【第90話:ノアとエイシスの大変な日】
「あの‥‥‥あぅ‥」
朝からノアの様子がおかしかった。
ユアの前に来て真っ赤な顔で話しかけ、そして何も言わずに逃げていく。
ダイニングで遅い朝食を取るユア。
準備をしているのはラウマだ。
白いエプロンにレモンイエローのラインが入っている。
いつもの様に、にこにこで朝食を2人分だけ作っている。
いつもと同じ笑顔なのに、誰が見ても幸せだと判る笑顔だ。
2人はちょっとだけ寝坊をしたので、2人だけの朝食だ。
誰が見ても幸せな朝食だ。
ノアはユアが起きてきてから、今のが2回目のアタックだった。
たたたと走って居間のソファにダイブする。
受け止めたのはエイシスだ。
ふえぇんと泣いている。
エイシスはよしよしと髪を撫で背中をぽんぽんしてあげている。
ユアは不思議そうに言う。
「どうしたんだろ?ノア」
ユアの隣に座り、同じメニューを食べるラウマはちょっと心配そうに居間を見る。
「きっとノアのタイミングが有ると思うな‥‥少し付き合ってあげて欲しいな‥‥」
ラウマは慈愛の微笑みでユアを見つめた。
ユアもにっこりになり、うなずいた。
お昼前にノアがまた居間のユアの所に来る。
ラウマと腕を組んで、ソファでお茶を飲んでいたユアが顔を上げる。
真っ赤な顔でユアの前に立ち、内股になりもじもじする。
チラチラとユアを見て口を開こうとするのだが、結局何も言えず走って逃げ出した。
今度は左のロフトに駆け上がっていって、ベッドで本を読んでいるエイシスの横にダイブしてぎゅっとする。
エイシスは本を読みながらも、ノアの手を握ってあげていた。
お昼に午前中出かけていたアミュアとカーニャが帰ってきた。
買い物をしてきたようで、大きな紙袋をいくつも持ち帰っていた。
居間で合流して4人になる妻たち。
ユアが大好きでついに結婚してしまった3組4人なのだった。
半円のソファに横並びに座り、反対側がガラリと空いているのにぴったりくっついて座る。アミュア、ユア、ラウマと並んでカーニャはラウマをぎゅぎゅと押してユアにくっつける。
ユアが逃げないようにアミュアが反対からもおしおししている。
そんな仲睦まじい4人を羨ましそうにキッチンから見ているノア。
指を咥えているのはあざとすぎるなと思いつつ、エイシスはにこにこしながらお昼の準備をしていた。
ぐつぐつと大鍋でパスタを湯がいている。
とととっとノアが走っていく。
え?!今じゃないよね?と言った目で追うエイシス。
ノアは4人の前で握り拳を両側にピンと伸ばし、肩幅に脚を開き試合前の礼をするかのよう。
どした?と言った目で4人が見守る中ぷるぷるふるえるノア。
「ユア!わたし‥‥」
上から下まで順番に赤くなり全身が染まった所で、振り返り走ってくる。
まあそうだよねと思って火を止めたエイシスはノアを抱きとめる。
ふみいと泣き出すノアの背中をぽんぽんしながら、右手は止まらずお皿にパスタを盛り付けていくエイシス。
最後にソースをかけたら出来上がりなので、ちょっと手がはなせないのだ。
そうして晩御飯までに何度も挑むノアだが、その度にエイシスに抱きついて慰められる。
もういい加減みんなわかっていたので、ちょっと二人っきりにしようと、打ち合わせた。
「ノアお風呂入っておいで、お湯ためてね」
カーニャがノアに提案。
「うん‥わかった」
だんだん元気のなくなって来たノアがとぼとぼお風呂に行った。
「どうしたんだろノア」
アミュアは心配そう。
「実は‥‥」
エイシスが昨夜話した事をアミュアに相談した。
ラウマがユアにもお風呂を勧めて、ぐいぐい押していく。
カーニャもまじって3人でノアの事を相談する。
「まあノアは一番最初からユア大好きだったもん」
一番付き合いの長いアミュアがそう言った。
「わたしが手をつないだり、くっつくと口を尖らすの」
そう言って尖らせて見せるアミュアにカーニャが抱き着く。
「もう告白するまで監禁しちゃおっか?」
