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【第16話:おかえり】

夜遅くなったが、ホテルにエーラが着く。

荷物を降ろすのももどかしく、テラスに向かった。

窓を越えた先に懐かしい友達の姿。

暗闇にぼんやりと浮かんでいる。

踏み出そうとして、腕を引かれ留められる。

「エーラ‥‥そこまでよ」

厳しい視線で唇を引き結ぶのはセレナ。

「ごめん‥‥忘れてはいなかったけど。つい‥‥」

そっと反対の腕も取られる。

表情を消したフィオナだ。

「それ以上近づけば影響する恐れがある」

静かに念を押すフィオナの声は抑えられレティシアとミーナには届かない。

頷いたエーラはそこから声をかける。

「ミーナ、レティ久しぶり‥‥会えて嬉しいよ。会いたかったよ」

ミーナがうなずき、レティシアが言葉を返す。

「エーラ‥お久しぶりです。ミーナもわたしも会えてとても嬉しいわ‥‥また明日の朝に顔を見せてね‥‥」

ミーナはレティシアの肩に顔を埋めエーラを見れない。

いや、エーラに自分を見せるのを恥じるのだ。

そっとミーナの背を支えるレティシアがゆっくり首をふる。

ここまでと伝えたのだ。

くっとエーラの喉が鳴り涙がこぼれる。

侍女達が優しくエーラを室内に戻した。

ふるふる震えだすミーナの背をぽんぽんとレティシアは叩く。

大丈夫エーラもわかってくれているよと、言葉ではなく伝えたのだった。




エーラの部屋は隣に取ってあった。

レティシアとミーナをセレナに任せ、フィオナがエーラを送り応接のソファに座らせた。

そっと引き寄せ胸に抱き、背を撫でる。

「エーラ‥‥判ってあげてね。ミーナは自分が汚れたと気にしているの。無垢な貴女に見られたくないとだけ思っているのよ」

ふるふると首をふるエーラもフィオナに抱きつく。

「どうして‥‥ミーナが‥レティが‥」

エーラはあの事件の日に3人で居たのだ。

エーラとミーナの相部屋に。

新しい思索があるから意見を求めたらしい。

簡単な実験器具を準備しにちょっと離れた間だったと悔やむのだ。

共に居たとて、何が出来たわけでもなし、ただ被害が3人になっただけだとセレナにも励まされた。

フィオナからもエーラが無事で良かったと涙をもらった。

エーラは同じ様に被害にあった自分を想像できなかったが、痛みは受け取った。

そうしてしばらく寝込んだので実家に帰されていたのだ。

ミーナ達が救出されて、スリックデンに居ると聞き、真っ先に訪ねてもくれた。

そうしてフィオナとセレナに次ぐ、3人目の香りの被害者にもなったのだった。

レティシアとミーナは危険な花の香りを分泌するようになったのだ。

それは同じ室内に長くとどまるだけで人を狂わせる甘い香りだった。

そうしてカーニャと同じ様に定期的な発作に苦しみ、発作はより濃度の高い危険な香りを振りまいた。

それが2人の復帰を難しくしている要因の一つだった。

エーラは魔導科学の博士号手前と言う学徒だ。

非常に優秀で在学中から会社を運営し、自分の開発改良した魔石バッテリーで一財を成してもいる。

ポルト・フィラントで商家を経営する父の支えもあったであろうが、魔導器具開発の才は疑いようがない。

「完成したの‥試作品が」

フィオナは驚く、わずか4カ月で試作まで至るなど、あり得ない開発速度だと。

「完成って‥‥アンチカースの?」

エーラはまだ赤い目でキリリと表情を締める。

「そう‥ACP‥アンチ・カースパヒューム‥あの呪いの香りを打ち消す魔道具‥‥香りを無効化はまだ難しいけど受け手を守るフィールドを展開する」

そう言って金色のリングを示した。

それはまさに闇夜に灯された一筋の光。

どこにも向かえないあの2人を導く、しるべと成り得る光だった。

ふるえる声でフィオナが問う。

「幾つあるの?その試作器は?」

にやりとエーラが微笑む。

その頼もしい笑みこそエーラの本性。

「3つ作ったよ。間に合わせた‥‥」

すっとまた悲しみが溢れてしまったが、フィオナは力をもらった。

エーラ博士がここに居たのだと、心強く思った。

ぎゅっとまた抱きしめフィオナはついに涙をこぼした。

「ありがとう‥‥エーラ‥‥これで前に進ませてあげられる‥‥」

エーラも涙が止まらないが、頼もしい笑みをまた浮かべる。

「もう少し研究が進めば、レティやミーナ側の装備で動けるようになる。必ず作り出すよ‥」

うっとフィオナは嗚咽も漏らす。

ありがとうありがとうと、それだけを繰り返して。



ミーナとレティシアの分泌物をエーラは持ち帰った。

自分でも被害に遭い狂うことで、香りに、分泌物に含まれる効果を呪いと断定した。

魔法的カースを微量に粒子状に混ぜ揮発して大気にも拡散すると。

一定量体内に取り込むことで効果を発揮するのだと、研究で明かしていった。

ミーナとレティシアそれぞれに僅かに違う式が組まれていて、分離する事が必要だと気付くまで一月を要した。

フィオナとセレナの伝でルメリナに移っていた2人から混ざらない状態のサンプルを送ってもらい、今日の試作完成に至った。

昨夜の内にセレナとフィオナが別々に試し効果を確認していた。

完全に作用していると。

そして今曙光を前に東の空を睨む5人が揃った。

あの日と同じ様にミーナを中心にエーラとレティシアが微笑む。

3人はとても仲が良かったのだ。

外側を挟むようにレティシアとフィオナが、エーラとセレナが手を繋ぎ真っ白のコートが5人揃ったのだ。

今静かに最初の一筋が伸びだし、日の出を迎えようとしている。

明るくなった景色はまだ水墨画の淡さを霧で描く。

静かな湖面に波は少なく鏡のように鎮まっていた。

光は溢れ出すように増えていき、目を閉じた横並びの5人を照らした。

各々が想った願いはわからないが、確かにまたここに笑顔が5つ揃ったのだった。

女神アウシュリネの想いの湖に。

ミーナは確かに聞いた気がした。

あたたかな微笑みの声を。

ただ『おかえり』と。

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