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【第17話:妖精はひまわりのもの】

下から上がってきたカーニャは、良く知るもの以外には普通のカーニャに戻ったように見えた。

会話も普通に受け答えるし、視線も合わせられる、発作も起こさない。

不思議なことにバラの匂いもおさまり、ほんのりしか感じない。

人を狂わせるほどは香らないのだった。

夏が近いのに、カーニャは白い布手袋をしている。

この理由はカーニャとユアしか知らないことだ。

それ以外は前のカーニャに戻った感じだ。

ユアとアミュアには、なにか思い詰めた表情が辛そうと思えた。

みなで晩御飯を食べてから、カーニャは地下で寝ると言った。

ユアはアミュアと久しぶりに自分のベッドに寝て、イーリスは帰宅し、エイシスはノア達の方に自分のベッドがある。

ノアとラウマは明日には戻る予定だ。




「アミュア‥‥少しお話したいな」

「うん‥‥どうしたの?」

アミュアの様子に変化はないように見える。

声色も表情も普段と変わらない。

「そっちに行ってもいい?」

「うん」

アミュアはにっこりで寝具を持ち上げてユアを招き入れる。

「エイシスに聞こえないかな?」

「静かに話せば平気かも?」

ちょっと二人で息を潜めたが、エイシスの気配はしなかった。

「アミュア‥‥大好きだよ」

「うれしい‥‥わたしも大好きユア」

さらにぴったりくっついてユアはアミュアの耳元に話す。

「アミュア‥‥今アストラル・プロジェクションをしてもいい?」

「うん?どうして?」

「エイリスが言ってたでしょ?二人で試してって」

「あぁ言ってました」

「じゃああたしが呼ぶよ」

「うん、わたしも瞑想して待ってる」

ユアは心を澄ます。

すっかりコツをつかんだユアは暗闇に沈んで行くイメージを持つ。

自分の心のなかにどんどん沈むのだ。

暗闇の底に大きなひまわりが見える。

すとっと降り立つユアは目を閉じ、すぐとなりに居るはずのアミュアを探る。

(見つけた‥‥よいしょ)

ぱっとユアの前にアミュアが現れる。

ふたりとも寝間着だ。

(やっぱりユアがはやいね‥すごいよ)

(ちょっとコツをつかんだよ‥‥)

ユアの眉がさがる。

アミュアはにこにこのまま見ている。

ユアは気になっていたことをまっすぐ尋ねる。

(アミュア‥‥ごめんね?嫌だったの?カーニャのこと‥‥)

アミュアは笑顔を消す。

(そんなこと言わないで‥‥すぐに慣れるとおもう。だってずっと一緒に旅だってしたし、お風呂も一緒に入ったよ‥‥カーニャのことわたしも好きだよ)

アミュアは笑顔にもどる。

ユアの表情は変わらず淋しげだ。

そっと手を伸ばしアミュアを見る。

(アミュアも手を‥‥)

(うん‥‥)

アミュアもユアの手に自分の手を重ねた。

ぽっと手に温かさが伝わりあう。

(不思議だ‥‥現実で手を触れるよりもアミュアを感じる)

(ほんとだ‥‥なんだか手からユアが流れてくる‥‥ああわかった、これ円環の時とおなじだ)

ユアもはっとなる。

(そうだね、この感じ‥‥何かに似てると思った)

じっとアミュアを見るユア。

アミュアも静かに微笑み見つめ返す。

(もっとくっつきたいよ‥‥アミュア)

(うん‥‥)

そうして二人の影が一つになり、互いが見えなくなる。

(アミュア目を閉じてみて)

(うん‥‥あぁユアがたくさん感じられる‥‥抱きしめてくれる時みたい)

それ以上には言葉はなく、二人の心がぼんやりと温かいまま時間がすぎる。

肌と肌を合わせる以上の一体感と安心感。

なんの抵抗もなく2つの心が溶け合う。

ユアは驚いている。

カーニャと触れ合った時に感じた抵抗感や激しい熱が全く無い。

ただ暖かくアミュアを包み込み、アミュアもユアを包む。

あたたかで穏やかな温度が混じり合い同じ温度になると、ただ心が暖かかった。

(アミュア不思議だよ‥‥まるでずっと前からこれがあたし達の形だったみたい)

(うん‥‥とても自然で‥‥とてもあたたかい)

ユアは思い切って気になっていたことを聞く。

(もしも‥‥あたしがアミュアをもっと欲しいと言ったら困る?)

(わたしは全てユアのもの‥‥すきにしてほしいよ‥‥)

アミュアは自然な温かさのまま。

心からそう思っているとユアにはわかる。

(アミュア‥‥‥‥)

ユアの心にはまだ戸惑いがある。

アミュアは少し温度を上げる。

(とてもうれしいの‥‥アミュアをもっとユアのものにして‥‥)

ユアも揃えて温度を上げていく。

(あぁアミュアとってもあったかいよ‥‥アミュアに包まれている)

(うん‥‥わたしもユアを感じるよ‥‥もっと中にきて‥‥)

それはカーニャと過ごした炎のような心ではなく、じんわりとあたためるお風呂のような心地よさ。

(アミュア‥‥だいすきぃ)

(ゆあぁ‥‥わたしもだいすきだよぉ)

ゆらりと熱い温度もまとい二人は溶けていく。

同じ温度をたもちながらどこまでも一つになっていく。

(ゆあ‥‥すごくしあわせだよぉ‥‥)

(うん‥‥アミュア‥‥)

おおきなうねりをもって温度が上がる。

すっと波が引くように下がってはまた上がる。

そうしてどんどん高い温度で二人が揃っていく。

それは果てしなくつづく二人だけの波になった。

そうして時間をわすれ夢中になる。

ただお互いだけがある。

やわらかな暗闇のそこで。




どれくらいの時間が過ぎたのかわからなくなる頃ユアがそっと尋ねる。

(アミュア‥‥つかれていない?)

(うん‥‥少しだけ‥‥でももう少しこうしていたいな)

アミュアの気配が少し弱くなったのを感じてユアは不安になる。

(もっとちゃんとエイリスに聞いておけばよかったな)

(‥‥なにを?)

(これってどれくらいしていいのかとか‥‥前に戻ったらアミュアすごく消耗していた)

(だいじょうぶ‥‥あの日はたぶん上手く揃わなくて辛かったの‥‥今日は上手にユアに揃った)

(よくわかんないや)

(いいの‥‥もう少しだけ‥‥)

アミュアはユアにわがままを言って聞いてもらえるのがとても幸せだった。

ユアもアミュアが心を見せてくれた気がしてとても満足。

これは穏やかな一つの愛だったのだと、ユアは自覚するのであった。

(何一つ足りないものなどなかったよ)

(うん?どうしたのユア?)

(なんでもない‥‥愛してるアミュア)

(‥‥あぁ‥‥あいしているユア‥‥うれしいよぉ‥‥)

それは優しい暗闇が育んだ二人だけの温度だった。

全身をあわせる以上のものを伝えあった夜だった。







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