あはっと笑っているとラウマが戻る。
どうだった?とか、ノア何してた?などとラウマをちやほやする3人だった。
「ノアは本当にユアに告白したいのかなぁ‥‥」
ラウマはお風呂の方をチラと見て言う。
「ユアねえさまが好きなのは本当ですよね?」
『それはそう』
3人の返事が揃う。
ラウマが微笑みのまま器用に心配そうにする。
「ノアはきっと一緒にいられたらそれで満足なんだと思う‥‥家族になりたいなって気持ちじゃないかな?」
エイシスも考えてみる。
ノアの瞳の奥に気持ちが隠れている気がする。
ここの所で一番ユアの事を話し合ったのはエイシスなのだ。
「ノアねえさまも女の子なんです‥‥ユアねえさまを女の子として好きなのだと、わたしは思います」
ちょっとびっくりしてカーニャとアミュアがエイシスを見る。
エイシスからそう言った話が出るのは初めてだった。
「きっとユアねえさまに抱きしめてもらって、キスをして可愛がられたいと思っています‥‥恥ずかしいからそう見せないだけで‥‥」
ノアの気持ちを考えてみると、エイシスはふんわり心があたたまるのが判る。
あのまっすぐなすみれ色の瞳の奥に確かに恋する光が隠してある。
3人が納得した顔になった。
「なるほど‥」
カーニャは嬉しそう。
「間違いないね」
アミュアもうんうんと肯定。
「でしょ?」
ラウマは自慢げにうなずき続ける。
「恋をしているのね‥‥」
『エイシスは!』
3人でエイシスをツンツン突っつく。
「ひゃぁ!?なんでわたしぃ?!」
ワイワイ盛り上がっているとユアが戻る。
ホカホカに暖まったユアがお風呂から戻る。
「あがったよぉ!」「よぉ!」
仲良く出てくるユアとノア。
ノアが前抱っこでへばりついている。
『‥‥‥』4人はその姿に絶句。
いくら仲が良くてもそうはならないだろうと驚いている。
「あの‥‥」
ユアが真っ赤になって言う。
「ノアもお嫁さんにします‥‥」
『ええええ!?』
真っ赤になって顔を見せないノア。
コショコショとユアにだけ言う。
伝言ゲームのようにユアが告げる。
「あと‥‥勝手で申し訳ないんだけど‥‥今夜は2人にしてほしい‥‥ごめんカーニャ」
今夜はローテではカーニャの番だった。
「それは良いんだけど‥‥随分急ね?」
ユアも真っ赤になってノアに隠れる。
真っ赤な2人だ。
またノアがユアにコショコショ言う。
「ええ‥‥それはノアが言いなよぉ」
くりっとユアにくっついたままノアが首だけでエイシスを見る。
「エイシスも来て」
それだけ言うとまたくるっとユアに隠れる。
真っ赤な2人はそのまま地下に消える。
「‥‥‥ええ?!」
びっくりのエイシスをまんまる目で見る3人。
昨日の夜こんな話があったのだと、エイシスが3人に説明した。
「あぁ‥仕方ないねじゃあ」
アミュアは真顔で降りるよう言う。
「いいじゃない見学しておいで!」
カーニャはニヨニヨして行けと言う。
「エイシスがしたいようにすると良いよ」
ラウマはエイシスが決めろと言う。
エイシスは覚悟を決めて地下に下りた。
「おそいよ!」
ノアはユアに前抱っこのままで言う。
ぷくっと可愛らしくふくれている。
すっかり夜の準備万端のノアが白い背中を向けている。
ユアは寝間着のままだ。
「エイシス‥‥終わってからにするの?先にするの?待ってたんだよ?」
「ノア‥‥そうゆうのはエイシスが決める事だし‥‥あたしは見学されるのは嫌だよぉ」
ユアがフォローしてくれた。
「エイシス約束したよ!」
ノアは許してくれなそうだった。
じっとユアを見つめるエイシス。
ノアの背中ももう視界に入らない。
「ユアねえさま‥‥エイシスもねえさまが大好きです!エイシスにもねえさまをください!!」
真っ赤になったエイシスは鼻息荒く言い切った。
「ええ??」
ノアは首だけでエイシスを見る。
「エイシス!グッジョブ!」
そうしてエイシスは思っていたよりずっと早く告白して、幸せな夜をノアとユアと3人で過ごすのだった。




