【第61話:刹那に闇夜が】
最初におかしいと主張したのはユアだった。
夕方には戻ると話していた、アミュアとラウマが心配だとさわいだ。
「どうしよう‥‥心配だよぉ‥‥」
そういってカーニャに抱きつくユア。
少し前に急に空が真っ暗になったのだ。
分厚い雲が空を覆い、夕日前の午後の日差しを覆い隠し、早すぎる夜が来た。
夏の時期で、本来ならまだしばらくは明るい時間だ。
黒々とした雲はとても不穏で、公都の住人を不安にさせた。
ユア達も早い段階でおかしいと騒いだのだが、天候だしこうゆうことも有ると、カーニャに説明を受け一旦納得した雰囲気だった。
全員が実は不穏さをあわせて感じていたのだが、集団心理から自分が弱気になっていると強がったのだ。
そんな中で素直にユアは心配だから迎えに行きたいと騒いだのだ。
「エイシス‥‥おねがい、あたしを東に連れて行って‥‥アミュアを探しに行きたい」
エイシスは残ったメンバーに二人しかいない飛行魔法の使い手だ。
ユアが騒ぐので、ノアを皮切りに皆が心配になっていく。
本当は不安を感じていたのだった。
「わかった‥‥私も行く。エイシスお願いできる?」
カーニャまでそう言って、ユアの為が半分と思ったが、探索に行くことを決めた。
「私アミュアとラウマなら探索魔法で探せるわ。ディテクト・マナならよく知っている魔力は探しやすいの」
カーニャがそう言って、ユアをふわりと抱いて少し安心させる。
もう瞳がうるうるして震えていたのだ。
レヴァントゥスも帰っていないので、同じく不安の強いセリシアも、ふるふるうるうるなのでエイシスが抱きしめていた。
このホテルは公都城の魔法妨害範囲なので、一旦郊外まで走って行き探知魔法を試すことにした。
カーニャが本気で魔力を放つと、かなり遠くまで見れると聞いて、ユアは少し表情を戻した。
エイシスをユアが抱いて、カーニャと並走して走る。
身体強化無しだが、二人とも馬に準ずる速度だった。
カーニャはユアに合わせているし、ユアも横抱きにしたエイシスを庇って、これでも速度は控えめなのだ。
定期的に無詠唱のディテクト系を発していたカーニャが呼び止める。
街外れまではまだしばらく有るが、高層の建物は殆どなくなった辺りだ。
空は相変わらず真っ暗で、星もない深夜と言われても納得できる風景。
「いいわ‥‥ここまでくればほぼ魔法妨害は影響ない」
そういって詠唱を開始する。
空間魔法に分類されるこのディテクトマナという探知魔法は白い魔力を帯びる。
カーニャはぐんんぐん魔力をこめて浮き上がっていく。
輝くほどに光ったカーニャが、ピーーン!と強い魔力を放った。
眼には見えないのだが感覚として魔力は感じられるので、至近距離にいたユアもエイシスもかなりの魔力が放たれたのを感じた。
「‥‥おかしい‥‥二人の魔力は見当たらない‥‥それに‥垂直方向がおかしかった」
そういって振り仰ぐカーニャは詠唱してユアを抱き、レビテーションで上昇する。
途中で気付いたエイシスも無詠唱でレビテーションをかけ、すぐ下から追いかけてくる。
「このあたりで魔力が吸われて消えた‥‥跳ね返りがまったくなかった」
そういった魔法士特有の感覚がユアにはないので、共感できない。
「?!なに」
一定の速度で上昇していたカーニャだったが、眼下の建物の細部が解らなくなった辺りで声をあげた。
「なになに?どしたの?」
感覚を共有できないユアは前抱っこでカーニャに抱きつきながら、尋ねた。
「‥‥これ以上あがれないの。浮力がなくなって上がらない‥‥これなんだろう」
「本当です‥‥魔力も吸い上げられる感じが強くなりました‥‥カーニャさん一旦下りませんか?なにか嫌な感じがします」
「わかった‥‥おりよう」
すうと浮力を制御する二人が、指さして眼下のビルの屋根に降りる。
緩やかな片面傾斜のスレート屋根にそっと降りる三人。
足音を立てるような者は居なかった。
「‥‥エイシス、闇魔法に詳しいよね?吸収系の魔法だった?」
ふるふるとエイシスは不安そうな顔をふる。
「いいえ‥‥アスピレト系の吸収魔法なら、もっと吸われる感じが強いです。あれは‥しみこんでいく?そう感じます。布地に水分が吸われるように‥‥」
言い得て妙だなとカーニャは感心した。
自分では闇魔法を毛嫌いから苦手意識があり、詳しくないのだった。
「わたしもその感じをあじわった‥‥直感なんだけど‥‥雲が近づいたらその感じも強まり、触れるかと思ったところで浮力はプツと切れた」
「はい、わたしも同じ感触を覚えました」
二人の魔法の話についていけないユアは、きょろきょろと周囲を見回していた。
魔法士二人の話が終わると、水平方向に偵察しようと決まり、ユアもうなずいた。
「魔力を出したくないから、強化もなしでいこう」
「りょうかい」
カーニャの意見に同意したユアはまたエイシスを横抱きにする。
頬をそめるエイシスは遠慮してユアの肩に手を置く。
にこっと笑ったユアが腕を強めて、胸同士をぎゅむと押しつぶす。
「エイシスあったかいな、しっかり掴まっていてね」
エイシスが真っ赤になりうなずくと、ユアは本気のダッシュで東の街外れを目指した。
ぴょんぴょんと飛んで建物から街道に下り、加速していく。
(すごい‥‥こんな速度で走れるものなの?)
エイシスは魔法士で逆に前衛の動きを詳しく知らなかった。
外から見るのと体感するのでは速度に差があった。
カーニャはすぐ後ろを涼しい顔でついてくる。
「?!」
「ユア!とまって!」
エイシスが違和感を感じた瞬間に、カーニャも感じたのかユアを止める。
ぐんとエイシスが飛んでいきそうになる慣性を、ふんわりユアが止めて抱きしめる。
そっと地面に下ろすと、ちょっと淋しそうにするエイシス。
ユアはカーニャも気になって話しかけた。
「どうしたの?突然」
「‥‥まちがいない」
手を伸ばして戻し、ピンと無詠唱のディテクトをかけたカーニャが言う。
「この先はあの上空と同じだわ」
振り返るとエイシスも同意をうなずきで示した。
「どゆこと?」
ユアだけが感覚を共有出来ずにいた。
くるりと見渡したカーニャが厳しい顔で告げた。
カーニャは断片から推測、統合して答えを出すのが得意だ。
「あの雲に公都エルガドールが囚われているんだ‥‥」




