【第21話:エルフルールの帰還】
「おかえりなさいカーニャさん」
エリセラはいつもの様に玄関先でハグをする。
ユアが来てもアミュアが来ても、ノア達やミーナ達にも。
誰もを娘と迎え入れ、ハグしてそっと囁く。
おかえりと。
今日も同じハグをして、やさしく声をかけ家に招きいれる。
そう決めていた。
「おかあさま‥‥ごめん‥なさい‥」
拳を握りしめ真紅に染まり涙をこぼす、最も長い愛を注いだ娘には、いつも通りにはできなかった。
力のかぎり抱きしめうずくまる。
引かれたカーニャも膝をつき、ただ嗚咽が漏れ続ける。
「カーニャ‥あやまる事など何も無いの‥‥かえって‥帰ってきてくれた‥」
それ以上は言葉にならず、ただ力のかぎりに抱きしめる。
覚えていたよりもずっと大きくたくましくなったカーニャを、ただ強く抱くことしか出来なかった。
エリセラの温度で、カーニャのこわばりが全て溶け出していく。
「おかあさまぁぁ!」
カーニャもついに拳をほどき、エリセラの背を強く抱きしめる。
覚えていたよりもずっと細くて、あたたかい体を。
カーニャの顔には幼女のようなくしゃくしゃの泣き顔。
全てさらけ出した娘としてのカーニャがそこに居る。
エリセラのすぐ後ろに立つレオニスの目も、今日はこらえられず涙をこぼした。
そうして8年ぶりに本当にカーニャは家に帰った。
何度も帰宅したが、ここを家だと思えなかったカーニャは、今やっと帰還を果たしたのだった。
翌日にカーニャは今度はアウシェラ湖を目指す。
そこに最愛の妹ミーナが居ると教えられたから。
辛い思いをした姉妹は、あの最後の別れからまだ再会を果たしていなかった。
カーニャの中にある最後の後悔だ。
ユアのものになる前に、どうしても実家とミーナに話したかったのだ。
自分がこれから幸せになるのだと。
いつかユア達とミーナと泊まって女神に祈ったあのホテル。
そこに今ミーナは居る。
最高の友達達に支えられ、立ち上がろうとしていると聞いた。
ロビーの受付で部屋を聞き、姉だと断り部屋に向かった。
受付で聞いた話では、連れも含めて入室してから一度も部屋を出ていないという。
ノックに応えたのはフィオナ。
「カーニャおねえさま?!」
にっこりいつもの笑顔でそっとハグをするカーニャ。
「フィオナ‥‥苦労をかけましたわ」
声を殺して嗚咽を漏らすフィオナ。
「いいえ‥決して苦労などと‥」
それ以上話せなくなるフィオナをそっと押して入室するカーニャ。
「ごめんね‥また後で」
そう言って横を抜けテラスを目指すカーニャ。
そこに肩を寄せ合うミーナとレティシアをみつけていたのだ。
テラスの手前でセレナとエーラにもうなずくカーニャ。
セレナは顔を覆って泣き出してしまう。
ぽんとやさしくカーニャはセレナの肩に手を置く。
「セレナ‥ありがとう‥‥」
ついに崩れそうになるセレナをエーラが支え抱く。
エーラにも笑顔でうなずきテラスに進むカーニャ。
「ミーナ‥‥」
はっと振り返るミーナはふるふると首を何度も振っている。
そっと背をレティシアに押され走り出すミーナ。
「ねえさまあぁぁぁ!!」
どんと胸に飛び込んだミーナはひしと姉を抱く。
「ごめん‥‥遅くなっちゃったねミーナ‥」
ぐりぐりとカーニャの胸に顔を押し付けたまま首をふるミーナ。
あーんと子供の頃と同じ泣き方をするミーナを、ぎゅっと力を込めて抱くカーニャも、声を殺して涙を流した。
応接に移りゆっくり話をしたカーニャ達は、エーラも交えカーニャの意見も伝えた。
「ミーナもレティも自分のコントロールを学びなさい‥‥」
カーニャは2人に分泌を先ずは抑える様に指導する。
それは魔力的な制御を含む自制の技術とコツだった。
「私には効かないけど、このままではいけない」
そう締めくくった。
落ち着いた頃に隣でずっと手を握りあっていたミーナとレティシアがカーニャに報告をする。
「ねえさま‥ミーナはレティと結婚したいのです」
すぐにレティも続く。
「許されない愛だとは承知しております‥‥でもわたしのミーナへの気持ちは本物なのです。もう自分を偽るのは嫌なのです‥‥」
にっこり頼もしいカーニャスマイル。
「良いに決まっているわ!おめでとう!ミーナ、レティ。とても嬉しいわ!」
そうしてまたカーニャに泣きつくミーナをよしよししながらレティシアを手招くカーニャ。
「レティも来なさい。あなたも今日から本当の妹よ」
微笑みで涙を落としていた、さみしそうなレティシアは感情を溢れさせカーニャに抱きつく。
「ねえさま!うれしい!」
ぎゅっとミーナと共にカーニャの膝にすがりしばらくはまた涙に包まれた。
とても嬉しく幸せな涙に。
「じゃあその日に家で合流ね。ルメリナに戻りつつ伝言しておくわ。またねミーナ、レティ。みんなもまたスリックデンで」
そうしてカーニャは、もう少しここでゆっくりすると言う妹達を残し、帰路へついた。
夜霧は軽快に草原を駆け抜け、カーニャの腰まで伸びた金髪を吹き流した。
ー12才で家を出て
王都で大人になり
世界中を旅してユアに出会った。
そうして魔王と対峙し
ユアに救い出されて
家族みんなで幸せを約束した
丘の上で立ち止まったカーニャの頬をゆるりと夏の予感が吹きすぎる。
これからどんどん暑くなると。
(なんて‥‥長い旅だったろう)
カーニャには人に話せないような思い出も沢山あり、それらも今のカーニャを作り上げたと自覚していた。
(そうね‥)
そっと王都方向を振り返り目を伏せる。
涙は無いが悲しみがこもる。
あの街には悲しい思い出が多すぎた。
カーニャはルメリナを向く。
自然とあたたかな微笑みが浮かぶ。
(これで良かったのだわ。全てこれで良かった‥‥)
カーニャは過去を全て肯定し未来を目指
す。
これから自分の幸せが始まるのだと。
全ての過去の上で、と。
【カーニャの成り上がり4】抜粋
(あの日こうしてジュースの異常に気づいていたらどうなっただろう)
カーニャは時間潰しに思考実験を始める。
少しだけシュミレートしたが、結果あまり良いものではないなと判断した。
そもそもあのパーティに参加しなければ、今のカーニャは無いだろうと思えた。
不思議なことだとも思うが、今はこれで良かったと思っている。
(いつかそうやって全部が良かったと思える日が来るのかな?)
もしも読める人はR18の【わたしに手が届いた時】を合わせて読んでほしいのです。本当のカーニャをご理解いただけます。




