第9話「最強ヴァンパイア、アイドルバンドと咆哮す!①」
今日は路上ステージの日だ。街はホコ天となっており、人々が行き交う。
夕暮れ時の交差点で、我――リーラはいつものようにマイクに口を寄せた。
「今宵も聞くがよい。我が声を――響け、空の果てまで」
ギターの音色が鳴り響くと同時に、足早に歩いていた人々が立ち止まり、次第に人だかりができていく。
その中心で、リーラは歌った。己の心と、戦いの記憶と、未来への願いを。
その歌声は真っ直ぐで、切なく、そして強い。観客は知らず知らずのうちに息を飲み、耳を傾けていた。
――だが、空気が一変したのは突然だった。
「お〜い!ここでバトルやってるってほんと!?」
「ほんもの!? 本物じゃん!!」
「キャーーーー!!カイくんーーー!!」
黄色い悲鳴が飛ぶ。
群衆を割って歩み出てきたのは、完璧な笑顔とメイクを施した五人組だった。
カラフルな髪、シルバーのピアス、モデルのような体型。人目を奪う華やかさと、異様なほどのオーラ。
「俺たち、『Howl Beats』。突然だけどさ、この場でバトルしない?」
センターに立つ男――カイが、真っ直ぐ我を指差した。
「歌には自信があるんでしょ? 俺たちに勝てたら、ファン全部あげるよ」
挑発的な笑顔。群衆はどよめき、歓声をあげる。
「これはポイントに入るのか」
ユウトがタブレットをチェックする。
「入る。というか、あいつらもエントリーされてる。俺たちより全然上の順位だ」
「であれば、計算上、彼らに勝つと一気に順位が上がる可能性があるな」
マナブが即座に解析する。
我はにやりと笑い返した。
「ふん……貴様らのような軟派な者に、我の歌が負けるはずなかろう」
―――
即興のバンドバトルが始まった。
観客は左右に分かれ、ステージもない路上で二組が対峙する。
先攻は『Howl Beats』のパフォーマンスだ。
イントロと同時に、五人が一斉に動いた。
「きゃあああ!!」
観客の叫びが重なる。照明も舞台もないのに、彼らの動き一つで景色がショーに変わってしまう。
ドラムが刻むビートは軽やかで、ベースがリズムを刻む。そこへギターが重なり、煌びやかなブラスがツヤと疾走感を添える。
完璧に計算された音の波。その中心で、カイがマイクを握り、まるで光を浴びるかのように声を放った。
「うおお……!」
ユウトが思わず唸る。
「これ……めちゃくちゃレベル高いじゃん……!」
観客は体を揺らし、手を振り上げ、悲鳴のような歓声を上げ続ける。
「カイくーん!最高ー!」
「うちらのプリンス!」
フォーメーションが変わるたび、スポットライトを浴びているかのように視線が一点に集まる。ダンスのキレ、目線、表情の作り方。全てがプロのステージそのものだった。
「……論理的に計算されたパフォーマンスだ。観客を引き込んでいることを考えると、我々が勝つ確率は極めて低い」
マナブが唾を飲み込む。
「曲もいい……聴きやすいし、耳に残る」
「姐さん……あたしら勝てるよな……」
アカネが心配そうにリーラを振り返る。
観客の何人かは、すでに我らの存在を忘れたかのように『Howl Beats』へ声を張り上げている。
熱気は一方的に高まり、完全に彼らの空気になっていった。
――それでも、リーラは動じない。
ただ、静かにその歌声を聴き、唇に笑みを浮かべた。
その頃、魔界では、
「手強い相手が現れたようじゃな。ん?何か匂うな」
敵の何かを怪しむヴァンパイア王であった。




