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第69話 「最強ヴァンパイア、交響する世界と平和の調べ――民のもとへ凱旋す!」

 ――それは、これまで魔界で聞いたことのない沈黙だった。


 黒い風が止み、崩壊した空に、静かな光が差し込む。

 黄月は砕け、代わりに紅の光が世界を包み始めた。

 地面には血と灰、そして……祈りのように舞い上がる光の粒。


 リーラは息をついた。

 剣を支えに、ゆっくりと立ち上がる。

 その背後では、ルーナがまだ小刻みに震えながらも、しっかりと地に足をつけていた。


「……終わったのですね。」


「ああ……ネフィアスはもういない。」


 リーラは空を見上げた。

 その瞳に映るのは、夜明けを迎えるような光。

 血と闇の時代の終わりを告げる、白い輝きだった。


 ――その時。


 轟音と共に、大地が再び鳴動した。


 ルーナが身構える。

 だが、それは敵意ではなかった。

 崩れた岩山の奥から、巨大な翼の影が現れる。


「……あれは……!」


 翼を広げ、漆黒の鱗をまとった竜――ドラクだった。

 しかし、その瞳にはもはや戦いの狂気はなく、静かな安堵の光が宿っていた。


「Leela, Luna… are you both alright?(リーラ、ルーナ……無事だったか!)」


「Drac! You too…!(ドラク! お主も……!)」


 ドラクは振り返り、己の背から一人の竜族を降ろす。

 深紅の外套に包まれた老竜――竜族を束ねる“ドラグキング”。

 長らく消息を絶っていた、竜族の真なる指導者だった。


「…Master!”(……指導者様!)」


 竜兵たちが次々と跪く。

 ドラグキングは穏やかに目を開き、リーラへと視線を向けた。


「The strongest vampire, Leela. …So, you were the one who defeated the Demon King.”(最強ヴァンパイア、リーラ。……そなたが、あの魔王を倒したのだな。)」


 リーラは一礼し、静かに答えた。


「It was only possible because everyone fought together.

The dragons, the oni, the demons—and the humans as well.

If even one had been missing, we couldn’t have won.”(皆が戦ってくれたからこそです。竜も、鬼も、魔族も――そして人間も。誰一人欠けていたら、勝てませんでした。)」


 ドラグキングは微笑み、空を仰ぐ。


「…Then this victory belongs to all races.

It is time to break the long chain of fate.”(……ならば、この勝利は“すべての種族”のものだ。長き因果の鎖も、今こそ断ち切る時だな。)」


「Lord Dragking… I am so sorry. No apology could ever be enough.”(ドラグキング様……申し訳ありませんでした。どうお詫びしても足りません。)」

 あの日、彼をさらった本人であるルーナが、涙を浮かべて頭を下げた。


「It’s alright. I know you were under the Demon King’s control.

Your heart still cared for your people.”(もう良い。魔王に操られていたことは分かっておる。民を思う気持ちがあったのだな。)」


