいノアねえさま」

抱きしめてそのまま頭を撫でられたので、エイシスも微笑んで目を閉じた。

ユアは車内を確認して、少しだけ焦りの表情。

後ろの座席ではエリセラとセリシアが寄り添って寝ている。

二人とも顔色も悪く、疲労の色が濃い。

(少し停まって休ませてあげたいな‥‥)

一番活動しているユアが、一番元気という不思議がそこにはあった。







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