【第13話:カーニャとユアと】
カーニャの心にも深く隠された想いがあった。
それはユアの言う通りだった。
いくつもの旅を共にし、互いの秘密を分け合い。
心を触れ合わせてきたのだ。
カーニャもとっくにユアを愛していて、あの地獄の底で自覚していたのだ。
(ユア‥‥)
ついにこぼれるカーニャの声にも深い親愛がこもる。
ユアが密かに想い。
もしかしたらと、カーニャの中に見つけていた気持ちだ。
ユアもそっと手を伸ばしカーニャに触れようとする。
お互いに触れられずに震える手を差し伸べ合っているのだ。
カーニャにはユアに伝えられない半生があるのだ。
大学を卒業しハンターになり、そしてユアに出会うまでの人生だ。
そこには純粋で無垢なユアやアミュアに見せられない、醜い自分が居たとカーニャは思う。
そうして触れる事をためらうのだ。
けがしてしまうのではないかと恐れて。
(カーニャ‥‥あたし‥‥愛して欲しいの‥‥カーニャにたくさん)
ユアの涙は収まるが悲しみがそこに研ぎ残される。
許されないと思っているのだ。
ユアの中にもあるそういった欲望を悟られたら、今まで積み重ねた透明な二人をよごしてしまうと。
ユアのカーニャへの想いとはそういった好きだったのだ。
表に出すことが出来ないとユアが決めてしまっていた好きだ。
ユアは人々の中に普通にあるそういった好きを見てこなかった。
生まれる前に父をなくし、両親からそういう好きを学ばなかった。
まわりの村人たちもエルナとユアの事情を知りすぎていて、そういった好きを見せられない。
そんななかユアは年を重ねるごとに、心と身体の間に小さな違和感を覚えるようになっていた。
純粋で無垢なアミュアと言う存在を側に置き、認めることができなくなっていた。
自分の心に秘めるカーニャへの欲を。
そうして隠しあった心が今触れようとする。
月光が全てを青く染める。
二人の心が触れる時その光はいつもそっと包みこんでくれていた。
お互いの想いをそっと暗闇に隠して。
いまその月は大きく天を覆い、二人をもう隠しはしないのだ。
さらけ出されたその熱い想いをただ互いに受け取ってしまう。
ユアもカーニャもお互いを同じ様に求めていたのだと。
アミュアはそんな二人を一番側で見つめ続け、二人の心を二人以上に理解していた。
だから悲しくて涙が止まらなかった。
だからカーニャの事も好きなのに、ユアの背中を押せずにきたのだ。
今日までは。
エイリスとメアリーを知り、アミュアの心にも変化があった。
恐れる必要などないのだと。
心を結んだ相手をただ信じる強さを見せられたのだ。
そうしてやっとカーニャを迎え入れ、ユアを渡すことが出来た。
アミュアもまた一つ上のアミュアになったのだ。
そうして今ユアとカーニャも一つ階段を上がる。
ユアの手がカーニャに、カーニャの手もユアにふれた。
さらけ出した心同士が触れるこの場所で。
一つに重なった二人の影が、くっきりと地に落ちる。
今夜の月はとても大きく強い光を落としているのだった。
ここには肉体が無いので身体を触れ合うことは出来ない。
心だけをむき出して対峙する世界なのだ。
そして心を偽ることが出来ない。
カーニャはユアの熱い想いを受け取る。
(ユア‥‥あいしてる‥‥私もあいしているの)
ユアもまたカーニャの熱くほとばしるような愛を受け取る。
それはユアが今までの人生で、一度も味わったことがないとろけるような想いを含んでいた。
カーニャの方がはるかに成熟した愛を知っているのだ。
(あ‥あ‥‥あぁ‥‥カーニャぁ‥‥)
こころが熱く燃え上がる。
ユアの心は今カーニャの燃え上がってしまった愛に翻弄される。
いつも隠しあっていたその密かな想いを、この精神世界の青い月光が照らし出してしまう。
(ユア‥‥許して欲しいの‥‥カーニャは‥貴女が思うような女では‥‥)
カーニャの心が戸惑いに揺れる。
(私はずっと隠してきたの‥‥恥ずかしかったのよ自分が‥‥)
ユアはカーニャの心を見せられ混乱の極みにいる。
カーニャはユアの混乱する心も感じ取れる。
混乱する理由も。
(あの月夜にかわしたキスの意味を伝えるわ‥‥ユア‥‥)
ユアはカーニャの熱く純粋にユアを求める心を感じる。
(かぁあにゃ‥‥こわいよぉ‥‥)
ユアはそのシンプルで真っ直ぐなカーニャの気持ちを恐れる。
今まで誰にも触れさせなかったユアの真ん中にカーニャは踏み込むのだ。
そこを求めるから。
(大丈夫よユア‥私が一緒だから‥‥怖いことなど無いわ)
カーニャにはそれはとてもソフトで十分に遠慮した心だった。
ゆっくりと優しくユアの心を包み込み温めていく。
熱い温度だけはそのままに柔らかなカーニャがユアを包みこんだ。
(あぁ‥‥カーニャ‥‥あついよぉ‥‥)
(大丈夫ユア‥‥カーニャにも触れて‥‥)
(!!!)
ユアがカーニャの心にも触れてみる。
そこにあるのは燃え上がる真紅のカーニャ。
ユアが憧れて心奪われた強くしたたかで大人のカーニャだ。
(あぁ‥‥カーニャ‥‥)
(ユア‥‥愛してる‥‥)
(カーニャぁ‥‥あいしてる)
二人の温度がついに揃い心が溶け合う。
まだカーニャが遠慮してユアが背伸びをしているのだが、それでやっと揃うのだ。
((熱い‥‥))
そこには燃え上がる愛の炎が現れるのだった。
深くかさなり混じり合うことで。
月は地平に沈み暗闇が辺りを支配する。
そこに恐れるべき何者もなく。
ただ暗闇の中二人の心が燃えていた。
赤く熱く。