「Thank you… so much!”(ありがとうございます……!)」


 ルーナは嗚咽を漏らしながら答えた。


 その瞬間、竜族の咆哮が天地に轟いた。

 天空で蠢いていた影竜たちが、まるで霧のように溶け、光となって消えていく。


 それは、呪縛の終焉。


 戦場のあらゆる地で――狼王、鬼神丸、セリウス、そしてヴァンパイア王国の将たちが、その光景を見上げていた。


「……消えた。影竜どもが……」


「勝った……のか……」


 狼王は重々しく剣を地に突き立て、深く息を吸うと、夜空に向かって高らかに遠吠えした。

 鬼神丸が豪快に笑い、セリウスが剣を掲げる。

 各地で、連合軍の歓声が一斉に湧き上がった。


「我らの勝利だあああああッ!!」


「リーラ様がやってくださったぞ!!」


「魔界に……夜明けが来る!!」


 竜の咆哮、鬼の叫び、人族の歓喜――

 それらが混ざり合い、一つの音楽のように響き渡った。


 それはまるで、世界が奏でる祝福の交響曲だった。


 数日後――ヴァンパイア王国・王都ブラッドリウム。


 城門の前には、果てしなく続く人々の列ができていた。

 赤い絨毯の上を歩くリーラの姿に、群衆の歓声が沸き起こる。


「リーラ様ぁ!」「女王陛下、万歳っ!」


「ヴァンパイア国を、魔界全体を救った救世主だ!」


 ヴァンパイアの民だけでなく、獣族、竜族、鬼族――あらゆる種族の代表がこの地に集っていた。


 ルーナがその隣に立つ。

 姉と共に受ける光は、もはや一国のものではなかった。

 それは、世界を照らす“新時代”の象徴。


 リーラは壇上に上がると、ゆっくりと両手を広げた。


「皆……ありがとう。

 血にまみれたこの地が、再び音を取り戻せたのは――あなたたちの力です。」


 その声は、“最強ヴァンパイア”としてではなく、一人のリーダーとして響いた。

 静かな風の音、街のざわめき、遠くで鳴く鳥の声。

 それらすべてが、まるで一つの旋律に溶け合っていく。


「私は学びました。

 “魔ネージメント”――それは支配ではなく、響き合い。

 違う種が奏でる音を拒まず、重ね合わせること。

 父上が目指していたのは、その“調和”だったのですね。」


 リーラは微笑み、そっと空を見上げた。

 そこには、かつてのヴァンパイア王の面影が揺らめくように光っていた。


「……父上、ありがとう。あなたの遺した道、今、歩き出します。」


 その瞬間、会場の空気が柔らかく包まれる。

 群衆の中から、一つの声が響いた。


「リーラ陛下!」


 狼王が前へ進み出る。

 その背には、各種族のバンドマスター――ドラク、鬼神丸、セリウスの姿があった。


「我ら各種族は、この日をもって血の歴史を終える。

 戦いではなく、共鳴で未来を築こう。

 ――各種族の同盟を結ぶことを提案する。」


 リーラは一瞬驚き、すぐに穏やかに笑った。


「……いい響きですね。

 それこそ、私が奏でたかった“新しい音”。」


 狼王が頷き、ドラクが剣を掲げ、鬼神丸が拳を天に突き上げる。

 それは、かつての戦場とは正反対――調和と誓いの象徴だった。


「この世界に、再び闇が訪れようとも――

 我らは共に戦おう。

 この“音”を、絶やすことなく。」


 リーラが右手を差し出す。

 各種族の王たちが次々と手を重ねる。

 その瞬間、光が弾け、魔界の空に七色のオーロラが広がった。


 歓声が地を揺らし、空へと届く。

 誰もが笑い、涙を流し、抱き合った。


 ――それは、数千年にわたる争いの終結を意味していた。


 夜。

 静かな王城のバルコニーで、リーラは一人、空を見上げていた。

 ルーナが後ろから歩み寄り、肩を並べる。


「……お姉さま、式典の準備は順調みたいですよ。」


「ああ。数日後、父の遺言通り、王位を継ぐ日が来る。」


 リーラは微笑む。

 だが、その笑みの裏に、少しだけ切なさがあった。


「長い戦いだった。けれど、終わりではなく……ここから始まるのだな。」


「ええ。お姉さまはもう、“最強ヴァンパイア”だけじゃない。

 世界の“指揮者”なんですよ。」


 ルーナの言葉に、リーラは小さく吹き出した。


「ふふっ、指揮者か。悪くない響きだ。」


 二人が笑い合うと、遠くから一人の影が現れる。

 深紅の外套をまとった初老の男――かつてリーラの政治を妨げ、謹慎処分を受けていた大臣だ。


「リーラ陛下、ルーナ様。式典の準備、すべて整っております。」


「……そうか、ありがとう。」


「今度こそ、陛下の治世をお支えいたします。」


 その真剣な眼差しに、リーラは小さく頷いた。


「頼もしい。みんなで新しい国を作っていこう。」


 バルコニーに風が吹く。

 遠くの街から、祭りのような音楽が流れてくる。

 太鼓、笛、弦――そして民の笑い声。


 それらが重なり、一つのシンフォニーを奏でていた。


「……これが、“平和の音”か。」


 リーラが呟く。

 ルーナが頷き、そっと手を重ねた。


「はい。お姉さまの旋律が、ようやく世界を満たしたんです。」


 空には、赤月――だがもう、血の色ではなかった。

 それは穏やかで、どこか懐かしい、黎明の赤。


 やがて鐘が鳴る。

 王位継承の式典が、近づいていた。


 戦いが終わり、世界が一つになる音が――

 静かに、確かに、響き渡っていた。

次回、最終話になります!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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