【第46話:気を付けること、学んだこと】
ラウマは困り果てていた。
公都エルガドールの片隅にある、小さなナイトバーのカウンター。
最近覚えて嗜むようになったお酒を、ゆっくり時間をかけて楽しんでいた。
はずだった。
最初は5人いた娘たちで、再会と無事を祝いあいグラスを重ねた。
ノアは今夜初めてのお酒なので、カーニャが目を光らせてペースを覚えさせていた。
「うぅ‥クスン‥さみしいのぉ‥‥みんなにあやまりたいの!‥‥ふぇえぇ」
ノアは泣き上戸だった。
ある程度酒がまわりだすと、次々と普段心に仕舞っていたのだろう後悔を、一つずつ告白し泣くのだ。
「ノーラにあいたいよぉ!!」
などと、誰もしらない名前が次々出てくるのだ。
最初はラウマも交替でなだめていたのだが、遂に走り出して飛び出すに至り、アミュアが追いかけて行った。
そのアミュアも酔っていたので心配したカーニャも飛び出していった。
じゃあ私達もと思ったら、何故かユアが酔い潰れてふにゃふにゃ言いながら寝てしまっていた。
置いていくわけにもいかず、おぶって出ようと思ったのだが、思った以上にユアが重たくて歩けなかった。
ラウマの筋力は普通の女子レベルだった。
強化魔法を使えばまだなんとかなるのだが、公都エルガドール全域に魔法を阻害する結界が貼られている。
これはヴァルデン王国の王都と同じ仕様で、城から離れると効果は薄れるが、ここはホテルから近い路地なので、わりと効いている。
お酒も手伝って、ラウマは魔法が使えないことを先程知ったのだった。
(こまったわぁ‥‥みんな戻って来てくれないかなぁ?)
「うみゅうあぁあん‥むにゃ‥」
ユアの謎のうめきがラウマに絶望を押し付ける。
(しかたないわ‥‥がんばってホテルまで行きましょう)
そしてもったいないなと、最後に残ったグラスを景気づけにくっと開けた。
カウンターに会計の銀貨を置き、気合を入れユアを背負いあげるラウマ。
「ふぅん!」
ズシっときた。
ユアは見た目以上に重いのだった。
体脂肪率の違いなのか、そもそも身体の作りが人間じゃないのか。
定かではないが、ラウマの全力を要求してきた。
(よし!いけるわ!)
なんとか背負って歩き出すラウマは、真っ赤な顔で歩き出す。
歩き出したら、歩くことしか考えていなかった。
「いっちに、いっちに」
掛け声がラウマの気合を示していた。
ラウマも実は結構酔っていたのだが、自覚がなかった。
最後に開けたグラスの分も一気にまわり、歩くことだけに集中したラウマは路地の奥深くに消えていくのだった。
どれくらい歩いたかラウマはもう解らなくなった。
眼の前に宿泊可と看板のネオンが光っていた。
(もうここでいいのでわ?)
歩くのは泊まるところへ向かうため。
そしてここは泊まれると書いてある。
(そうだここでいいんだ‥‥もうつかれたもん)
すでにユアの両足は持ち上がらず引きずられていた。
サンダルは片方無くなっていた。
真っ赤になったラウマは迷わずそのホテルに泊まるのだった。
(宿泊可と書いてあり、値段も払える値段だ)
そこまでがラウマの理性的思考だった。
「うっ‥‥あたまいたぁい‥‥」
チチチと鳥の声で目覚めたラウマ。
(あれ?)
予想外の重さを感じてみやれば裸の腕がラウマを抱きしめている。
(?!)
何事かと横をみれば、よだれをたらし寝ているユアがいた。
「ななな!なんでユアが寝てるの?!」
ぼっと真っ赤になるラウマ。
もぞと抜け出そうとして、さぁと今度は血の気が引いた。
(‥‥これはまずいわ)
ラウマは服を着ていなかった。
周りをみれば悪意すら感じる範囲に衣服が散らばっている。
吊り下がったランプにブラジャーが引っかかっていた。
ちらと布団の中をみれば、ユアも同じ状態。
(‥‥これは非常にまずいわ)
もぞもぞ抜け出そうとしたら、ユアが呻いて抱き寄せられる。
「うみゅう‥‥いかないでぇ」
ぎゅうとすごい力で、とてもラウマの力では逃げられなかった。
(ふええ‥‥これはまずいのよお!)
ラウマは真っ赤になって困り果てたが、自力ではなんともならない。
「‥‥ユア!ユア!‥‥起きてください!」
しょうがないので、まずはユアを起こそうと考えるラウマ。
記憶のすり合わせからしなくては、と焦りながらゆさゆさ揺すってみた。
「むにゃむにゃあ」
ちゅちゅと今度はほほにキスをしてくるユア。
「もう!!ユアおきなさああい!!」
ついにラウマは大きな声を耳元に吹き込んだ。
「ふみゃあ?!」
ぱっとラウマを放して起き上がるユア。
「うぅぅ‥‥あたまいたああい」
ラウマと全く同じ台詞で女の子座りで頭を抑えるユア。
布団が剥がれたので、現在の状態をさらに理解したラウマ。
(あぁ‥‥ダメだこれは‥‥ダメなやつだわ‥‥)
すっとベッドを降りたラウマはお風呂に逃げ込んだ。
そうして二人が身繕いを終えると、また問題点が見つかる。
ユアのサンダルが片側ないのだ。
「大丈夫!片足で歩く訓練したことあるし!あたし」
どんな訓練だよと思ったが、ラウマは肩を貸しながら宿をでた。
わりと器用にぴょんぴょんと片足ですすめるユアに感心して進むと、近くでサンダルを発見した。
「女神ラウマさま‥‥感謝を‥‥」
ラウマは捧げ持ち、祈りとともにサンダルを回収した。
そうしてやっと歩けるようになったが、二人とも全くこの場所に見覚えがない。
遠景をみればなんとなく方向は解ったので、中央通りを目指し歩くこととした。
「ねえ‥‥ラウマ昨夜の事おぼえてる?」
ユアが青い顔で聞いてくる。
二日酔いだけではない顔色の悪さだ。
「‥‥まったく覚えていません」
ラウマは正直に答えた。
「なんか‥‥ごめんね‥‥」
「いえ‥‥しかたないことです」
「おこってる?」
「いえ‥‥でも内緒ですよ?朝まで歩いていた事にしましょう」
ラウマが先程から一生懸命考えたシナリオだ。
「酔った勢いで歩き続けて、とても遠くまで行っていたと。そしていま歩いて帰ったと。そういうことにしましょう」
ラウマの思考ではこれで丸く収まると考えたのだ。
「うん‥‥わかった」
ユアもしょんぼりしながら二人でホテルを目指すのだった。
こうしてお酒は気をつけなければ、とラウマもユアも学んだのであった。
ホテルについて、カウンターで尋ねると、ノアもカーニャもアミュアも明るくなってから戻ったとのこと。
自分達だけじゃなかったと、ちょっと胸を撫で下ろした不良娘達だった。
お昼頃に5人で正座して、エリセラに怒られるところまでがセットだった。
「エイシスだけはいい子ね」とエリセラが抱きしめて、エイシスは嬉しそうだった。




