【第6話:ユアを支えるもの】
ユアとアミュアの馬車は夜半にたどり着いた。
アミュアは途中で寝てしまったので、毛布をかけユアがそっと片手で抱いてきた。
静かに停車し、アミュアを起こさないようそっと横抱きに持ち上げたユアは、重量を感じさせない動きでふわりと地に立つ。
テントの前で焚き火をしていたラウマとノアにぱちっとウインクして合図するユア。
うんうんとラウマがうなずき返し、ノアはぎこちないウインクを返そうとぱちぱち瞬きした。
くくっと笑いをこらえ、ユアはテントにそのまま入り、アミュアをねかせる。
アミュアは一度寝ると、かなり寝付きが良くよほど起こそうとしなければ起きない。
ちゅっとほほにキスを落とすユア。
(アミュア‥‥ごめんね、きっといつか皆んなで楽しい日々にしようね)
泣きそうな顔でユアは思う。
なんて不甲斐ない姉で妻なのかと。
カーニャの事件で何度アミュアを泣かせただろう。
(あきらめない‥‥あたしの中にはもうその素敵な未来があるんだ。みんなが笑顔になる世界が)
すっと悲しみを収めるユア。
やさしい微笑みを取り戻し、そっとアミュアの手に毛布をかけるのだった。
「アミュアは寝ちゃったの?」
ノアも少し眠そうにユアに聞く。
「うん、ノアもお休み。アミュアあったかくなってるよきっと」
ニコニコ告げるユアは優しい微笑み。
「うん‥お休みラウマ。ユアも」
ラウマに抱きついてうとうとしていたノアが目をこすりながらテントに消える。
とても広い室内なのに、ぴったりくっついて寝ている姿が思い浮かび、ラウマも微笑む。
最近のラウマの心理は、完全にノアの姉になっている。
すっとユアを見て微笑みが消えるラウマ。
心配そうにユアを見る。
「ユア‥‥あまり思い詰めてはダメですよ?」
ちょっと驚くユア。
どこにも影は無かったはずと思ったのだ。
「ありがとう‥ラウマ、大丈夫だよ」
そう言って焚き火を見つめるユアには、綺麗な微笑みが貼り付いている。
「ユア‥最近わたし思うの‥‥どうしてユアの側にわたしは遣わされたのかなって」
ラウマの言葉づかいが変わり、深い親愛を示す。
こういった話し方はノアとユアにしかしない。
ユアは視線が合わない。
ラウマは少し悲しそうな顔になってしまう。
「きっと女神ラウマはユアが心配なのです。きっとね、ユアの側に居て支えたいと思ってくださって、わたしを作ったんだわ‥‥」
その思考はラウマの胸をえぐるのだ。
そっとその痛みを隠すラウマ。
「だから‥‥辛ければわたしに甘えて良いんですよ?」
その言葉たちはユアを勇気づけ支えるものだったろう。
ユアの微笑みに温度が宿る。
「ありがとうラウマ‥‥とても心強いよ」
きっとアミュアと何かあって、辛いのだともラウマには感じ取れた。
ずっとユアばかり見て生きてきたのだから。
「どういたしまして」
にっこり笑顔になるラウマ。
そっと枝を足し焚き火を保つラウマの横顔には影一筋ない。
ユアに気づいて欲しい想いを溢れさせながら、ぎゅっと心を締め付けるラウマ。
(いつか‥‥気付いて欲しいな‥わたしにも‥‥)
一番最後でいいから、とラウマらしい望みを胸に押し込めたのだった。
女神ラウマでは無い自分を。
ユアに焚き火を任せてテントに入るラウマ。
少し休んでと、やっと視線を合わせたユアに言われたのだ。
入り口を閉めると風の音も葉擦れの音も消える。
入り口を閉めれば、ここはあの焚き火と繋がっていないのだ。
ラウマの表情は微笑みを崩さない。
まるで女神ラウマの像の様に優しい微笑みだ。
ノアは思った通りアミュアに抱かれ丸まっている。
本当ならその愛らしい2人に優しい笑みを保てるラウマ。
ラウマも2人が大好きなのだ。
すうと音もなく涙が落ちる。
(どうして‥‥何を泣くことが有るというの?)
ラウマはその制御出来ない感情に身悶えする。
嗚咽をこらえ両手で顔を覆う。
微笑みのまま涙はあふれるのだ。
アミュアを見るといつもこの悲しみが浮かぶ。
ユアと仲良くする自分そっくりのアミュアを祝福して、共に喜びたいのに。
声も無く震えるラウマに、焚き火も夜も姉妹達も‥‥誰も気付きはしなかった。
パキと少し大きかった薪を折り、火に焚べるユア。
もうそこに微笑みはない。
残してきたカーニャを想い、その想いが今はアミュアを傷つけるだけだと知り、それでも何一つあきらめられない自分を見つける。
(おかあさん‥‥)
こうして最後には亡き母の面影を想う。
幼い頃より託されてきた愛を想うのだ。
『お姉さんは泣かないのよ』
母はいつも明るい声で、泣く自分に聞かせる。
ふんわりとした優しい温度と匂いを添えて。
今のユアにはその言葉に込められた想いが全て伝わっている。
涙を流すなと言われたのではないと、悲しむなと言われたのでもないと。
ただ下を向いて立ち止まるなと励まされたのだと。
『うん、えらいぞ流石お姉さんだ』
最後には顔を上げたユアを褒めてくれたではないかと。
(おかあさん‥‥あたし頑張る。おとうさんとおかあさんに恥じない生き方をするよ)
そうして本当の微笑みを取り戻し、瞳に炎を灯す。
あの日命を賭した父と同じ目で。




