【第5話:なやみ育つラウマは】
ラウマ像の祠から、あのラウマ空間に移動するには条件がいくつか有る。
本来であれば高位の巫女にだけ許される秘技なのだ。
アミュア、ノアとラウマは女神の作り出した分霊にして眷属なので、なんの抵抗もなく呼び寄せられる。
ユアはまったくの特例でつながっている。
女神ラウマがそれを望み、可能とする奇跡で呼び寄せているのだ。
夜霧で駆け抜けたノアとラウマは暗くなる前に、祠についた。
少しづつ高度を下げる太陽が、そこかしこに長い影を並べる。
「ノアは薪を集めてくださいねぇ」
にこにこのラウマに指示されたノア。
「はーい」
いつものように言葉は少ないが、ラウマとノの間ではそれでちゃんと気持ちも伝わるのだ。
ラウマは夜霧から荷下ろしして、よしよしと首を撫でる。
夜霧もラウマ達を家族と認めていて、鼻先でこしこしと挨拶し影に入り消える。
下ろした空間収納のバッグから、ラウマはキャンプの道具を取り出したりする。
ふと思い至り、女神に挨拶に行くラウマ。
階段をととんと軽やかにあがり、目を閉じそっと女神像の手をとるラウマ。
『ラウマ様お久しぶりです間もなくユア達もそろうので、みなでお邪魔いたします』
ふわっとあたたかな温度が届く。
『良く来ましたねラウマ。後で会えるのが楽しみですよ』
そうして温もりを残し気配は去った。
ただ接続して会話するだけなら、通常の数千倍の速さで情報を交換できる。
本人達の間では普通に会話したように感じるが、世界が止まったようにも感じる。
映像を伴う通信でも数百倍の速度が出るので一見同じ状態では有る。
ラウマは温かな慈愛の気配を抱きしめるように両手で自分の胸を抱いた。
目を開けるときょろきょろと周りを見回し、そっと女神像に抱きつく。
(おかあさま‥‥ラウマは健やかですよ‥‥でもあまり恥ずかしい所は見ないでくださいね‥‥)
ぽっと頬が染まるラウマ。
女神ラウマは、望めばあらゆる場所と時間を見渡せるようなのだ。
ひまわりハウスのTVに組み込んだ女神ラウマ製魔道具で、過去を見せてもらいラウマ達はその能力を知った。
祠から離れてキャンプ道具の整理を始めるラウマ。
ガラにもなく甘えたことをして、しばらくは頬が熱いのを自覚した。
会話と違い実際にあの空間を訪れる時、この場所に身体は残らない。
異世界の賢者ソリスの成す、魔法陣による空間転移と同じ理屈だ。
転移した肉体を女神ラウマの前に再構築する。
この時速度を合わせているのは女神ラウマの方なので、通常通りに時間はすぎる。
帰りも同じ手順で戻されるので、目撃したものには女神像の前に光が降り立ち、人が現れるように見えるだろう。
ノアが戻り二人がかりでキャンプを張る。
「このへんでいい?」
「そうですね、もうちょっとひっぱってくださいノア」
小さな3人用程度の物だが、空間魔法の付与された物で、内部は4倍以上の大きさになる。
家具類もそのまま収納する仕様なので、クッションや敷物が一緒に展開されるのだ。
ちょっと面倒な手順としては、通常のテントと変わらない手順で立てる必要があることだった。
立て終わって中を見れば何も無い普通の3人用テントに見える。
ここに魔力を行使して空間収納の展開をすれば、元通りの配置で家具もある大きな部屋になるのだ。
この維持には魔力が必要で、展開しておくには魔石か魔法士の魔力が要る。
ラウマやアミュアにとっては気にならないレベルの魔力なので、どちらかが居れば魔石は不要だ。
万一を考えて、魔石も準備はされていた。
「ふう、完成です。ちょっとお茶にしますか?ノア」
ノアは焚き火を準備してくれている。
「うん!ココアがいいな!」
「はいはい、ちょっとまっててね」
ノアが薪を入れる穴を掘っている間に、ラウマは生活魔法で空中に2人分のお湯を真球状にまとめ温度を上げる。
水温の調整は難しく、すぐに沸騰してしまうので丁寧にあげていく。
無詠唱ながら頭の中の式を調整し書き足し、微調整する。
生活魔法の式は短く単純なので、整えるのは高度な知識が必要だ。
ノアはこれくらいかなと掘るのをやめ、中に薪を丁寧に並べ着火の手前まで整えた。
ラウマはカップに粉末のココアの元を入れ、沸かしたお湯を空中から導き注ぐ。
これにはとても高度な魔法制御が必要で、ラウマの訓練にもなっている。
こればかりはまだアミュアにかなわないとラウマも自覚があった。
他の手を使う調理ではもうまけないけどね、と心で追記するラウマはニコニコのままだ。
「はい完成です。ノア、手をあらってからにしましょうね」
そういって先に出しておいた組み立て式のテーブルにカップを置くラウマ。
「はぁい」
ノアは短く答えて泉にととっと走っていく。
泉の畔でちょこんとしゃがんで、ちゃぷちゃぷ手を洗う。
甘いココアの香りがノアも笑顔にする。
ラウマはちょっとのこしたお湯に水をさらに足し手洗い用のお湯を準備する。
そこに手を入れちゃぷちゃぷと洗い、それを離れた森の奥に飛ばす。
放り投げたようにとんだ水玉が、ばちゃと木に当たる。
「うふ、命中です」
ちょっとたのしくなるラウマ。
3姉妹で一番最後に作られ、もっとも女神ラウマに近い思考を持つだろうこのラウマは、今ではまったく違う一人の女の子になったのだった。
クラスCの魔法職ハンターにして、家事全般を得意とし楽しめる可愛らしい女の子だ。
その微笑みすら、同じ顔だと一瞬気づかないほどノアともアミュアとも違う魅了になっていた。
心は顔にでるものなのだ。




