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【第28話:あたらしいヴァルディア家】

ヴァルディア家に新しい娘が増えた。

エリセラは家族をとても大切にする。

それは求めて、欲しがって、手に入らずにいた幸せそのものだから。

まだ研究者として生きていた若かりし頃より続く、エリセラの望む夢でも有った。

「お母様おはようございます」

「おはようレティ」

エリセラはハグをしたがる。

朝のあいさつからレティシアをふんわり抱きしめ微笑んだ。

まだエリセラの行動に慣れておらず、レティシアは毎回頬を染めうれしそうに微笑みかえす。

レティシアもまた親の愛に恵まれず育ってきたので、とてもエリセラの優しい愛情が嬉しい。

レティシアのすぐ後ろで服の裾を掴んでいたミーナもエリセラにぽふっと抱きつく。

「おかぁさまぁミーナも‥‥」

「ええ、おはようミーナ」

ぎゅっと少し強めにハグするエリセラは、この娘達を連れ戻してくれたユアに感謝を込める。

(ユアさん‥‥幸せをありがとう)

にっこりと笑い返してくれるユアがエリセラの心に浮かんだ。

ミーナもレティシアも毎日の鍛錬と、カーニャからもらったアドバイス。

そしてエーラからもらった試作品の、呪を抑えるACPリングを付けることで、ほぼ周囲への影響を無視できるレベルにした。

その上での結婚式、披露宴だったのだ。

ミーナはもともと家では下の娘ということも有り、病弱だった時期もあったので甘やかされ、とても大事にされていた。

ミーナは嬉しい気持ちとともに、自由になりたいと言う気持ちを育てながら日々を過ごした。

その反動もあり学院に入学し寮生活の中で、さまざまな改善取組を推進する活動もしていた。

今のミーナは過去の闘病生活をする前の、本当に幼少のころと変わらない雰囲気でエリセラにハグをする。

(ミーナは今、改めて子供からやり直しているのかも‥‥)

エリセラはそう思いながら、自身の過去も反省していた。

(いいえ‥‥私達家族みながやり直すのだわ‥‥)

にっこり笑いミーナの手を引き朝の食卓を目指すエリセラ。

ミーナは両手を愛する人達とつなぎ幸せいっぱいの、はにかむ笑顔になった。

まるで幼子のような透明な笑みで。




朝食後にエリセラは娘たちの相談を受けていた。

今朝はレオニスが出張で不在で三人の朝食だったので、そのまま食卓でお茶を飲みながら話し合っていた。

レティシアは16才でミーナはまだ14才。

本来ならまだ学校に通っていたはずだったが、残念ながら先月本人達の希望で退学の手続きをしていた。

学校側は事情が事情だしなんとか卒業という体を取りたがったが、本人たちが断った。

『それは休まず学んだ本当の卒業生達に申し訳ないです』と、そう意思を表したのだった。

そうして学徒という身分を無くした二人は、何か仕事をしたいと言うのだった。

「そんなに急がなくていいと私は思いますよ。二人にはまだまだ時間が沢山有ることを忘れないで欲しいわ」

にこにこと答えたエリセラ。

ミーナとレティシアは二人で何か働いて、ヴァルディア家のためになりたいと申し出てくれたのだ。

「お母様、ミーナもわたしも身体はもうすっかり健康に復したと思いますわ。少しづつでもお返ししたいのです‥‥お母様達からいただいたお気持ちを」

「おかあさま、ミーナももう大丈夫です!毎朝レティと走っていますし、運動もして体力も戻しました」

「レティ、ミーナ‥‥ありがとう。ではしばらくは二人とも私の秘書官として働きませんか?主な仕事は事務方となりますが、視察があれば外にも伴いますよ」

こうして見習いのような所から、仕事を覚えつつ世界に心と身体を慣らしていく娘達を見守ろうと考えるエリセラ。

それはもう得ることは無いとあきらめた、エリセラの幸せの一つでもあった。

(ユアさん‥‥本当にありがとう)

エリセラの中では幸せを感じる度に、恩人の笑顔が浮かぶ。

それはエリセラに感謝とともに、あたたかな何かを与えてくれる笑顔だった。

そうして細かな打ち合わせをしつつお茶を楽しんでいると、慌てた家人がノックと同時に入室した。

「奥様!一大事ですぞ!」

慌てた顔の家人に、エリセラは少女のように口をとがらかす。

「カール‥‥奥様はやめてとおねがいしたわよ」

入室してきたのはエリセラが幼少の頃より務めている、長年の家臣で部下の家令長だった。

ふたりは家族のように気安く、かつてエリセラは『じいや』と呼んでいた。

「し‥‥失礼をご領主さま‥‥今朝密偵がもどりまして、緊急の報告がありました‥その‥」

ちらちらと娘二人をみるカール家令長。

「構いませんよ、二人はわたくしの家族です」

人払いを促すカールに、にっこり笑い構わず報告を求めるエリセラ。

「‥‥レオニス様との連絡が途絶えました‥‥ミルディス公国内です。現在、現地の部下が手をつくして探しておりますが‥‥すでに1週間前より連絡がつかないとのことです‥‥」

エリセラの視界が暗転し椅子から崩れ落ちる。

「お母様!!」

とっさに飛び出したレティシアが受け止めたが、二人で床に倒れてしまう。

薄れゆく意識の中、新たな絶望に嘆くエリセラ。

(そんな‥‥どうしてなの‥‥‥‥ひどいわ‥‥‥‥)

「おかあさまあ!!」

ミーナの声がその場でエリセラの聞いた最後の音だった。




家令長の指示で家人が動き、すぐにエリセラを寝室に運んだ。

ミーナは泣きながら付き添い離れない。

レティシアの事もいつものように離さないので、レティシアはミーナを慰めつつ義母を看病することとなった。

「カール様。お義母様はお任せいただいて大丈夫です、どうか領内の事をお願い致します。お義母様がお目覚めになるまでは、くれぐれも慎重に情報をお取り扱い願います」

「は‥承りました若奥様。二人残しますので、何かあれば私にご連絡を」

家令長はちょっと悩んだが、レティシアを『若奥様』と呼称することとした。

ミーナのことは以前のまま『お嬢様』と呼ぶ。

どちらかと言うと仕事の部下というよりも、家の者としてヴァルディア家に務めてきた人物だ。

ヴァルディア家の中ですでにレティシアは、新しいお嫁さんとしての立場を獲得していた。

幼少より嫁ぎ先での心構えは仕込まれていた。

対外的にはいずれは公爵家に嫁がせる予定でも有ったのだ。

もともとは社交的ではなかったレティシアだが、戻ってからはミーナの代理のようにしっかりと人に意思を表す。

ミーナはまだ対人対応に不安を残している。

そのたびに繋いでいる手をぎゅっと一瞬力を込めミーナはお礼とするのだった。

レティシアもにこりとミーナに笑む。

いいのよと伝えるためだ。

こうして、新しいヴァルディア家に試練があらたに課されたのだった。


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