【第57話:カーニャの伝えたこと】
いつまでも動けないで震えているカーニャを、ぎゅっと抱きしめるセリシア。
「カーニャ‥‥意味はわかんないけど、一回外に出よう?ここで身体を冷やしても解決しないよ?」
セリシアの言葉に頷くカーニャ。
「わ、わかったごめん」
カーニャは思考をあきらめず、常に正確に状況を把握しようとする。
そのように鍛え生き抜いてきたのだ。
ざぶざぶと泉からあがり、火を起こすセリシア。
セリシアも旅慣れていて、手際が良い。
収納から予備の服をだすと躊躇なく全裸になり着替える。
濡れた服が体力を簡単にうばうと知っているのだ。
「カーニャ‥‥着替えたほうが良い。着替えある?」
また思考に沈んでいたカーニャははっと気づき頷いた。
「ありがとう、大丈夫もっているわ」
そうして防具を外し、予備の衣服を収納パウチから出す。
(お父様‥‥影獣‥‥異常な数の敵‥‥)
カーニャは思考を止めず、手際よく服をぬぎ身体を拭いた。
(レヴァントゥスの言っていた影獣を集める強者‥‥)
下着をまといながらも、思考を手放さないカーニャ。
セリシアは生活魔法も織り交ぜ、火を起こすとすぐにお茶も準備する。
日が陰り、少し気温も落ちている。
温かいお茶でカーニャをあたためたいと考え、ふとユアの顔を思い出す。
かつて戦場で振る舞われたお茶を思い出し、にこりとほほえんだ。
あの自分が人にお茶を振る舞いたいと思えると、あたたかな気持ちになったのだ。
「カーニャ‥‥あたたまるわ。飲んで」
着替え終わったカーニャにカップを渡すセリシア。
「ありがとう‥‥」
受取り火の側にくるカーニャ。
視線は焚き火に据えられ、思考は超速で様々を練り合わせ滑っていく。
「カーニャ‥‥一回考えるのやめよう?今は身体をあたためて帰還することを考えよう」
真剣な目で見つめるセリシア。
頷いたカーニャも微笑みを取り戻した。
「ごめん‥‥本当ありがとセリシア‥‥」
そういってお茶を口にする。
やっと息を吸えた気分だった。
予定と違い、最後にキャンプに戻ったはセリシア組だった。
「カーニャ!!」
降り立つと同時に待ち構えていたユアに抱きしめられる。
「ごめん心配かけた‥‥ちょっと想定外があった」
くらい声に心配をふやすユアだが、カーニャの声に今は聞かないでという気持ちも受け取り、ぎゅっと一度抱いて放した。
「わかった‥‥無事で良かった」
ちょっと目がうるうるになったユアをカーニャも抱きしめた。
「ユア‥ただいま」
そういってカーニャは、皆に見えないようにユアの頬にキスを落とした。
キャンプには馬車で来ていたので、車内に6人で座り休む。
馭者はレヴァントゥスが務めて、6人は少し寝ようということになった。
アミュアとラウマは魔力切れで先に一番うしろに座り寝ていた。
ノアとセリシアが寄り添って真ん中に席で寝ついた。
カーニャはユアの肩を借りて頭をのせ、目を閉じ考え続ける。
ユアはまだまだ体力的に余裕があるので、そっとカーニャの髪をなで下ろしている。
眠れたら良いなと思うのだ。
カーニャの顔色はひどく、魔力も限界まで消費した後だったのだ。
睡眠が一番早く魔力を戻すし、魔力の欠乏は身体にもいい影響はない。
(お母様になんて言おう‥‥ううん‥‥ユアやみなにも)
焚き火の前でセリシアには口止めしていた。
タイミングもあるし、少し考えたいから黙っていてと頼んだのだ。
カーニャの思考は滑り続け、まとまりを得なかった。
ホテルに戻るまでに結局考えはまとまらず、寝ることも出来なかったカーニャ。
集まった皆に淡々と説明する。
エリセラにもここで話そうと覚悟をしていた。
「セリシアと戻りながら、途中でお父様に会いました‥‥」
がたとエリセラが立ち上がり、カーニャの顔色を見て固まる。
いい話ではないと読み取ったのだ。
そっとエイシスがエリセラを支え座らせる。
カーニャの声にはそれくらいの悲哀がこもっていた。
ちらと目線を送るカーニャに、頷いたセリシア。
まかせるという意味合いだ。
「お父様は影獣となり、私に言葉を与えました」
そこで言葉を切り全員を見回し、最後にエリセラを見つめる。
すうと意識を失うエリセラをエイシスがささえる。
「おくさま?!」
一旦セリシアを休ませるため寝室に運び、ユアとエイシスが戻った。
「ありがとうユア、エイシス」
カーニャは軽い礼をして、続ける。
顔色は真っ青になり、唇が震えている。
ユアとアミュアが隣に座り、両側からささえ手を握った。
すこしだけ微笑みカーニャが続ける。
「お母様には死んだと伝えろと言われた。自分が影獣になったからか‥‥最初から影獣だったのだと思う」
カーニャの顔色はどんどん悪くなる。
ふるえる唇が言葉を続ける。
まるでそうすることが罪滅ぼしなのだと言うかのように、淡々と続ける。
「お父様は、こうも言いました。この国は影獣に染まる、早く遠くに逃げろと‥‥」
そこで目を閉じるカーニャの瞳から声もなく涙が落ちる。
「もういいよカーニャ‥‥後で聞くよ。みなもいいね?」
きびしい顔のユアがそう告げて解散となった。
アミュアが最後に頷いて微笑み出ていく。
残ったユアはカーニャをそっと抱き寄せる。
ソファに横にして膝枕をするユア。
そっとカーニャの黄金の髪を指ですいてなでる。
「カーニャ‥‥おやすみ‥‥今はおやすみ‥‥」
そっと子守唄のように告げ髪をなでるユアには優しい微笑み。
カーニャの顔にやっと血の気がもどったのだ。
すうすうと寝息がして、やっとユアは肩の力が抜けるのだった。
表情はさえず、ただ疲れをにじませた。
(レオニスさん‥‥エリセラさん‥‥)
ユアも大好きな二人がこれからどうすれば良いのか、ユアにはさっぱりわからないのだった。
そっと髪をなでるユアは、エリセラの悲しみを思い涙が出そうになる。
二人のとても愛に溢れた姿を、何度も見てきたのだ。
その寄り添う姿は、ユアにとって得ることの叶わなかった、理想の家族の象徴とも思えていたのだった。




