【第59話:魔王の旋律】
漆黒の魔城に謁見の間がある。
黒い磨かれた柱が並び立ち、真紅のビロードに金糸の刺繍で紋章を描く。
魔王の紋章だ。
柱に象嵌される炎は禍々しい真紅に燃える。
ゆらぐ炎はそこに立つものの心もゆらがせる。
ゆらぐのは豪華な衣装に影獣のオーラをたなびかせている男。
レギオトゥニスと名乗るレオニスはひざまずき、頭を垂れる。
玉座に王がいるから。
「ご苦労だったレギオトゥニス‥‥始めてくれるかな?」
玉座に掛けるのは、かの魔王である。
レギオトゥニスとアウレリアの愛をアウレリアごとすべて平らげ、カーニャから取り出された純粋なる魔王の胚から育ったもの。
本来はレギオトゥニスを跪かせるものなど、この世界にはもう居ないはずだった。
彼が頭を垂れるべくはただ1つ、創造主たるオリジナルだけであった。
彼ら6王はそのように作られたもの。
オリジナル意外には下らない、強さと誇りにささえられた存在だ。
かつて数万の兵と、天翔ける船を揃えた最強の王であったのだ。
レギオトゥニスをして膝を屈するのは、この魔王の中にあるその力。
「はっ‥‥」
レギオトゥニスは一礼して立ち上がると詠唱を始める。
『# Regiotunis - Celestial Authority Spell Code
class CelestialAuthority:
def __init__(self, name): 』
それは長く因を踏み、段と章とに分かたれる長い長い詠唱。
オリジナル達、神代の言語で綴られた既存の呪文とは全く違うもの。
『 def chant(self, phrase: str, intensity: float = 1.0):
"""Add a line of incantation, imbuing magical energy"""』
籠められる魔力はレギオトゥニスの中からいくらでも捧げられる。
レギオトゥニスは体内にこの星を動かせるだけのエネルギーを持つのだ。
『 power = sum(intensity for _, intensity in self.incantation_sequence) * 1e6
print(f"{self.name} unleashes celestial power: {power:.2e}") return power』
天空の支配者レギオトゥニスは天かける、星を渡る力を与えられた王だった。
星星を渡りオリジナルを粛しに来た神々から、必死に隠し守った最後の6王。
オリジナルが最後まで手放さなかった、帰還の力こそレギオトゥニス。
今その力が惜しげもなく注がれる。
ごうごうごうと地鳴りが響き城を揺らす。
謁見の間の右手は柱が支える大きなテラスで、外がそのまま見えるのだ。
砂嵐が覆う巨大なクレーターがそのまませり上がるように高さを変える。
魔王はその瞬間を見ようと思ったか、テラスに歩いていく。
レギオトゥニスは詠唱を続け魔力を注ぎ込み続ける。
『 celestial_spell.power_status = "linked"』
(つながったな‥‥)
レギオトゥニスの詠唱が終わり、すっと拝礼にもどる。
もうその身体にはほとんど力は残っていなかった。
残す必要もないのだ。
ごうごうと音を立て浮き上がるクレーターの中にひし形の鈍色。
きらめく閃光に彩られるそれは星すら渡る戦いの船。
天かけるオリジナルの戦闘艦『レギオトゥニス』、この城はその船の艦橋にあたるのだった。
完全に宙に浮いた巨艦。
その長辺はクレーターの直径に迫る長さだった。
この船は公都エルガドールよりも大きい。
そして、ひざまずくレギオトゥニスとは‥‥この船の名前だった。
「ご苦労レギオトゥニス‥‥しばし休むが良い」
魔王が命ずる。
本来オリジナルにしか従わぬレギオトゥニスを従える魔王。
この魔王は蘇ったオリジナルそのものなのであった。
揺れる魔王の紋章『Original』とは、オリジナル達の掲げる旗印だった。
魔王が玉座に戻る。
そこには様々な画面が宙に浮いて表示されていた。
全体で球体の一部のように、玉座を中心に描かれる画面達。
一部には屋外や、このレギオトゥニスそのものを捉えた映像まである。
玉座に腰掛けた魔王は両手と尻尾を操り、画面を操作していく。
「まずは‥‥第1楽章だ‥‥奏でよレギオトゥニス‥‥滅びの始まりを‥‥」
画面のいくつもが明滅し、パラメーターが変わり続け、一文を表示する。
Tamsa apgaubia pasaulį(暗闇が世界を包む)
この日ミルディス公国を厚い雲が覆う。
日を通さないそれは公国を夜の国へと変えてしまった。
ユア達をその内側に捉えながら。
魔王はゆっくり目を閉じ沈み込むように動かなくなる。
穏やかな微笑みは何を思うのか。
レギオトゥニスをしてもうかがい知ることは叶わなかった。




