【第55話:撤退戦、殲滅線】
先程よりもだいぶ高度を取り、水平飛行に入る。
今はアミュアが飛行魔法を発動し、ラウマが風魔法の結界を維持制御していた。
大気をとらえ進路を変えるラウマが主に操作する。
アミュアは飛行維持に集中し、燃費を稼ぐ作戦だ。
ユアが視力が良すぎて遠見魔法に匹敵するので、視認はユア任せだ。
「うっすら‥‥中央あたりになにかある」
ラウマとアミュアには砂嵐しか見えないのだが、ユアの視界にはそう見えるようだ。
限界に近い高度なので、大気はだいぶ薄いはずだが、カーニャ式制御を採用した高高度用風結界が三人を低圧と低温から守る。
ディテクトのマップ上ではまもなくその砂嵐を超えるころだ。
嵐の結界を越えた瞬間にすとと飛行魔法の推力が切れた。
「なになに?!ラウマ戻って?!」
アミュアは半ばパニック。
術式は作動しているのに、推力も浮力も無くなったのだ。
様々な状況を想像しながら、何度も発動し直すアミュア。
「ダメ!発動するのにすすめないよ!?」
ラウマもユアもパニックに巻き込まれそうになるが、ユアが二人を強く抱きしめる。
ぎゅっとされるその力で、思考が一瞬とまり、落ち着くことができた。
「アミュア、結界魔法はもんだいないわ」
風結界の翼を操作して、円を描き進路を戻すラウマ。
高度があるので、十分慌てずに戻れた。
「‥‥魔法がもどったわ‥‥一体なんなの?あれ」
アミュアが推力を取り戻し、ゆっくり高度を落としていく。
カーニャ達と合流を考えたのだ。
チラと視界を下げたユアが警告。
「アミュア大至急下りて!カーニャ達に異常あり!」
アミュアもラウマも視界を下げると、黄色に光る細い線が水平方向に何度か描かれるのが見えた。
距離がまだあるので定かではないが、光魔法の放射と思われた。
「ラウマ、加速しておりる。ユアはわたしが!」
ラウマの風結界から飛び出したアミュアはユアを抱きながら、下方向にレビテーションを発動。
風魔法の結界を新たに構築し、コーン状のそれが大気との摩擦で赤熱する。
登った速度に等しく落下していく。
ラウマも一瞬遅れて落下に入り、レビテーションも発動し追いかけた。
『シュヴィエサ・ヴィエナ!!』
キィココココォォォ!!
飛び上がったカーニャの振りかざしたレイピアの先端から、4本の光魔法のビームが曲射される。
前方から迫った人形影獣の2体をそれぞれクロスファイヤで貫いた。
ノアがまだ4体抑えているが、じりじりと下がりだしている。
(多すぎる‥‥)
着地したカーニャもレイピアに光をまとい、ノアに並んで押し返した。
後方から今度は風魔法の緑色の光線が突き抜ける。
螺旋の真空をまとったやりが3本飛んでいき、3体を捉える。
カーニャが加わり、圧を下げた前衛を押し返していく。
ノアに貸している短剣にはカーニャが光魔法をエンチャントしてあった。
光魔法のともなう斬撃は、影獣に有効だ。
ノアは左手にアイギスから借りた青白い炎の聖剣と、右手に光をまとう短剣2刀で4体を抑えていたのだ。
(やるなノア、フィジカルだけじゃない!)
並んで切り裂きながら舌をまくカーニャ。
ノアの立ち回りに、ユアのような確かな技術を感じた。
一気に2体切り裂いて、ノアの援護に向くカーニャを、ノアが抱きとめ横っ飛び。
ゴフオオオオォォォォ!!
カーニャの居た場所を真っ黒な影が突き抜けた。
(放射系闇魔法?!)
ノアに投げ飛ばされながら、体勢を整え後方に下がるカーニャ。
「サンキュ、ノア!」
「うん!まだくるよ!」
左右に別れたノアとカーニャの間をまた魔風が抜けていく。
影に触れた木々がしおれるので、なにか腐食系だろうなと風の結界をまとうカーニャ。
とんとっと幹、枝と蹴ったカーニャは既に詠唱を終え黄金の魔力をまとう。
隠蔽無しの魔力が影獣達の視線を集める。
囮にもなりノアとセリシアを逃がす作戦だ。
カーニャの瞳が高速で動き、6体まで視認して発動。
『アインツェルシュトラール』
ココココココゥ!
ほんの僅かづつ遅れて6本のビームが放たれ、若干エイムして6体の影獣に突き立つ。
多重発動した追従属性だ。
(あれをかわすの?)
3体は頭を吹き飛ばしたが、二体は腕で防ぎ、一体はかわしてしまった。
かわしたのは、距離があった遠距離攻撃をしてくる魔獣タイプ。
その額にドンとノアが体当たりで着地。
眉間に短剣と聖剣が突き立っていた。
ノアがとんっと蹴り下がると、ドウゥと巨体が倒れた。
間を置かず音もなく飛来した二本の緑の槍が、カーニャの魔法に耐えた2体の頭も吹き飛ばす。
セリシアの風魔法だろう。
ノアも全力で下がってくるのに合せて、カーニャもセリシアを目指した。
(支えられない‥‥数が多すぎる)
カーニャは悔しく思うが、後方からまだ気配が追ってくる。
「セリシア!てったい!!」
カーニャはセリシアが見えた時点で叫ぶ。
ノアはカーニャを越えて先に進んでいるので、カーニャがたどり着けば逃げられる。
ゾクっとカーニャの勘が伏せろと悲鳴を上げた。
「伏せて!!」
叫びつつ自分でも前方に倒れるように伏せ、地面との間に風魔法の結界を薄くはり滑る。
ボボボボゥと先ほどのものに似た放射系の闇魔法が数条伸びてきて、頭上を越えていった。
カーニャは途中でノアを捕まえ、一緒に滑りながらセリシアを目指す。
その瞬間ぱあっと頭上が明るくなった。
チラと視線だけ向けると、上空から光のシャワーが降り注ぐ。
一本づつがカーニャの上級光魔法シュヴィエサ・ヴィエナに匹敵する光度だ。
(‥‥でたらめだわ!アミュアかな?!)
およそ数十本の光のシャワーが影獣達を打ち払った。
ドドドォゥウ!!
カーニャの後方の木々をなぎ倒し、巨大な影獣がせまる。
地竜のような姿で、巨大な質量を感じさせる。
光魔法の洗礼で穴がいくつか開いているが、止められなかったようだ。
とっさにノアを抱えたまま身体強化最大で、地を爆ぜさせ斜めに飛び上がるカーニャ。
さらにノアがカーニャを蹴ってセリシアを抱え奥に落ちていく。
先のカーニャ以上の爆破を起こし、地竜型影獣が飛び上がって、カーニャを丸呑みにしようとアギトを広げた。
(くぅ!!)
カーニャは身体を捻り防御姿勢を取ろうとする。
スバァアアアァァァァン!!!
黄金の輝きが辺りを払う。
ころころスタっと受け身をとり、立ったカーニャの視界に頼もしい背中。
「無事?!カーニャ!」
そこには影獣の巨影は無く、舞い散る黒い塵を背に真紅の目を向けるユアが、黄金の直剣を片手に立っていた。
雷神の轟音が木霊して戦場を一瞬で黙らせた。
勇者の放つペルクールの雷神を恐れない影獣はいないのだった。




