【第41話:いつものふたり】
船旅は順調に進んだ。
天気にも恵まれたので、波は穏やかで季節的に追い風にも恵まれた。
レジャー用の高速魔導船とはいえ、通常の交易船が10日以上をかける航路を、わずか3日でこなしてしまう。
海岸線には大きな街が見える。
ミルディス公国側の最初の港たるポルト・リュミエだが、船は寄港せず進む。
もう少し進み公都エルガドールの玄関口たる港湾都市マーレヴェラを目指していた。
「大きな港がみえるよ!」
ノアは船員達に何度注意されてもマストに登るので、もう諦めて誰も叱らなくなった。
横木に立ち上がり、目を眇めるノアは多くの巨船が出入りする姿に興奮している。
「ノアお嬢!!あぶないからおりてくださいよぉ!!」
まだ諦めず注意してくれる船員がいた。
「はぁい!」
答えるやいなや、上空に飛び上がりくるくる三回転して眼の前に着地。
すとっと両手を広げてにんまりわらうノアに、注意した船員も頭を抱える。
「はぁ‥‥注意しがいがない‥‥」
「えへへ、これくらいの高さならへいきだよぉ」
ノアはけろっとしている。
これで身体強化無しであった。
夕方には更に大きな港町マーレヴェラに到着し、桟橋についた。
「では、予定通りなら一ヶ月の滞在予定です。また迎えをお願い致しますわ」
代表してエリセラは航海長に告げる。
娘たちは後ろでお行儀よく並んでいた。
「へい。お急ぎの御用がありましたら商会までご連絡を。3日できやすぜ!!」
元気に笑い、帽子をふって送ってくれた。
彼らは明日の朝出港で5日かけて戻るそうだ。
このユラ海沿岸部は季節風が巡っており、今の時期は東風が強い。
帰りは逆風の中を戻るので、時間が掛かるとのことだった。
マーレヴェラにはマルタ商会の支部はなく、交易拠点もないそうだ。
支店はミルディス公国各地にあるので、なにかあれば頼るようには言われていた。
「ママさん借りてきたよ!」
ノアが運転して元気に手を降る。
レンタルで自走馬車を借りてきたのだ。
4人乗りで、馭者席に二人乗れるので、6人まで乗車可能だ。
後部に空間魔法の収納もあるタイプで、みなが自分のスーツケースや背嚢を仕舞っていく。
ユアとアミュアが夜霧で先行して公都エルガドールで合流予定だ。
余分な荷物は馬車につんでもらい、別れを告げる。
「エリセラさん‥ホテルを押さえて待ってます。危なくない範囲で情報収集もしておくよ」
ぎゅむとエリセラがユアをハグする。
「はい‥‥絶対危ないことはしないでねユアさん」
最後にむぎゅとして開放し、アミュアに手を広げる。
「エリセラさん、ユアはおまかせを‥‥どうか気をつけて」
「アミュアさんもね。貴女も私の大事な娘なんですからね」
「はい‥‥」
アミュアもぎゅむとして離れた。
「カーニャ‥‥気をつけてね」
「大丈夫、心配しないで。みんな一緒だし、一人にはならないようにするから」
「うん‥‥ぜったいだよ」
ユアはなかなかカーニャを離さないので、カーニャがアミュアを手で呼ぶ。
「アミュア‥おねがいね」
「うん。カーニャ達も気をつけて」
そういってアミュアがユアを引きずっていく。
「カーニャぁ!!」
「すぐいくよ!ユア」
ほんの3日の別れがユアには辛いのだった。
カーニャは終始にこにこ。
ユアが惜しんでくれるのが嬉しいにきまっているのだ。
ずっとアミュアと二人にしてあげてないと、反省して今回はアミュアにゆずった。
最近のユアはカーニャと離れたがらないので、少し今後を考えて対策とアミュアと二人で決めた配置だ。
(王都でもいっぱい仲良くしたしね)
カーニャはアミュアのお姉さんでもあるのだった。
ミルディス公国は王国より少し涼しいようだ。
海側に開いた平原にあり、公都エルガドールに向けて坂を上がるように標高をあげる。
わずかながら高地にある国なのだった。
街道の整備は王国に準拠し、交通量もかなり多い。
ユア達は今日中に公都エルガドール入りする予定で、快調に飛ばしていた。
「ユア!あそこで一回きゅうけいしよう!」
前席のアミュアが指差す先には、川沿いのキャンプ施設のようで、開けた土地がある。
街道沿いには大型キャラバンなどが野営をする場所が所々あり、ここもその一つのようだ。
今は無人であった。
「はーい」
ユアは夜霧を減速し、そちらに向かった。
街道を飛ばすと危ないので、少しはなれた平原を夜霧はすすんだので、逆にこういった広場によく出くわすのだった。
手際よく焚き火をする二人。
アミュアのマントを畳んで敷いて座り、ユアのマントを二人ではおり、焚き火で温まる。
これはもう二人の旅の基本であった。
季節は夏だが夜霧の速度は速く、半日ですっかり身体は冷えてしまった。
あたたかなココアを淹れて、ふたりで飲みながら肩を寄せ合う。
「なんだか二人っきりの旅はひさしぶりです」
アミュアは嬉しそうに言う。
「そうだね‥‥カーニャを探していた時以来かな」
ユアの顔に淋しさが浮かぶ。
あの旅が連想して、エリセラの事を心配するのだろう。
自分がカーニャに焦がれたように、エリセラもレオニスを求めるだろうとユアは心を痛める。
「うん‥‥ユアあったかいな」
「アミュアもあったかいよ」
悲しい話題はしたくないと言うかのように、アミュアが話題を変える。
「公都エルガドールは大きな街なのかな?」
アミュアは事前に調べた数字では王都並かなと認識している。
「エリセラさんの話しだと、王都と違って防御壁が無いから、大きな市街があると言ってた」
ユアも表情を切り替え、少し明るく話し出す。
「ユアのおかあさまが淹れていたお茶を探そうね」
アミュアはユアにそっと甘える。
指を絡めるつなぎ方で手をつなぐのだ。
「うん。いっぱい買って収納にしまうよ」
えへへとユアも嬉しそうにアミュアに指を絡める。
そうして以前より少し二人は距離をつめ、温度を伝えるのだった。
今日も天気はよく、爽やかな夏の空気が川沿いのキャンプ地を抜ける。
今夜はいっぱい甘えようとアミュアは密かに野望をもつのだった。
久しぶりの二人旅なのだからと。




