【第27話:エイシスの本当にほしかったもの】
エイシスは家事がとても好きだった。
姉達の役に立てていると実感できて、家事自体も性格にとても合っていた。
お掃除をすればきれいになった床や家具をみて微笑み、お洗濯をすれば、日差しに干される布たちのゆらめきを幸せだととらえられる。
洗剤の匂いも大好きだった。
エイシスは研究所でこういった些細な幸せをまったく楽しまず、目的のため生かされてきたので、普通の人が気付けない幸せをあちこちにみつける。
「うふふ、天気がいい日のお洗濯は、とてもしあわせ‥‥いいにおぉい」
香りを胸いっぱい吸いながら、姉たちの服を丁寧に干していく。
カーニャから始まり全ての姉たちは、エイシスを甘やかし慈しむ。
恵まれなかった幼い頃からを、与え直すかのように溢れるほどの愛をくれるのだ。
その姉達の衣服を綺麗に洗って、干していく。
それだけでも幸せなのに、こっそりとエイシスはさらなる幸せを求める。
「カーニャねえさまはバラの香り‥‥とてもすてき‥」
うっとりとカーニャの下着を干すエイシス。
ちょっと大人っぽいデザインもどきどきする。
「ユアねえさまの匂いはお日様のよう」
にっこりとエイシスも笑顔になる。
ユアの匂いは笑顔と結びついてエイシスに覚えられているのだ。
「ラウマねえさまは優しい匂い」
レモンイエローの小さなリボンを縫い付けたラウマの下着にも顔を寄せ臭いを嗅ぐ。
「うふふ‥‥なんだか幸せになっちゃう」
ラウマにはいつも甘やかされるので、自然と甘えた声になる。
にこにこしながら次の下着を取り出すエイシス。
「わぁ‥‥アミュアねえさま大胆な下着だわ‥‥ふふなんだかかわいい」
アミュアの下着はカーニャにせまる大人っぽさだった。
背伸びをするその思考も、姉なのにいつもかわいらしいなと、キュンとなるエイシス。
水色のリボンがなければカーニャのものだと思ったところだ。
「わ‥‥ノアねえさまったら‥‥」
ノアの下着は黒レースで、一番大人っぽいデザインだった。
いつも元気でとても素直なノアを姉と思えないエイシス。
どちらかというと同じ末っ子仲間といった気分。
おねえさんぶる可愛さを感じてしまう。
「ノアねえさまの匂いはなんだかほっこりしますね」
そうやって全員の下着も干すのがエイシスは大好きだ。
その衣服が一番それぞれの匂いを残しているのだ。
下着達を干したら、ほかの衣類で隠すように周りを埋めていく。
これは大事な宝物なのだと、エイシスは隠してしまうのだった。
自分だけの密かな楽しみなのだと。
外側に行くほど大きな衣類とシーツになり、一々干す度に匂いを確認する。
エイシスは匂い博士になっていて、シーツですら使用者を識別出来てしまう。
「よし、全部干したわ」
6人分の洗濯物はそれなりの量になるのだが、エイシスは物足りないとすら感じる。
もっとお役に立って、愛を返さなくてわと思うのだった。
幸せな匂いたちに包まれて。
お料理もエイシスは大分上達した。
なにしろ先生がたくさんいるのだ。
ラウマはとても上手に食材を切り、下ごしらえをする。
手際が一番よく学ぶ所も多い。
カーニャも実は料理が上手く、おしゃれなレシピをたくさん教えてくれる。
盛り付け方一つで、美味しそうに見せるそのセンスに憧れるのだ。
ユアの料理の腕前も相当で、いつでも専業主婦が務まるレベルだ。
簡単なものから手の込んだ者まで、色々な調理法を知っていた。
ユアの母から受け継いだという煮込み料理も先日教えてもらい、料理の意味をきいて涙をこぼしてしまった。
よしよしと抱いて撫でてくれるユアに、ちょっと甘えてしまった。
真っ白なミルクの香り高いシチューは、『健やかに』と送るんだよと教わった。
母親の味なんだと。
ユアの母が戦いの中で命を落としたと聞いていて、堪えられず涙が落ちたのだった。
(わたしも‥‥お母様に会いたいな)
叶わぬと知りつつ自分の母も思ってしまったのだ。
ユアに先日の旅でエイシスの母エイリスに会った話も聞いて、少しこれで言葉以上が伝わるかなと教えてくれたのだ。
アミュアも実は料理を知っている。
とても努力をしていて、レシピを沢山知っていた。
一緒に調理をしていると、だんだん危険な調理法を使おうとする。
『あとはエイシスにおまかせを!!』
そう言ってキッチンを守るエイシスだった。
なにしろ魔法詠唱を始めるのだ‥‥調理中に。
ノアは全く調理に興味を示さない。
ただし味見は大好きで、意外にも繊細な舌を持っている。
キッチンでおしゃべりしながら、時々味に寸評を付けてくれるのだ。
その繊細な感性とバランス感覚をエイシスは日々見習った。
そんな事を考えながら、今日は珍しく全員居るお昼ご飯を完成させるエイシス。
「かんせいです!」
綺麗にダイニングテーブルにならぶ料理たち。
人数がいるので基本的に大皿で提供し、各自好きなだけ取り分ける。
ノアとアミュアは好き嫌いがあって、避けて取ろうとするが、三人の姉が厳しく見張る。
口を尖らせながらもチラとエイシスも見て、ちゃんとたべてくれる。
「オイシイワ」「ホントウデス」
硬い声で二人は感想をエイシスに述べるので、作ってもらった感謝と受け取り、それも嬉しいエイシス。
今日はパンも自分で焼いたものをバスケットに盛り付け、香ばしい匂いが部屋中を満たしている。
お茶の用意もしてあり、いつでも入れられるようにして姉たちに声をかける。
「ねえさまあ!!ごはんですよぉ!!」
最初はもごもご話していたエイシスが、今では元気に嬉しそうに姉を呼ぶ。
大きな声であちこちに転がり、それぞれにくつろぐ姉たちを呼ぶエイシス。
にこにこ集まる家族を、満面の笑みで迎えるのだった。
エイシスの日々はこうして満たされていた。
心からほしかった本物の愛情で。




