【閑話:はなれない二人】
公都エルガドールを目指す旅の途中。
今はマルタ商会から借り受けた船で、ミルディス公国のマーレヴェラという港湾都市を目指している。
公国の海の玄関口で、港も街も規模が大きく歴史がある。
船旅を終え、陸路は馬車を使うこととした。
町々を通り情報も集めながらというのが一番の目的だ。
合せて公都エルガドールでの拠点を確保したいので、夜霧を使い先行する事となった。
メンバーはユアとアミュア。
カーニャが王都でいちゃいちゃしたので、アミュアにゆずった形だ。
夕方に入港したので、今夜はマーレヴェラで一泊して明日一日で公都を目指す旅程だ。
「あそこのレストラン綺麗だね、いってみよう」
ユアが港の外れにある公園の近くで食事をとる提案。
今夜は二人きりなので、宿の心配はあまりしない。
止まる場所などどこでもいいのだ。
二人の時間があるのなら。
レストランは港にあるだけ有り、外を見せてくれる大きな窓がある。
少し夜ご飯には早かったので、席はいい場所がもらえた。
「すごい‥‥海が燃えているみたい」
今日は風もなく静かな海に夕日が沈み終わり、今は夕焼けだけをほのかに水平線に残していた。
船上からは何度か見た夕日だが、地上から見るとまた感じが違う。
アミュアはため息とともに夕日を愛でた。
「ここの海をユラ(jurha)海っていうの‥‥あたしの名前にもらった海なんだよ」
アミュアの脳裏にかつて女神ラウマの見せてくれた記憶が蘇る。
ユアの母と父のお話だ。
「おかあさまと‥‥おとうさまの想い出の海ですね」
ユアも同じものを見たが、娘であるユア以上にアミュアは感動して、何度も父母の話しを見るのだ。
今ではユア以上にエルナとラドヴィスを知っている。
そっとユアの手を取るアミュア。
目を閉じ黙祷を捧げる。
(ユアのあかあさま、おとうさま。お二人の見た海を今日みました‥‥ユアをわたしに与えてくださり感謝の念が絶えません‥‥ありがとうございます‥‥アミュアはお陰でとてもしあわせです)
時々アミュアはこうしてエルナとラドヴィスに祈る。
ユアはお墓参りのときにしか声をかけないが、アミュアは事あるごとに感謝を伝える。
ユアに出会えたのは二人のおかげだと心から思うのだ。
ディナーは気取らない丁寧なもので、想い出に添えるのにとてもふさわしかった。
少しだけといって二人でグラスワインも開けた。
アミュアは真っ赤になったので、ユアのうでにすがりながら海浜公園を歩いた。
海が見下ろせる緩やかな丘に登り、東屋のベンチに腰掛けた。
ここからなら四方が見渡せるねと、ユアはアミュアを座らせる。
「うふふ‥なんだかふわふわしちゃいました」
アミュアは酔うととても機嫌よく笑う。
ユアはその笑顔がとても好きで、時々飲ませたくなるのだった。
ぽてっと肩に頭をのせるアミュア。
「ユア‥‥だいすきです」
「うんアミュアあたしも大好きよ」
そっと腰を引きキスをする。
随分自然にできるようになったと、ユアもアミュアも嬉しかった。
想い出の場所とキスになったなと。
今夜の夜空は晴れ渡り、静かに月が上りつつあった。
きれいな満月は十分な明かりを二人に与えてくれる。
祝福の光りがいつも二人を照らすのだった。
長い長い二人の旅の中に、また新たな想い出が足される。
それはいつまでもアミュアとユアの心にあり、距離を放さない絆となるのだった。
一つになっていた影が別れる。
影が2つになっても遠ざかることはなかった。




