【第18話:エイシスとカーニャ】
翌日の朝食を食べてから今日の予定を話し合った。
ユアとアミュアにカーニャとエイシスの四人だ。
「ノアとラウマがお昼くらいには帰ると思う」
ユアが説明しはじめる。
ダイニングで食事の後なので、4人掛け無垢材のテーブルセットだ。
わりと大きな物で本来は6人掛けで、セットの椅子の2つはキッチンに置いてある。
「今夜は家族皆が揃うので、カーニャの歓迎会をしたいの‥‥いいかな?」
「賛成です!じゃあわたしはお買い物かかりをします」
アミュアが笑顔で言う。
「ではわたしはお部屋をお掃除して、時間のかかる調理を先にはじめますね」
エイシスも笑顔になる。
「アミュア、エイシス‥‥ありがとう明日は実家に一度帰るから、今夜だけよろしくね」
「カーニャ‥‥あたしももちろん一緒に行くからね」
ユアがカーニャをまっすぐ見て言う。
そもそも帰るとは一度も聞いていなかった。
「ユア‥‥ごめん一人で帰りたいの‥‥お父様とお母様にちゃんとお話ししたい」
カーニャは悲しそうな表情。
「わかった‥‥ユアがいると都合が悪いなら‥‥待ってる」
ユアも眉がさがる。
「ごめんね‥‥もうこれからは、こんなわがまま言わないから今回だけ。あと夜霧を貸して欲しい」
「うん‥わかった」
ユアも淋しいというのが本音で、カーニャのしたいことも解るのだ。
「あともし良かったらアミュアと話がしたい‥‥今から少しいいかな?」
カーニャはにっこりアミュアに言う。
「もちろん‥‥んと、下にいきますか?」
アミュアもいつもの静かな笑みで答えた。
「そうね‥‥」
カーニャも微笑みにして目を伏せた。
「じゃあ終わったらお買い物いっしょに行こうねユア。まってて」
「うんじゃあ片付けとかしてる」
ユアはちょっと複雑な気持ちだった。
(三人でいるって‥‥難しいことなのかな?あんなに自然に旅をしたのに)
すぐ終わりそうな雰囲気だったのに、アミュアが上がってきたのは一時間以上立ってからだった。
カーニャは少し寝るから下には来ないで欲しいと言っていたとアミュアが二人に伝えた。
「アミュア‥‥お買い物いこう?」
「うん、お昼までにもどろうね」
そういってユアの手を引いてアミュアは外に向かった。
エイシスは少しだけ考えて、お茶を淹れることにした。
食後のお茶ではなく、のんびりするためのお茶を2人分淹れるのだった。
そうしてダイニングにお茶の準備をしてからそっと階下をうかがいに行くのだった。
「カーニャさん‥‥よかったらお茶をいかがですか?二人はお買い物に行きましたよ」
階段から部屋が見えない所でエイシスは声をかける。
一瞬だけ間があって答えるカーニャ。
「ありがとう‥‥今行くわ」
声に特別な感情はないなとエイシスは安心する。
気配を高めずにそっとダイニングに戻った。
戸棚からクッキーの缶を出す。
前にお隣さんからもらったクッキーの缶を、今も使っている。
中身は先日ラウマと二人で焼いたクッキーになっている。
カーニャは寝るといったのに、ちゃんと服はそのままだし、手袋もしている。
カーニャが椅子に座ると、エイシスはクッキーを勧めた。
「これ、こないだラウマさんに教わって一緒に焼いたんです」
「へぇ~すごいよ!お店のみたい」
エイシスもカーニャの隣に座り、クッキーをとった。
お茶はユアに教わった紅茶を入れておいた。
淹れたての香りが部屋に広がっている。
「お茶もなかなかいいものね?」
「はい、ユアさんに分けてもらいました」
くすっとカーニャが笑う。
「ユアったらね、昔一緒にあちこち旅をしたんだけど、会う度になにかしら私の真似をしてるの‥‥とってもかわいいでしょ?」
