【第32話:むねがくるしい理由】
去年の夏に購入したユア達の家。
そろそろ一年たつからお祝いをしようとみなで話しながら、庭でバーベキュー。
今日はアミュアとカーニャが緊急依頼でドラゴンを狩ったので、ドラゴン肉が入荷したのだ。
ユアとノアを中心にバーベキューするんだ!!と大騒ぎして、また近隣の皆に声をかける。
お隣のおじいさんはもうレギュラーメンバーだ。
今夜は早くあがれたマルタスや所員の女の子達も何人か来ていた。
アミュア達が依頼報告ついでに誘ったのだ。
どうせバーべキューするって騒ぐからと。
ユア達はこの家を「ひまわりハウス」と呼称する。
ユアが出窓にひまわりの鉢植えを置いてからそう呼び始めて、いつのまにか皆が口にする正式名称になったのだ。
庭のはじでは今年植えたひまわりが元気に育っていて、近々綺麗な大輪を咲かすであろう。
バーベキューのコンロが足りないと騒いで、マルタスハウスとお隣からも借りてきたユアとノアがガンガン肉を焼いている。
「お野菜もたべましょうね!」
ラウマは切った夏野菜も丁寧に焼いて振る舞った。
エイシスも手伝って、裏方は二人で回している。
だんだんとお腹いっぱいになった人から「ごちそうさま!」と引き上げていく。
マルタスも今日はエーシス達が泊まりの依頼に出ていて一人だからと、早めに引き上げた。
いつもは結構最後までユアと飲んでいるのだが、なにか用事でも有るのかもと、誰も引き止めなかった。
すっかり片付けも終わり、順番にお風呂タイムのひまわりハウス。
ラウマは最後までエイシスと片付けていて、今から二人でお風呂だ。
湯上がりのカーニャがバスタオル巻で髪を拭いて出てくる。
「ラウマありがと!エイシスもね」
二番目に入浴したペアはアミュアとカーニャだった。
「おいしかったです!おやさい」
アミュアもラウマに御礼をいいつつバスタオル巻で階段を降りていく。
今夜はまたユア達三人で寝るようだ。
「エイシス先にお入りなさい、ちょっとわたしは散歩してから入りますね」
じっとラウマを見るエイシスがそっと抱きしめる。
「ラウマ姉さま一緒に入りたいから待ってますね‥‥」
「エイシス‥‥」
ラウマもじっとエイシスを見た。
ノアは楽しくてはしゃぎすぎたからか、もう寝息を立てていた。
ユアも一番に入ったので下でそろそろいちゃいちゃし始めるのだろう。
二人きりのラウマとエイシスが見つめ合う。
「‥‥わかった。じゃあお散歩は今度にしますね」
そういって手をつなぎながらお風呂に行くラウマだった。
脱衣所で服を脱ぐラウマの手は遅い。
なにか考え事をしながらなので、進まないようだ。
すっかり脱ぎ終わったエイシスはそっとラウマを見つめる。
(ラウマねえさま‥‥戻ってからおかしいです‥‥)
ユアと二人で買い物にいって戻ると、荷物を置くのもそうそうにシャワーをあびた。
片付けをエイシスが手伝いながら様子が変でしたとユアに尋ねると、そうかなと視線を逸らされた。
(ユアねえさまと何かあったのかなぁ‥‥)
ラウマがユアを好きなのは皆解っているのだが、ラウマ自身がこれでいいのと言い切るので、それ以上周りから何も言えないのだ。
ただエイシスは時々ラウマの様子をみて、自分の胸も苦しいのを自覚する。
「ねえさま‥‥」
完全に手が止まって下着だけになり、鏡を見ているラウマにエイシスは声をかけた。
聞こえていないのか、そのままぼーっとしているラウマを痛ましそうにみるエイシス。
そっと背中に頬を当てて手もそえぴとっとくっつくエイシス。
「あ‥ごめん考え事しちゃってた」
「湯船にお湯をためたようですよねえさま‥‥今夜はすこしゆっくり入りましょう」
そういってラウマのブラを外してあげるエイシスだった。
ショーツは自分で脱いで、またそこで手を止めるラウマをそっと腕をとってお風呂に連れて行くエイシスだった。
(今日は重症です‥‥)
もうエイシスが全部してあげることにして、シャワーをあてて身体を洗い、髪も少し煙の臭がするので、丁寧に洗ってあげるエイシス。
湯船に導き座らせてから、自分の身体に取り掛かった。
ぽーっと湯船に入りまた考え事に沈むラウマを見ながら、手際よく自分も洗ってしまうエイシス。
(なんだろう‥‥とても悲しい気持ちがここにある)
そっと胸に両手を当てる。
(淋しい?‥‥切ない?‥‥)
エイシスにはその痛みが何なのか解らなかった。
ちゃぷとラウマの向かい側に入るエイシス。
ひまわりハウスの湯船は細長くて、エイシスが横になると頭も足も沈めることが出来る。
ときどき一人の時はそうして沈んでみることが有るのだ。
そっとラウマの足の裏に自分の足の裏を合せて押してみる。
んっと気付いてラウマはにっこり笑う。
エイシスもにっこりになってまたちょんと押すのだった。
「エイシスはさ‥‥ユアの何処が好きなの?」
「え?」
ラウマの質問の意味が解らないエイシス。
「だってエイシスもわたしと一緒でしょ?ユアが好きでしょ?」
「‥‥え?」
エイシスの胸はもう限界くらい痛かった。
研究所でエイシスはほとんどの時間を一人で過ごしてきた。
ユアに救い出されるまで、月に一度か二度エルヴァニスと話すだけの生活だったのだ。
一人の時間はエイシスの心をとても強くした。
悲しみに耐え、孤独を誤魔化す術を持っているのだ。
「‥‥わたしはね‥‥ユアが正直なところが好き」
「‥‥」
ラウマがずっと黙って見つめる。
「エイシスは?」
「‥‥」
すうと涙がこぼれるエイシス。
「あれ?」
自分の目が涙をこぼすのに驚いたエイシス。
ざぱっとラウマが立ち上がり近づいてきた。
そっと抱きしめてくれるラウマは暖かく、とてもいい匂いだった。
「エイシス‥‥わたしも同じ気持ちなの‥‥だから二人でいるときくらい素直に話そうよ」
ぽろぽろと勝手に涙が落ちるのを不思議に思うエイシス。
ラウマの言葉でやっと自覚した。
(そうか‥‥わたしもユアねえさまが好きなんだ‥‥)
ラウマが悲しそうにしたり淋しそうにするのをみて胸が苦しいのは、ラウマをいたましく思っているだけじゃなく、自分の痛みを思い出して苦しかったのだと、今エイシスは自覚する。
涙はいつまでも止まってくれず、ラウマはエイシスが泣き止むまでずっと抱きしめてくれたのだった。
何も言わないのにラウマの声が心に届いた。
いいんだよ、泣いてもと言われた気がしたエイシスだった。




