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【第56話:後は逃げるだけのはず】

合流した直後に即時撤退の判断。

2✕3に分散した6人は今度は低空のまま高速で離脱する。

木々の合間を縫い、速度は落ちるが索敵を避け撤退する。

キャンプで合流と決めて3方に逃げて、敵を撒こうと咄嗟に決めて動いた。

「アミュア!魔力は大丈夫?!」

風魔法の結界をまとっていないので、ごうごうと風がなる。

隠蔽発動の飛行魔法はそれだけでも消費が激しい。

「平気!まだ戻るくらいは持つよ!」

耳元で叫び合う会話で、意思を疎通した。

アミュアは高速で落下し、急減速をかけてからユアを手放し、上空から詠唱し続けた光魔法第四階梯のフルチャージを複数重ねがけで放ったのだ。

36本の誘導された光粒子のビームは全て着弾した。

それだけでも並の魔法士なら死にかねない魔力放出だ。

自身の保有魔力を超える第四階梯の魔法は、女神ラウマの奇跡から魔力を補填して撃つアミュア。

自分の魔力も帰還できるギリギリまでは籠めたので、ほぼ空になる計算だ。

「この速度なら夜霧が走ってもそんなに変わらないよ!」

なるほどとアミュアは納得。

「お姫様だっこが良いな!!」

「おっけ!!」

空中でユアを放すと、地上を蹴ってアミュアを抱きとめるユア。

リクエストどおりに横抱きにして、次は木の幹を蹴り水平に飛びおりた。

影から夜霧を召喚すると、そのまままたがり、アミュアを抱きしめる。

制御は下半身でするのだ。

宣言したように隠蔽飛行魔法にせまる速度で、真紅にそまる身体強化で駆けるユア。

ユアにむにゅと抱きつくアミュアは笑顔で目を閉じた。

正直、魔力消費が限度を越えていて眠かったのだ。

アミュアの様子をみてユアも微笑みぎゅっと胸に抱く。

「すこしおやすみ‥‥おひめさま」

ちゅとほほにキスも添えた王子様は恐ろしい速度で、夜霧を駆るのだった。





ラウマとノアに一番追手がかかった。

そもそもその予定でヘイトを取りに行ったラウマとノアは、さらに何体かほふり皆と反対側に逃げたのだ。

バディの中で一番余力が残っていたので、ラウマが囮をかってでたのだ。

「ちょっと多すぎるね‥‥」

ノアの視界には20を超える獣形の影獣。

木々の間を風のように飛ぶ二人と同等の速度で地上を追ってくるのだ。

戦闘に入ればさらに後方には次の追手も引き付けている。

速度がでる足の速いタイプだけが追ってきたのだろう。

「ノアちゃんと見ててくださいね」

「うん!気配でわかるよ!」

あの遠距離も撃ってくる巨獣型も混じっているので、ノアが後方確認し指示を出す。

飛行するラウマの首に抱きつき前抱っこから、首を引き寄せ進路を指示する。

くいと避けると、ドフゥと颶風が通り抜ける。

「あれだいぶ嫌な気配ですね!服が無くなる予感がします!」

腐食の気配をまとう影の風を警戒するラウマ。

「怖いこと言わないで!」

ぎゅっとつかまる力を増すノア。

かつての賢者会の拠点で、なんどもスライムに裸にされた恐怖を思い出す二人。

予備の服すら全て溶かされ弄ばれたのだ。

ノアでさえ青ざめふるふる涙目。

「絶対よけて!!」

ノアは叫びとともに、くいとまた指示を出し進路を変え避けるのだった。

二人はだいぶ遠回りしつつ、衣服も守り抜いたのだった。



最も飛行速度のでないセリシア組が、一番安全そうなルートを逃げている。

比較的障害物のない、森を抜ける小道のルートを快調に飛んでいた。

「セリシア魔力は平気?!」

カーニャの風結界を貼っているので、負担も少なく会話も楽だった。

「うん!余裕あるけど、ちょっと残しておきたい」

まだ速度を上げられるが、トラブルを警戒という意味だ。

ぱんっと森を抜け大きな水面が見えた。

森の中にある泉のようだ。

気の抜けた声であわてるセリシア。

「えっ?」

低空を飛んでいたセリシアが制御できず水面に落ちた。

二人は知らないが、アミュア達が上空で同じ現象に当たっていた。

飛行制御だけが消される現象で、カーニャの風結界には影響がなかった。

ドフォォ!!

大きな水柱が立ち、水面に強制着水した二人が、ざぶと顔を出す。

「ぷはぁ?!」

「はぁあ!なにごと?!セリシア!?」

顔を出すなり、セリシアに声がけするカーニャ。

責める気配ではなく、確認の声だ。

「わかんないわ?!突然浮力が‥‥」

そこまで話したセリシアが一点を見て固まる。

水深は浅く、腰程度に水面がある。

そっとセリシアの視線をたどり振り向くカーニャは、空中に音もなく浮かぶ人影を見た。

「そ‥‥そんな‥‥」

カーニャの声がふるえる。

セリシアは事態を把握できず固まっている。

「カーニャ‥‥伝言を頼みたい」

低いバリトンはカーニャのよく知る通りに響いた。

ふるふると首をふるカーニャは涙をこぼす。

「お父様‥‥どうして‥‥」

空中に浮かぶ人影は漆黒のチュニックとガーダーをまとい、じっとカーニャを見据える。

見間違いようのない父親の顔貌。

真紅に光り染まる瞳と、揺らぐ濃い影をまとう姿。

見間違いようのない影獣の気配だった。

「すまんが説明する時間はない‥‥エリセラには死んだと伝えてほしい。そして可能な限り早く、遠くへ逃げるんだ‥‥まもなくこの国は影獣に染まるだろう‥‥」

「いやあ!?おとぉさまあぁ!!」

手を伸ばすカーニャに痛ましそうな目を一瞬向けるレオニス。

「すまぬ」

謝罪の言葉を落としたレオニスは、すうと音もなく上空に飛び去り消えた。

「ど‥‥どうして‥‥お父様‥‥」

カーニャはただ呆然と立ち尽くすのであった。

午後の光りが水面に揺らぎ、カーニャの顔をまだらに揺らす。

揺れ動く心を表すように。




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