第8話「最強ヴァンパイア、心より申す!」
再び訪れたバトル予選のステージ。
前回の惨敗から、リーラたち《ブラムー》はもう一度挑むため、会場の袖に立っていた。
「……また出てきたぞ、あの高飛車バンド」
「前は全然ダメだったよな」
観客たちの声が耳に入る。嘲笑混じりの期待のなさ。
その空気に、リーラの肩がわずかに揺れた。
だが彼女の横顔は、前回のような誇り高き余裕ではなく、真剣な決意で引き締まっていた。
ステージ中央に立ったリーラは、深く息を吸い込む。
脳裏に浮かぶのは、公園でユウトと交わした夜の練習。
あれから、アパートでも大臣を相手に猛練習してきた。
――飾らず、素直に、感謝を伝える。
「……ここに集まる、人間どもよ!」
会場がざわつく。
「な、またかよ」
「やっぱり高飛車MCか?」
だがリーラは続けた。
「今日は……来てくれて、心より感謝する。我らの音をもって、共に最高の夜を贈ろう!」
一瞬の沈黙。
マナブはベースを抱えたまま、口をぽかんと開けて固まった。
アカネに至ってはスティックを取り落としそうになり、慌てて拾う。
「お、おい……今、リーラ氏が“感謝”って言ったか?」
「姐さんが……そんな……」
観客の方もざわつき始める。
「え、今のマジ?」
「なんか可愛いな」
「いや、ちょっと笑っちゃったんだけど」
会場に柔らかい笑いと温かな空気が流れ出す。
リーラの顔は少し膨れている。赤くなっているようにも見えた。
「行くぞ、ブラムー!」
リーラの声に導かれるように、ユウトのギターが鋭く鳴る。
マナブの低音が地を支え、アカネのドラムが会場のテンポを一気に切り替える。
リーラの歌声が響いた瞬間、ざわついていた観客の視線が一点に集まった。
――彼女の歌には、これまで以上に力が宿っていた。
先ほどのぎこちないMCが、逆に観客の心を解きほぐし、自然と音に身を委ねさせていたのだ。
「すげぇ……なんか前より全然いいぞ!」
「歌が刺さってくる……」
「MCで笑ったけど……今は普通に感動してる」
演奏は熱を増し、ステージと客席が一体となっていく。
最後の音が消えると、客席から拍手と歓声が巻き起こった。
リーラは大きく息を吐き、胸に手を当てる。
「リーラ……よかったぜ」
ユウトがギターを抱えたまま笑った。
「MCから全部、ちゃんと届いてた」
マナブが目を丸くして首を振る。
「心理学、音響学で説明できるか、いや、解析不能だ……あの一言だけで、会場全体の波が変わった」
アカネは感極まってスティックを掲げる。
「姐さん……かっけぇよ!最高だった!」
仲間たちの言葉に、リーラの瞳が潤んだ。
「姐さん、MC上手く行ったのが、そんなに嬉しかったのか?」
「それもあるが……我は、ただ心から……皆と音を鳴らせることが、嬉しかった」
その声は、虚勢も誇張もなく、素直な喜びに満ちていた。
リーラは仲間というものの素晴らしさに気づき始めていた。
―――
控室に戻り、スマホの画面に視線が集まる。
アプリの集計が表示された。
「お、おい……前回より大幅に順位が上がってるぜ!」
アカネが叫ぶ。
「見ろ、コメント欄! “MCかわいい”とか、“応援したくなった”って……」
リーラは画面をじっと見つめ、ふっと微笑んだ。
「……これが、相手の心を掴むということか」
「皆、礼を言うぞ。おぬしらのおかげで、我は新しい力を手にした」
リーラは拳を高く掲げた。
「このまま突き進もうぞ! 必ずドームの本線に出場し、頂点に立つ!」
ユウトも、マナブも、アカネも、その拳に自分の手を重ねる。
それは、敗北から立ち上がった新しい《ブラムー》の誓いだった。
その頃、魔界では、
「リーラが観客に感謝したじゃと!これは、大きな一歩じゃ!」大喜びするヴァンパイア王であった。
「あともう一つ。よければ、ブクマや評価、感想をお頼みする」




