【第38話:幸せをねがう不安】
久しぶりのポルト・フィラントだが、ラウマは上空からのアプローチが初めてなので、懐かしむ心はなかった。
割と人通りが多いので一旦少し戻り、人気がなくなった所で街道に近い高原におりた。
フィヨルドの大きな湾を左に見ながら右手の緩やかな丘に降りる。
最後はレビテーションで減速してとんっと着地。
「ふぃ‥魔力がギリギリでしたね。もう少し工夫しなければいけません」
にこりと笑い街道に向かうラウマ。
あの事件で失ったので、新たにこしらえた双葉のウッドロッドが腰にある。
唯一の武器で、生命線でもある。
ローブは暑いので着ておらず、ミニスカートにサンダル姿だ。
上はレモンイエローのタンクトップに白いパーカーを羽織っていた。
どこから見ても観光客である。
金髪を二本左右に編み込んで、後ろで合流し背中に流している。
毛先はおしりまで来る長さだ。
ぷらんぷらんと髪を揺らしながらとことこ歩くラウマ。
目指すはマルタ商会であった。
「と、言うわけでして‥‥」
ロレンツォ・マルタは終始にこにこと対応した。
「おまかせくださいラウマさん、最高の船旅を準備いたしますよ!」
にっこりのラウマであった。
「ありがとうございます」
その日は泊まってくださいと断れなかったので、お言葉に甘えたラウマは大きなお風呂と豪華な食事に舌鼓をうった。
寝室も豪華なもので、人気もなかったのでゆっくりと何度も色々な方法で一人で確認できたラウマは、ぐっすり満足して寝るのだった。
「あぁ‥‥さいこうです‥‥しあわせ」
薄暗闇のひろがる静かな寝室でラウマは思う。
(楽園すぎて普通の生活ができなくなりそう‥‥これを毎日したら大変だわ?)
などとちょっと心配になりつつも、ぐっすり寝るのだった。
ちょっと確認しすぎて魔力よりも体力を消費したラウマだった。
翌日しっかりと御礼をして後日の再開を約し帰路についた。
マルタ商会の中庭から飛び出しぐんぐんレビテーションで高度を稼ぐ。
「やっぱり一回高度を取ってしまったほうが、燃費が良い気がします」
高度を稼ぎながら風魔法の結界を回しておく。
カーニャ開発の高高度よう風結界だ。
雲の上まででてから飛行魔法を詠唱してトリプルキャスト。
持続時間増加と消費魔力軽減を2つ載せた。
水平飛行に入ると結界の形を制御して、浮力を少しもらいながら加速していく。
(いい感じです!今日は余裕があるかも)
魔力残量を確認しながら、長距離の移動に慣れていくラウマであった。
カーニャとユアは王都であちこちと周りながら、情報を集めていく。
カーニャの昔お世話になったという貴族家にも2件おじゃまして、情報を集めつつ御礼もできたとカーニャは喜んでいた。
今は少し休憩と、中央街道のオープンテラスに座り、買い食い中である。
「おいちい!」
ユアはクレープに夢中になって、カーニャのとシェアしてにこにこだ。
「でしょお?ここのは昔から美味しいのよ!」
カーニャもなんだか楽しそうでにこにこであった。
何年か前に一人でたべたのを思い出して、ユアと二人で食べるとさらに美味しいなと喜んでいたのだ。
「みんな揃ったらまた来ようよ!」
「そうね、きっといっぱい種類たべれるわねユア」
「うん!たのしみい。ぜったいこれノアとか好きだよ」
王都のハンターオフィスや、カーニャが付き合いのあった貴族関係からいくつか情報をもらっていた。
ミルディス公国方面で影獣の事件が最近いくつか報告があった。
これはハンターオフィスからの情報で、カーニャが王都現役時代に世話になった職員から仕入れてきた。
ちなみにカーニャは王都では有名すぎて、目立つので髪を結い上げて帽子で隠し、変装している。
珍しくパンツルックで黒一色に、朱色の大きめシャツをふわりと羽織る。
帽子も朱色の地味なものだが、カーニャはスタイルがいいので普通に目を引いていた。
「カーニャは何着ても綺麗だな!」
そういってぎゅっと腕を取るユアもわりとラフな格好なので、観光客に紛れ込めた。
半分は情報収集で、のこりの半分はデートしているような動きだった。
夜の王都ではカーニャの知っていたお店でゆっくりする二人。
街道から一本はいった小さな店だが、カーニャのおすすめで入った。
奥のボックスを一つかりてゆっくりグラスを重ねた。
食事は早めに済ませて、夜のお散歩がてらうろうろしつつたどり着いた。
「カーニャはやっぱり王都詳しいんだねぇ」
「ふふ、ハンターになってからかな、こうゆうお店を覚えたのは」
ユアもカーニャもあまり強くないカクテルをちびちびとしていた。
ゆっくり時間を使う贅沢を味わう。
「レオニスさんのこと‥‥心配だね‥‥」
「うん‥‥ありがとユア」
「‥‥カーニャがね‥‥エリセラさん達と仲直りしてくれてあたしも嬉しいな」
「ユア‥‥」
ユアの手をそっと握るカーニャ。
「カーニャがね‥‥いない間に何度かスリックデンに行ったの。その時にエリセラさんがあたしを心配してくれてね‥‥とても嬉しかったの」
「うん‥‥いっぱい迷惑かけてごめんね‥‥」
「迷惑なんかじゃないよ‥‥エリセラさんは危ないことをしないでとあたしを止めたの」
カーニャはそっとユアの肩に頭を乗せる。
「カーニャが居なくなる前にね‥‥エリセラさんが言ってくれたことがあったの。娘にならないかと‥‥とても嬉しかった」
「‥‥ユア」
「あたしは断ったの‥‥おかあさんの事をまだちゃんと受け止めていなかった‥‥幸せで忘れてしまうんじゃないかと恐れたの‥‥エリセラさんがせっかくそう言ってくれてたのにと、後ですごく後悔した」
カーニャはもう言葉が出なくてそっとユアを抱きしめた。
あたためなくてはと思うのだ。
「せっかくカーニャを連れて帰れるようになったのに‥‥どうして‥‥」
「ユア‥‥ありがとう。大丈夫、必ずみなで幸せになろう?私も自分に出来ることは全てするわ」
「カーニャ‥‥」
ユアはそっとカーニャを抱き返す。
今の自分に出来ることはそれしか無いのだなと噛み締めながら。




