【閑話:エリセラの決意】
ユアとカーニャがヴァルディア家に挨拶に来た日の夜。
エリセラは涙する娘と、娘とも思う涙を残し外に出る。
ユアから事前に言われていたのだ。
カーニャが泣くようならば、二人きりにしてほしいと。
実娘を救えない夫婦を情けなく思うとともに、それを成すユアを頼りに思った。
ユア達はルメリナから二人きりで、カーニャの使っていた馬車でスリックデンまで来ていた。
赤い小さな馬車は可愛らしく、エリセラも見る度に微笑んできた。
(あの子は小さいときから赤が好きだったわ‥‥選ぶ時はいつも赤い色を選ぶ)
幼いカーニャがはにかんでリボンを選ぶ姿が浮かび、またエリセラは涙を流してしまう。
何年も子を無せなかったエリセラとレオニス。
本来許されない方法で娘を得た。
カーニャとミーナが失踪し、そもそも得られなかったはずの幸せだと、ずっと諦めてきたのだ。
自分たちのせいで娘が苦しんでいるのだと。
夫婦でなした罪を後悔して過ごしていたのだ。
手紙をもらい無事を知っただけでも望外の幸せだとも。
(ユアさんがこれで本当の娘になるのですね‥‥ご両親様にいつかご挨拶に行かなくてわ)
ユアの両親が既に他界していることは本人から聞いていた。
自分たちの娘にならないかと初めて聞いた夜に。
シルフェリアにお墓があるのと、エリセラの胸で泣きながら「ごめんなさい」と告げたのだ。
まだ痛みを伴う話題を出してまで、まっすぐに断った。
本当は貴女の娘になりたいのですと。
でも両親に不義理を働けないのですと。
言外にユアのあたたかな思いやりと、真っ直ぐな親愛を見たのだ。
あの夜の胸を締め付ける思いが、エリセラにはまだしっかりと残っている。
(あんなにしっかりして真っ直ぐな娘さんを育てたのですもの。きっと立派な方達だったのだわ)
あきらめないユア。
思いやりの深いユア。
まっすぐに言葉を受け取るユア。
心を偽らないユア。
エリセラは本当に沢山のユアを見せられてきたのだ。
滲んでいた涙を拭いキリっと表情を引き締めるエリセラ。
(私達に出来ることは無いのでしょうか‥‥あの二人に幸せになってもらうために)
そっと目を裏庭の方向に向ける。
今頃は月が昇るので、きっと庭で二人でいることだろう。
ユアとカーニャが寄り添う姿が目に浮かぶ。
優しい微笑みが自然と浮かんだ。
そこは昔からの二人のお気に入りだった。
そして‥‥レオニスとエリセラの大切な想い出の場所でも有る。
微笑みを終え、何かを決意した表情で屋敷にもどるエリセラ。
歩みには弱々しさはもう無く、魔導女男爵の誇りが滲んだ。
(まずは私達がしっかりとしなくてわ。ユアさんのご両親様に恥ずかしくないように)




