【第43話:違和感はゆらぎ不安に】
ミルディス公国は大きな山岳に挟まれた扇状の大きな平原にある。
中央付近に大きな河が有り左右に土地を別けている。
立っていてもわからないが、奥にも山側にも緩やかに傾斜しているのだ。
基本的には東岸側に都市が多く、西側にも都市はいくつか有るがあまり数も人口も多くはない。
雄大なその流れには南部にいくつも橋がかけられ、行き来ができるが、北部では船で渡す。
街道が北部にも一本あるので、そこは立派な橋がかかった。
ミルディス公国西武はそういった事情もあり、あまり開拓が進まなかったようだ。
ミルディス公国公都エルガドールからは6方向に街道が伸びる。
南北に伸び、東西ではさらに先が南北に別れる。
それぞれの先に3日ほど列車で移動すれば都市があり、その周辺にまた衛星のように街や村があった。
細くなった道と並走する疾風。
ユアとアミュアは夜霧で快走している。
公都エルガドールから北西に伸びる街道で、すでに橋は越えて辺境部に入っていた。
大きな街は通りすぎて、この先には町村しかない。
「なんだか急にさみしくなったね!」
ユアの声に前席のアミュアは振り向き答える。
「うん!辺境にはいったみたい!」
足を止めないと、前席と騎手は風の音で会話がし難い。
慣れた二人は互いの耳元に声を出せば届くと知っている。
ユアはアミュアを抱えるように乗っているので、そのまま顔を下ろせば話せる。
アミュアは振り向いてひねり、ユアの耳元に話すのだった。
それでも大きめの声が求められる。
夜霧の速度は、飛び降りれば人間をばらばらに出来る速度だ。
街をすぎてから街道は整備も悪くなり、道幅も狭くなる。
魔物ともエンカウントするようになったが、このあたりで夜霧に追いつける魔物は居なかった。
分かれ道で停まるユアは、地図を広げるアミュアを肩越しに覗き込んだ。
「こっちだよ」
アミュアは南西を指し、ユアはうなずいた。
「おっけーその村まで、まずは行っちゃおう」
うんうんとしながら地図をしまうアミュアを、一度ぎゅっと抱きしめるユア。
「りょうかい」
「ん‥‥ユアあったかい」
抱きしめたユアの腕に頬を寄せるアミュア。
そうして道と、互いの熱を確認して走り出すのだった。
ずっと走ってきた平原の外れ、正面に山が連なっている。
さほど高くはない山々だが、左右に見渡す限りあり、その縁に寄り添うように村があった。
「あれだね」
「うん」
夜霧を降りた二人は、ユアがアミュアを抱えて走り接近していた。
横抱きのアミュアはレビテーションを待機して、いつでも飛び上がれる臨戦態勢だ。
村は20世帯ほどの小さな物で、こちら側の辺境区では、小規模だが標準的な作り。
道の一方にへばりつくように、寄り添い並ぶのだ。
「いるね‥‥」
「うん」
アミュアがとんとユアの腰を蹴って飛び上がる。
一気にレビテーションで高度を取り、索敵魔法を放つ。
「右手のひとつだけ!!」
ふたりが捉えた気配以外には、敵はいないと報告するアミュア。
ユアは既にそちらに飛び込むように距離を詰めていた。
ガレージのシャッターが開いていて、中が見える。
古い自走馬車の影からぬるりと音もなく影が滑り出した。
「ふん!」
ユアの軽い気合とともに短剣が伸長され、黄金のきらめきが舞った。
同時に振り下ろされた影の爪を躱しバックステップし道まで戻った。
人形の影獣だった。
胴を切り離すつもりで振るったユアの横薙ぎを、左手の爪で流し右手で反撃してきたのだ。
ガレージから踏み出してきた影獣の足が地に落ちる前に上空から極太のレーザー。
黄色の輝きは弾速の速い光魔法。
狙いすましていたアミュアの狙撃だ。
速度があり、躱しきれず影獣の右側がごっそり無くなった。
バランスを保てず、かしいだ首がユアの薙切りで切り離される。
アミュアの魔法より先に、駆け戻っていたのだ。
停止した身体は倒れきる前にユアの左手に吸われ消えた。
落ちた首も後を追うと、死体は残らなかった。
とんとアミュアが後ろに降りた気配。
「全周敵意なし」
降りながら放った索敵魔法の報告も来た。
「‥‥なんか強かったよ?」
ユアの感想にとことこ歩いてきたアミュアも同意する。
「避けられるタイミングじゃなかった」
アミュアの魔法は、僅かに軸をずらされ、仕留め損なったのだ。
「うん‥‥吸い取った感触も濃かった」
濃いとは痛みの強さだった。
左手のラウマの奇蹟で影獣を吸うと、エネルギーとしてストックできるが、吸うときに猛烈に痛いのだ。
ユアは慣れたので、顔色も変えずに吸い終えたが、アミュアなら呻くレベルの痛みだった。
「ただの影獣にしては強い‥‥動きは素人っぽかったけど‥‥」
ユアはどこか不気味さを感じた。
アミュアも同じなのかぴととユアに寄り添った。
さらさらと風が砂を運び、また少し村を埋めていく。
そう遠からず放置すれば砂漠に飲まれるのであろう。
ユアは念の為と、全戸確認に入った。
アミュアは何故か山側が気になりチラチラ見ながら、道に残り全周警戒している。
最後の家を確認したユアが戻って来る。
厳しい顔をして、まだ半分戦闘モードだ。
小さく周囲を見ながらユアがこぼす。
「なんだかおかしいよ‥‥」
不安そうなアミュアをそっと抱きしめるユア。
「どうしたの?」
アミュアも顔色が悪く、表情も優れない。
「荷物がほとんど持ち出されていないし、争った様子も少ない‥‥まるで‥」
ユアの言葉は途切れたが、アミュアも同じ事を感じていた。
アミュアはユアにそっとささやく。
「まるでシルフェリアのよう?」
ピクとユアが反応する。
青ざめて見下ろすユアの目線は力がない。
「うん‥‥」
答えは短く、悲しい色をおびた。




