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第66話 「ヴァンパイア王、最期の譜(ふ)を奏でる」

 ――閃光が、世界を焼き尽くした。


 視界が真白に染まり、音さえも奪われる。

 轟音の残響が遠のく中、リーラは目を細めた。


 焦げた空気が肌を刺す。

 立ちこめる煙の向こう――。


 そこに、倒れているのは――。


「……父上っ!?」


 白い光が消えた瞬間、リーラとルーナの悲鳴が響いた。

 ネフィアスの放った魔光が、深々と刺さっていたのは――

 ヴァンパイア王の胸だった。


「う、そ……父上……!」

 ルーナが駆け寄る。膝をつき、震える手で父の身体を抱きしめた。

 血が、ゆっくりと広がっていく。

 紅く、美しいはずの色が、今はただ痛いほど哀しかった。


 リーラは唇を噛みしめた。

 何かが崩れる音が、胸の奥で響く。


「なぜ……なぜ父上が……!」


「――ふ、二人とも……泣くでない。」


 王の声は弱々しく、それでも確かに誇りを宿していた。

 その金色の瞳が、優しく二人を見つめる。


「我が娘よ……ルーナを攫ったのは、魔王ネフィアスではないかと、ずっと疑っておった。

 魔王は“魔界の統一”を掲げておる。すなわち――私の座を狙っていたのじゃ。」


 ネフィアスの瞳が、嘲るように細められる。

 その口元が、にやりと歪んだ。


「ほう……そこまで読んでいたか。」


 だが、王は怯まずに続けた。

 胸に刺さる光の刃を押さえながらも、その声はまるで楽団の指揮者のように静かで、強く。


「人間界での《バンドバトル》の優勝者に王位を譲る――そう発表したのも、魔王を炙り出すためじゃった。

 リーラを出場させれば、必ず魔王が動くと踏んでおった。

 お前に“歌”で勝てるのは、妹のルーナくらいしかおらぬからのう……」


「父上……そんな理由で……!」


「許してくれ……リーラ。これもすべて、ルーナを見つけるため、そして国を護るためじゃった。」


 リーラの喉が詰まる。

 怒りでも、悲しみでもない。

 その両方を混ぜ合わせたような感情が、胸の奥を締めつけた。


「父上……なぜそんな無茶を……。私のために……国を賭けるなんて……」


「すまぬ……だが――信じておった。お前たちの力を。」


 ルーナの瞳から、涙がこぼれる。

 震える声で、ただ父の名を呼び続けた。


「父上……! お願い、もう喋らないで……!」


 王はゆっくりと、リーラの頬に手を伸ばした。

 その掌は温かく、それがかえって切なかった。


「リーラ……お主には、まだ眠る“大きな力”がある。

 だが、器がなければ暴走してしまうゆえ、私はそれを封じておったのじゃ。」


 リーラははっと息をのむ。

 頭の中で、父の言葉が何度も反響した。


「――封印……?」


「そうじゃ。だが今、お主はその器を手に入れた。

 人間界で戦い、仲間と心を通わせ、己を見つめ直した……

 お主はすでに、真の“王の器”を持っておる。」


「父上……!」


「今こそ――全ての力を解放しよう。」


 王が両手を広げた。

 その瞬間、空気が震えた。

 紅い魔力が、波のように王の身体を包み込む。


 ネフィアスの目が細められる。

 不快そうに眉をひそめた。


「させると思うか。」


 魔王が手をかざす。

 黒い光が奔り、王へと迫る――!


 だが次の瞬間、王の掌から放たれた光がそれを弾き返した。

 轟音が響き、大地が割れる。


「なにっ……!」


「……この命、惜しくはない。

 我が娘に、未来を託す――!」


 その声は、王としての威厳と、父としての愛が混ざり合った“最後の旋律”だった。


「リーラ、ルーナ……聞け。」


 空が赤く染まる。

 王の背後に、巨大な紅翼が現れた。

 その羽ばたきは、まるで壮大なオーケストラのフィナーレのよう。


「次期王は――リーラ。

 ルーナを……ヴァンパイア国を……そして、魔界を頼む。」


「やめて、父上! そんなのいらない! 一緒に生きてください!」


「父上ぇぇぇっ!!」


 二人の叫びが、響く。


 だが、王の笑顔は穏やかだった。

 その口元が、最後に小さく動いた。


「我が愛しき娘たちよ――立派になったのう。」


 次の瞬間、王の身体が光に包まれた。

 その光がリーラの胸に吸い込まれていく。


 ――眩い閃光。

 ――鼓動の共鳴。

 ――そして、世界が震える。


「う……あああああああッ!!」


 リーラの身体が宙に浮かぶ。

 全身から黒と紅の魔力が溢れ出し、空間そのものを震わせた。

 髪が宙に舞い、瞳が真紅に輝く。


 彼女の中で、何かが目を覚ます――

 それはまるで、封じられていた“楽章”が再び奏でられる瞬間のようだった。


「お姉様……!」


 ルーナが手を伸ばすが、風圧に弾かれる。

 リーラの身体から放たれる力が、あまりにも強すぎた。


 黒い雷が奔り、地が割れ、空が揺らぐ。

 その中心で、リーラはゆっくりと目を開けた。


「……父上。我は、受け取ったぞ。」


 その声は静かで、しかし確かな決意を帯びていた。


「これが、最強ヴァンパイアの真なる力……!」


 轟音が走る。

 リーラの背に、紅と黒の翼が同時に広がった。

 大地を焦がす魔力が渦を巻く。


 対するネフィアスは、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「ほう……それが、封じられていた“力”か。

 良い……実に良いぞ、リーラ。

 だが、遅かったな。」


 その声が低く響いた。

 空気が歪み、周囲の影が一斉に蠢く。


「我が記憶が――すべて、戻った。」


 ネフィアスの身体が膨れ上がる。

 黒い瘴気が渦巻き、巨大な影が形を成す。

 その瞳は燃えるように赤く、翼は夜空を覆うほどに広がっていた。


 まるで“闇そのもの”が形を得たかのようだった。


 リーラと魔王が、ゆっくりと向かい合う。


 闇と闇。

 黒と黒。

 だが、終焉と始まり。


 その狭間に、静寂が訪れた。


 次の瞬間――。


 空が裂け、地が唸り、魔界全土を震わせるほどの“音”が響いた。


 楽曲は、最終楽章フィナーレへと進む。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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