「ほんとですね、ユアさんは可愛らしいです」
「紅茶もね、最初は顔をしかめていたのよ。ふふ」
「へぇ~」
しばらくとりとめのない話が続く。
エイシスは緊張した顔でカーニャをみた。
カーニャも察して口を閉じる。
「お話しておかなければいけないことが、わたしにもあります」
カーニャは姿勢も正す。
「きくよ。なんでも言って」
エイシスはほっとして話し始める。
「もし気分が悪い話なら、止めてください」
「うん‥‥」
「私は‥母の受精卵から育てた娘だと聞かされました。そうして研究所で育てられ小さいウチから教育を受け、4年前からはエルヴァニス様に選ばれ寵愛をいただきました」
「エイシス‥‥」
カーニャの表情は哀しさ。
「エルヴァニス様は愛情の表現が普通の方と違ったようです。わたしはマスターしか知らないので違いが解らなかったのですが‥‥」
「大丈夫想像つく‥‥というか私も同じものをエルにもらった‥‥彼はこの世界の人ではなかったわきっと」
エイシスは目を伏せる。
「やはり‥そうなのですね‥‥ユアさんは自分のしたい事をみつけて、して欲しいと言ってくれます」
カーニャは微笑みにもどる。
「わたし‥‥このままユアさんやアミュアさん達と一緒にいたいと思うのです‥‥ここはとてもあたたかくて心地よい家です。皆さんの留守を任されるのもとても幸せに思うのです」
カーニャは頷く。
「それで良いのだと思うわ‥‥そして他にしたいことが出来たら皆に相談すればいい。誰もエイシスが邪魔だなんて思わないよ。もちろん私もね」
エイシスの瞳からぽろりと雫が落ちる。
「わたし‥‥こんなに幸せで良いのでしょうか‥‥マスターは滅び、塵に還ったとユアさんに聞きました。わたしもその時に死んでいればよかったのだと、ずっと思っていました」
つぎつぎに涙はあふれるが、エイシスは嗚咽を漏らさない。
「マスターは私に本当の愛をくれませんでした‥‥そうしてユアさんに終わりにしてと頼んだのです‥‥戦いの最後に」
「エイシス‥‥そんなのユアが認めるわけがない」
「はい‥‥ユアさんはわたしを生かし、そしてここにいて良いと言います‥‥本当にいいのでしょうか?」
エイシスが赤い目をカーニャに向ける。
「‥‥カーニャさんは私達姉妹以外で唯一マスターを知る方‥‥お話をしたかったのです‥‥わたしは生きていていいのでしょうか?」
「いいに決まっているわ!」
思いがけず強い言葉がでてしまったカーニャ。
「ユアは‥‥迷わない人ではないの。迷っても選び続けて、戦い続けてきた‥‥きっとエイシスが死にたいといったらユアは傷つく‥‥そんなこと言わないでよ。いいに決まっているのよ‥‥」
カーニャはそっとエイシスを抱き寄せる。
「もうそんな事は口に出さないで‥‥私も同じなの。ユアに救われた者だわ‥‥一緒に幸せになりましょう?ユアの望みはそれだけなのだから」
「カーニャさん‥‥」
「イーリスのお姉さんなんだから、今日から貴女も私の妹よ。エイシス‥わたしの悲しい妹‥‥二人でがんばりましょう」
「カーニャねえさま‥‥」
エイシスも抱き返し、遂に嗚咽をもらした。
カーニャは万感を込めて抱きしめる。
(そうだ‥‥一緒にしあわせになる‥‥それがユアの望み)
カーニャは遂に心を決める。
(もう迷わない遠慮もやめる‥‥私の幸せがユアの幸せだし、エイシスもアミュアも皆が幸せじゃないとダメなんだ)
そっと栗色の髪もなでるカーニャ。
(それが‥‥私の愛した人のたった一つの望みなのだから)
カーニャの中に久しぶりに論理的思考が戻り、遂にカーニャは自分を取り戻した。
妹を守ろうとする時カーニャはとても強く、魅力的になるのだった。




