【第12話:アミュアとカーニャと】
漆黒の闇に大きなひまわりが咲いている。
真上を向いたその中央にユアとアミュアが立っている。
(ユアすごいです、私はまだ瞑想に入れませんでした)
(えへへアミュアの気配はすぐ判るんだ)
そう言って手を触れ合うようにするユア。
アミュアの手に速やかに心地よい温度。
(やっぱりユアはすごい‥‥)
(ありがと‥‥さあカーニャを見つけてしまおう)
そう言うとぺたんとあぐらをかくユアが手でアミュアを招く。
そっと抱きしめるように重なるアミュア。
すうとひまわりの大地が消え、ユア達は漆黒の世界に浮いている。
(カーニャはあそこだ‥‥)
触れ合っているカーニャの温度を頼りに精神世界を飛ぶユアとアミュア。
完全に重なりあい一つのまま飛ぶのだった。
ユアは飛ぶイメージを持てないが、アミュアは魔法で飛び回るのでイメージが強い。
そうして2人なら速やかにカーニャを見つけられると見越していた。
どんどん深く降りるイメージで進むと、チラチラとあちこちに火が燃える朱色の大地が見えてきた。
(ラウマ様の所に初めて行った時みたいだねアミュア)
(そうです、わたしもそう思ってました)
漆黒に浮く真円の巨大な朱色の大地は、色は違いうがあの、初期のラウマの空間にそっくりであった。
途中でカーニャらしき人影を見つけ側に降り立つ。
2人に別れ歩いて近付くと、幼いカーニャが膝を抱え泣いている。
完全に幼女の姿だ。
(カーニャ‥‥迎えに来たよ)
ユアが心を伸ばすと飛び付いてユアにすがるようにするカーニャ。
(ゆああぁ!あーん)
いつもの大人の身体より小さくて、声も甲高い。
(さみしかったよぅ‥‥ユアもう置いて行かないで‥‥)
(ごめんねカーニャ‥‥)
うずくまり重なってあたためるユアに続けアミュアが尋ねる。
(カーニャ‥‥貴女の心はどこに在るのですか?)
(知らない‥‥)
ツーンとするカーニャはアミュアには冷たい言い方で答える。
その心には拒絶の気配が貼り付いている。
アミュアは悲しそうな表情になるが、頑張って続ける。
(カーニャを救いたいのです‥‥わたしもカーニャが大好きなので、とても悲しいです)
アミュアの言葉には、あたたかな思いやりと、淋しい切なさがこもる。
この世界では心を受け取らない事も出来ない。
心と心で話し合っているから。
顔を上げる幼いカーニャにも、アミュアへのあたたかな気持ちが乗る。
(カーニャもアミュアが好きよ‥‥でもユアの方が好き)
熱いユアへの想いがアミュアにも伝わった。
(ユアが好きなのはとてもよく解ったわ‥‥お願いカーニャ、ユアの心も見てあげて)
アミュアはついに泣き出してしまう。
ぽろぽろと雫が落ちていく。
この世界では涙は尽きることがない。
アミュアの悲しみとユアへの愛情を添えられた言葉を受け取るカーニャ。
ふいっと顔をそむけユアだけを見る。
(ユアはわたしが嫌いなの?わたしじゃダメなのぉ?)
カーニャから強い悲しみと淋しさがユアにぶつけられる。
(そんなことない‥‥カーニャが大好きだよ‥‥)
ユアにとってはこのカーニャはカーニャではない‥‥しかし悲しみをこぼすカーニャの面影を宿す少女を突き放すことも、ユアには出来ないのだった。
そこに、カーニャを救い出す難しさがあった。
ユアはこのカーニャと、かつてのカーニャを交換すれば良いと考えられない。
すべて救いだしたいと願うのだった。
あの日カーニャを救いつつ、敵対していたエイシスをも救ったように。
アミュアにもそのユアの優しい気持ちがわかるし、そういったユアも大好きだった。
(でも‥‥取り戻さなくてはいけないカーニャ‥‥貴女自信を)
アミュアの声には優しくも厳しい愛の温度がこもる。
はっとユアもカーニャも目を向ける。
涙を流し続けるアミュアは強い意思を向ける。
(立つのです‥‥カーニャ!)
それは泣き崩れる我が子に涙しながらムチを打つ父親の愛のよう。
厳しくも慈しみをなくさない心が添えられる。
(たってユアを救って!‥‥貴女じゃなければ救えないのよ!!)
ふるふると立ち上がる幼いカーニャも涙をこぼす。
(アミュアこわいよぉ‥‥)
アミュアの気迫がうすれ、優しい声になる。
(よく立ってくれましたカーニャ‥‥ありがとう‥‥ユアをよく見つめて‥‥カーニャにはわかるはず)
アミュアは涙を止めユアを見る。
(わたしを戻して‥‥ユア‥‥あとは二人で大丈夫)
立ち上がったカーニャを見上げていたユアが、はっとアミュアを見つめる。
うんと頷くアミュアは笑顔に戻っていた。
そこに偽りなどもちろん挟むことはできない。
ここは心同士が触れ合う場所なのだ。
(‥‥わかった)
呼び寄せたホストは自由に退出させられるのだ。
笑顔のアミュアが薄れていき、すっかり気配がなくなった。
いつの間にか漆黒の天に半分の月が輝き青い光を降ろす。
天の半分を占めた、巨大な下弦の月が見下ろしている。
残されたカーニャの横に立ち並ぶユア。
そこにいるのはユアより少し背の高いいつものカーニャだった。
(カーニャ‥‥あたしずっと前からね‥‥カーニャの事が好きだったの‥‥)
笑顔のはずのユアが涙をこぼしていく。
(いくつもの旅をともにして‥‥たくさんお話して‥‥どんどん好きになった)
カーニャはそっと手を伸ばしユアのこころに触れようとする。
まるで何か危険なものを恐れるように震えながら。
(いっぱい優しくしてもらって‥‥)
ユアはついにぽろぽろと大泣きになり顔をしかめる。
(たくさんのカーニャを見せてくれて‥‥)
ユアは段々真っ赤になる。
(アミュアを好きっていう気持ちと違ったの‥‥)
うっうっと嗚咽をはさむユア。
ついに心の奥底深く、自分にすら隠していた気持ちがあふれる。
(あたしは‥‥カーニャの全てが欲しくなったのよ‥‥)
それは打ち捨てられた幼児がどうしようもなくなりあげる泣き声。
だれか助けてとあげる泣き声だった。




