【第54話:強行偵察】
ユアは夜半に目を覚ました。
ゾクリと悪寒があり、寝ていられなかったのだ。
そっと寝ているカーニャを起こさないようベッドを降りる。
常夜灯のオレンジ薄暗がりに、ユアのお腹がポゥと光っている。
黄金の半円が薄っすら3本浮き上がり、おへそまで外縁が届いている。
(‥‥ラウマ様達の封印が)
ユアはカーニャから取り出した魔王の受精卵を下腹部に封印している。
3柱の女神による封印。
女神達をして、消し去る事の出来なかったその可能性の粒は、封印と言う形で抑え込み残ったのだ。
『雷をもって消したならば、新たな可能性の種が生まれ落ちる‥‥それは新たな悲劇を生むだけだ』
女神ペルクールはユアにそう告げた。
逆に封じている間は魔王は産まれないと保証もされたのだ。
(あたしが死んだら‥‥どうなっちゃうの?これ‥‥)
ずっと先の話だと気にしないで来た、未来の不安を今になり感じ取ったユア。
ほんのり光っていた封印はユアのおへそとおしりの半ばまでの3重の太い円を体表に添い描く。
円の中心を封じるその封印の奥で、下腹部に熱を僅かに感じた。
カーニャやアミュアと愛しあった時に近い熱に、不安を感じたユア。
今は封印も熱も全く感じなくなり、白い肌だけが見える。
そっと両手を添えてみても、熱はもう感じられない。
(こんな事初めてだ‥‥一度ラウマ様に尋ねてみたいな‥‥)
不安は薄らぎ、少し寒けだけ残ったユアは、あたたかで優しい温度をもらうため、そっとベッドに戻るのであった。
(カーニャあったかい‥‥)
そっと寄り添うと、何でわかるのかふわりと抱き寄せられた。
起こしちゃったかなと、息を潜めていても声はなく、静かな寝息だけが残った。
ユアも安心して眠気の中に意識を手放した。
今日は強行偵察を一度かけてみようと決まった。
この集団には飛行魔法を使える者が4人もいるのだった。
失われたはずのその魔法があれば半日かからず、彼の地を視て戻れると試算した。
「本気出せば直ぐ着きます!」
鼻息荒くアミュアが言う。
アミュアが3重発動すれば、飛行速度は音を超えるのだった。
「アミュアだめだよぉ、危ないから皆で行こう?」
とユアにすがりつかれて、にこにこ了承するアミュア。
「ユアはわたしが抱っこしていきます!」
2人で行くには半分以下の速度になる。
ラウマがノアを、セリシアがカーニャを抱いて、6人だけで行くこととする。
エイシスも飛行魔法が使えるが、万が一の連絡用に残す。
カルヴィリスも飛行出来るスキルがあるが、皆に止められアイギスと共にルメリナへもどした。
今は妊娠4ヶ月となっていて、無理はさせないと意見の一致をみたのだ。
「そんなヤワじゃないわ」
そう言い、なんなら後衛ならまだ一線張れると言い出したカルヴィリス。
カルヴィリスを帰すのはなかなか骨で、スリックデンのヴァルディア家に使いを頼み、やっと納得させた。
そういった若干のトラブルはあったが、公都郊外に設置したベースキャンプに、レヴァントスを残し、3対の飛行部隊が飛び立った。
エイシスとエリセラはホテルで留守番。
ヴァルディア家のスタッフ達2人は新たに用事で出かけていった。
今回のエリセラ訪問は、捜索がもちろんメインだが、レオニスの引き継ぎ作業も並行して進めており、スタッフ達は主にそちらで動いて貰っている。
「‥‥なんだろう、嫌な感じがする」
レヴァントスは根拠のない不安を薄っすら感じる。
実は多かれ少なかれ皆が感じていた事だったが、互いに心配かけまいと心に封じた不安だった。
それくらい淡く不確かな感覚だったのだ。
見上げた高空まで3組がレビテーションで飛んでいく。
最近確立された魔力節約のルーティンだ。
十分上がったのか、水平飛行に入り、風の結界が大気に白い筋を残し西へと飛び去っていく。
レヴァントスには静かに見送るしか、出来ることが無かった。
今日も西部は快晴でかなり遠くまで視界が通った。
アミュアはユアを抱えながらさらに高度を上げる。
僚機にはハンドサインで伝えてある。
詠唱して遠見の魔法を発動。
地平線いっぱいの距離に例の山脈が見えた。
ユアは魔法無しでも見えるのか、アミュアと同じ事に気付く。
「アミュア!竜巻が大きくなっている!」
「ユア見えるんだ?すごい目がいいね」
アミュアも落ち着いている訳ではなく、不安を紛らわす会話を求めたのだ。
「うん‥薄っすらだけど‥こないだの山が全部収まる大きさ?に見えるよ!」
アミュアは頷いて高度を落とす。
「一端通り越す予定だったけど‥‥状況変わったね。皆に相談しよう」
ユアもうなずき、チラと不安そうな視線を奥に向けた。
「あの高さなら近づけば中が見えるはず?」
カーニャの意見で一旦方針が決まった。
飛行魔法は一人飛べれば二人抱えても飛べるので、色々と調整しやすいだろうと2✕3で組んできたのだった。
アミュアとラウマでユアを連れ、可能な限り高度を取り近づく。
カーニャとノアを最悪一人で運べるようにセリシアを残した。
アミュアが3重ラウマが2重に飛行魔法を発動可能なので、最悪は三人を高速で逃がし、セリシアと合流後に元の配置で逃げる予定。
現在地からでも外側の山が砂嵐の中に霞んで見える。
ぎゅっとカーニャとユアが抱き合う。
言葉は無いが雄弁な包容だった。
ラウマとノアも軽くハグして、笑顔を交わした。
「いこう」
ユアの静かな声で皆がうなずき、作戦を開始した。
高空を目指しアミュアのレビテーションで飛び上がる。
3重発動されたその速度は亜音速。
見る間に芥子粒のように小さくなっていった。見上げている三人の目に隠しきれない不安が滲んだ。




