表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/109

【閑話:妖精とエルフルールの】

ひまわりハウスの地下には、完全防音で空間魔法を併用した地下室がある。

これは一階玄関横に設置した緩やかな階段を下り、一枚の扉で隔離されている。

扉には魔石バッテリーがしこまれ、各種の結界と空間魔法による隔離をしている。

これはかつて制御できない香りで、周囲を狂わせるミーナとレティシアを隔離するための病棟として作られた。

二人が少しづつ立ち直り、今は長い回復を目指す旅にでたので、代わりに同じ状況のカーニャを隔離してきた。

「アミュア‥‥時間をありがとう」

カーニャは優しい微笑みを向ける。

皆に見せる頼もしいカーニャではなく、ユアとアミュアにだけ見せる素のカーニャだ。

大きめのダブルベッドの上で向かい合い、正座した二人。

不思議と緊張感はない視線を交わしている。

「ううん、カーニャとはわたしも話したかった」

アミュアも笑顔だが、隠しきれず黄昏色の瞳に硬さをにじませた。

カーニャのアイスブルーの瞳もすっと淋しさをまとわす。

静かな無言が互いに染みていく。

カーニャはユアと心を通わせて、本来のしなやかで強い自分を取り戻していた。

皆よりも少しだけ大人のカーニャを。

「初めてアミュアを見た時に思ったの‥‥」

カーニャは懐かしむような顔になり、淋しさは色をひそめた。

「なんて美しいとね‥‥正直ほれそうだったわ」

ちょっと冗談のように笑うカーニャ。

とても自然で、あの旅の中何度も見た魅力的で、アミュアも憧れる笑みだ。

「やだぁカーニャ‥‥小さかったでしょ?わたし」

ふわりとアミュアも懐かしそうに笑む。

アミュアは小さかった頃は、いつもカーニャを羨んでいたのだ。

カーニャのようにユアを支えたいと。

「大きくなっても同じ様に美しく‥‥きれいなまま」

カーニャの目にも羨む色が浮かぶ。

この二人は昔から互いに無いものを相手に見て、羨みあってきたのだ。

「今でもアミュアを大切に思うの‥‥あの小さかったアミュアと同じ様に」

カーニャは自分の妹ミーナとアミュアを重ね合わせ、同じ様に大切に思っていた。

今は少し気持ちに変化がある。

「そして今でも羨んでいる‥‥」

アミュアは表情を引き締める。

「わたしもカーニャがうらやましい‥‥」

アミュアはもらした言葉に押し流される。

「‥‥言わないときめていたのに‥‥」

アミュアの言葉は溢れ出す。

二人だけを約束されたこの場所がアミュアを油断させたのだ。

きっとアミュアの眉があがる。

「わたしだって!うらやましいよ!わたしだって‥‥わたしだって‥‥」

眉を下げたアミュアは遂に涙をこぼす。

まっかになった顔でカーニャから視線を逃がした。

カーニャは静かに言葉を待つ。

うながさず、言い返すそぶりもない。

この時間はアミュアに言いたいことを言わせたい時間だったのだ。

カーニャの伝えたいことはもう全て語ってあった。

「ユアが好きなの‥‥きっとカーニャと同じ気持ちで好き‥‥」

カーニャは頷く。

わかっているよと。

「く‥‥くるしいの‥‥ユアがカーニャに抱かれる姿を思い描くだけで‥‥」

ぎゅっと服の胸を両手で握りしめるアミュア。

布が描くしわが、そのままアミュアの苦しみを示し、カーニャの心を絞り上げる。

ぽろぽろとアミュアの涙が落ちる。

カーニャは抱きしめたい気持ちを拳を握り込み耐える。

ここで止めてはダメだとカーニャは思う。

もっと話をさせないと。

自分は恨まれてもいいと。

抱きしめて温度を伝えたら、またアミュアは我慢して心を隠してしまう。

言葉も伝えてはいけないとも。

声を聞けばアミュアはカーニャを許してしまう。

アミュアの瞳はくるくると色を変えカーニャを見つめ続ける。

「わたしはもっとユアを支えたい‥‥すべて受け止めたい‥‥」

アミュアの涙がとまり、赤くなった頬も色を落としていく。

それくらいの時間が流れたのだ。

「ユアの望むすべてに応えたい‥‥」

アミュアの話がついに核心に至る。

「わたしはそうしてカーニャを羨んだの‥‥それが出来るカーニャを‥‥」

そっと怯えるように、ためらう手がアミュアの手を取った。

「私もね‥‥あの地獄で救い出された時、全く同じ気持ちをアミュアにもったわ」

カーニャの瞳にも遂に涙があふれた。

嗚咽もなく流れ落ちる美しい雫にアミュアは心を奪われる。

カーニャは微笑んでいた。

「ありがとうアミュア‥‥ユアとの時間をくれて‥‥」

きゅっとアミュアの手もカーニャの手を握り返した。

「ずっと持て余す心があったの‥‥見るまいと、気づくまいとした醜いと思っていた心」

カーニャは涙を止め透明な微笑みに戻っていく。

少しだけアミュアの手の温度を受け取る時間が必要だった。

「絶望の中、私を支えたのもその心と同じものだった」

カーニャは微笑みを消し覚悟を決める。

「私はユアを愛しています」

はっとアミュアの目が開かれる。

震えるアミュアの唇も想いを告げる。

「カーニャ‥‥わたしもユアをあいしている」

アミュアも対抗するように引き締めた顔で答えた。

カーニャはやっとほっとした顔になり、また微笑む。

「ありがとうアミュア‥‥ユアを愛してくれて」

ぎゅっと遂にカーニャはアミュアを抱きしめる。

「もちろん私はアミュアも愛しているわ‥‥ずっと前からね」

カーニャの声に頼もしい姉のニュアンスが戻る。

アミュアは安心して甘える。

「カーニャもありがとう‥‥わたしの醜い気持ちも受け取めてくれた‥‥とてもうれしい」

ぎゅうとアミュアが力を込めカーニャの温度を求める。

「それは醜くなんて無いのよ‥‥とても美しく自然な想いよ」

カーニャもとても温かなアミュアを感じ取る。

「そしてアミュアもカーニャが大好きです‥‥もう失いたくないよ‥‥」

アミュアも嫉妬と愛情のはざまで苦しんでいたのだ。

カーニャをも大切に思うのにと。

今やっとアミュアの中で折り合いがつく。

すっとはなれたカーニャは微笑みながら、アミュアに伝える。

「もう少しだけ私達も仲良くしましょう?ユアを安心させるために」

ぱぁっとアミュアにも微笑みがもどり頬を染める。

「うん‥‥わたしもカーニャをあいするわ‥‥ユアと同じ様に」

「うれしい‥‥」

そういってもう一度二人の影が重なり時間が流れていった。

やっと妖精はエルフルールの香りを受け入れ、その甘い魅力に捕らわれたのだった。

バラの花弁はずっと妖精を待っていたのだと気付いて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