【第20話:My Dearest Sweets.】
ヴァルディア家にレオニスが帰宅する。
ミルディス公国側に商談に行っていたのだ。
エリセラの執務室で報告と次の動きを打ち合わせている。
「お疲れ様でしたわあなた‥」
「平気だよ‥今の季節なら大型の馬車でも通行可能だねあの峠は」
かつてユア達がこえた雪月山脈をこえるルートで交易を始める計画を、ヴァルディア家では計画していた。
カーニャとユアが結婚の挨拶に来てからなので、かなり商談は進んでおり今回は最終確認の意味合いだった。
「アグルスタ鉱石があれば‥‥魔石バッテリーの中間素材たるエーラル機関を増産できるわ‥‥間違いなくこれから世界に需要の生まれる魔導バッテリー」
「そうだな‥‥エーラ博士と情報をやり取りできるだけでも有利に事を進めている」
ミーナの親友たるエーラ・マルタは今世界で最も注目されている魔導技師といって差し支えない。
最新型の魔導バッテリーは小型高出力安定と今までの魔石バッテリーの常識を覆すものだった。
先々の発展を考えれば、世界中の商機をさぐる商人達も指を咥えてはいまい。
今ヴァルディア家が取り組む交易は、ヴァルディア家の規模では最大のルートになるであろう。
今までのルートを全て引き上げここに集中する大胆な運用。
「買い上げまでマルタ商会が保証してくれる‥‥あの親子には感謝しかありませんわ‥‥」
エリセラは先日ポルト・フィラントまで足を運びエーラの実家マルタ商会とも商談を成功させていた。
「そうだな‥‥次は公都エルガドールに足を伸ばしてくるよ。上手くいけば輸送のコストを大きく下げ規模もあげられる可能性もある」
「ええ‥何度も申し訳有りませんわ‥‥‥‥あと‥ちょっと淋しいわ‥‥」
そういって応接のソファで隣に座っていたエリセラは、レオニスの肩に頭を寄せた。
レオニスは無言の笑みだが、しっかりとエリセラの肩を抱き寄せた。
とても仲のいい夫婦であった。
領内では加工工場をヴェルディア家として運営し現在進行形で規模を増やしている。
エーラル機関の製造は、まさに家をあげて取り組む産業と成ってきていた。
エリセラは今まで特に野望をもたず堅実な領地経営をしてきたが、今後の娘たちのためにと新たな取組に挑んでいるのだった。
「それでは‥‥新しい家族に‥‥」
『かんぱーい!!』
ひまわりハウスの庭ではわりと頻繁にバーベキューが開かれる。
原材料の肉類がハンター活動の中で自然と貯まるので、この消費が主な理由と建前上はなっている。
実際にはユアやノアがやろうやろうとさわぐからだ。
今回は体調が復さず臥せっていた、カーニャのおかえりパーティと銘打っている。
「あと‥‥この場を借りてごほうこくを‥‥」
そういって真っ赤になるユアに既に真っ赤になっているカーニャを押し付けるエイシス。
ユアはアミュアに押し付けられる。
もじもじのユアが報告。
「かぁにゃと結婚しました‥‥」
『おめでとう!!』
わーっとまた盛り上がり、騒がしくなる。
夜間でも有るし近所迷惑になりそうだが、近隣の住人は全てユア達と仲が良く、可能な人は全て呼んでいるので、今ご近所はゴーストタウンだ。
その分ひまわりハウスの人口密度がすごいことになっている。
そうして遠慮のなくなった宴は大騒ぎになり、しばらく肉とお酒が飛び交う場となった。
お誕生日席のように庭の建物側に作られた席にはユアを中心に、左右にアミュアとカーニャが座り、みなに囃し立てられ三人で真っ赤になっている。
恥ずかしそうな三人だがテーブルの下ではしっかり手を繋いでいた。
ユアの手が塞がるので、アミュアとカーニャが交互に食べ物を食べさせ、さらにからかう声を掛けられるのだった。
ユアは恥ずかしいのと嬉しいので、泣き出してしまい、カーニャとアミュアに交互に甘える。
そんな仲の良さを見せつけられ、皆もほっこりするのだった。
「あぁん!うれしいよおぉ!」
「よしよし」「いい子ねユア」
次々と参加者が挨拶にきて、ユア達とそれぞれ話していく。
カーニャを皆に紹介するユアはどこか誇らしそう。
そんな中でも、ちゃんとアミュアが淋しさを感じる時は、必ずユアの視線がくる。
後でいっぱいいちゃいちゃしようねのウインクを添えて。
カーニャは実は結構人見知りで、心細いなと思う瞬間が有る。
そんなときは必ずテーブルの下で握ったユアの手が励ますように強く握る。
そんな細やかなユアの心を二人はちゃんと受け取れるのだった。
そして他の家族たるラウマにもそれは全て伝わり、ちくりと心を刺す。
ラウマのその些細な痛みにノアとエイシスは気づき寄り添うのだった。
マルタス達やお隣のおじいさん、オフィスからも職員やハンターの先輩がきて祝っていく。
とても賑やかで、とても幸せな時間がながれた。
『きーす!きーす!!』
アルコールもまわって盛り上がった誰かが初め、いつのまにか大合唱になるキスコール。
ユアのほほにアミュアとカーニャが両側からキスをして大歓声が上がる。
顔をしかめぽろぽろ泣き出すユアを二人がそっと抱きしめて、黄色い悲鳴があがるのだった。
それはユアが本当に家族を得たと実感できた日。
あの村から逃げ出して、2年かけて手に入れた幸せを、じんわり噛みしめる日となった。
この街が故郷に、そしてここが本当の我が家になった日だったのだ。




