第65話 「最強ヴァンパイア、終焉の交響(シンフォニー)、魔王と交戦す!」
――轟音。
空が裂け、黒い雷が世界を貫いた。
爆ぜる炎。砕ける岩。耳をつんざく金属の悲鳴。
《デモニア深層》は、すでに戦場というより“地獄の舞台”だった。
剣と魔法がぶつかるたび、火花が飛び散り、音が生まれる。
それはまるで、狂気と混沌で編まれた交響曲。
「はぁっ――!」
リーラの黒剣が閃く。
刹那、音速を超える風が奔り、影の兵を数十体まとめて薙ぎ払った。
続けざまに、白光の魔弾が空を裂く。
ルーナの詠唱が響き、爆発の波が影軍を飲み込んだ。
「いいぞ、ルーナ!」
「お姉様こそ!」
二人は互いの背中を預けながら、連携を続ける。
その姿は双星のよう。
黒と白――正反対の光が、互いを補い合い、影を裂いていく。
「やはり、貴様らは美しい……。戦いも、痛みも、悲しみさえも――音だ。
破壊のリズムほど、完璧なハーモニーはない。」
魔王の言葉と共に、黒い波動が爆ぜた。
音のような衝撃――まるで巨大なドラムが鳴り響く。
リーラとルーナの身体が宙に弾き飛ばされる。
「くっ……!」
岩壁に叩きつけられながらも、リーラはすぐに立ち上がる。
手のひらから紅い血が滲む。
それでも、その瞳は決して揺らがなかった。
「音を歪めるな、ネフィアス。音楽は支配の道具ではない。」
「支配せずして、何を奏でるというのだ?」
ネフィアスの笑みが深まる。
「世界は、指揮者が必要だ。音を整える者がなければ、ただの雑音に過ぎん。
私はその秩序を作る。――それが“完全なる楽曲”だ。」
「違う。」
リーラの声が震えるほど強く響いた。
「音も命も、混ざり合ってこそ美しい。
高音が低音を、闇が光を、互いに補い合うからこそ――旋律になるのじゃ!」
言葉と同時に、リーラの剣が放たれた。
その刃は風を裂き、魔王の頬を掠めた。赤い血が一筋、空を舞う。
ルーナも加勢し、白い魔力が光の帯を描く。
――だが。
その言葉と同時に、地が鳴った。
黒い魔法陣が足元から広がり、影の軍勢が再び湧き上がる。
終わりがない。まるで音のループ。
斬っても斬っても、途切れぬ不協和の旋律。
「ルーナ、集中を切らすな!」
「はいっ……でも、数が……!」
「くそっ――!」
リーラは地を蹴り、黒翼を広げた。
漆黒の旋風が巻き起こり、敵の群れを吹き飛ばす。
その一撃は、まるで“嵐のリズム”そのもの。
しかし、ネフィアスは微動だにしない。
むしろ、楽しげに手を叩いた。
「そうだ、それでこそ。
怒りも、痛みも、悲鳴も――すべて“音”だ。
ほら、もっと奏でろ、リーラ。もっと……美しく壊れろ。」
「黙れぇぇぇッ!!」
リーラの絶叫が響く。
剣を振るい、黒い閃光が空間を切り裂く。
だが――ネフィアスは一歩も動かない。
代わりに、わずかに唇を歪めた。
「フフ……やはり、良い表情だ。
焦り、恐怖、迷い……まるで不安定なメロディのようだ。
だが、もうすぐだ。」
彼の瞳が赤く染まり、黒い靄が立ち上る。
空気が一瞬、凍りついた。
「まもなく――我が“記憶”が戻る。」
「……っ!」
リーラの心臓が跳ねた。
その声には、言葉ではない“圧”があった。
背筋を刺すような寒気。音のない轟音が、世界を支配する。
「どういう意味じゃ、ネフィアス!」
「意味? フハハ……貴様には、恐怖の前奏を聴かせてやるだけだ。」
指を鳴らす。
世界が反転する。
視界を覆う黒い光。地鳴りのような低音。
まるで“音楽そのもの”が狂い始めたかのようだった。
次の瞬間、リーラとルーナの身体が吹き飛ばされた。
重力が乱れ、上下すら分からない。
瓦礫の雨が降り注ぎ、空気が悲鳴を上げる。
「ルーナっ、離れるな!」
「分かってますっ!!」
二人はすれ違いざま、互いに手を掴み合った。
その瞬間、魔王の笑い声が響く。
「思い出す……音も、戦も、貴様との宿命も。
あの時封じられた“音”が、今――蘇るのだ!」
黒い柱が天へ伸びた。
魔界全土が震える。
獣族も鬼族も、その異変を感じ取っていた。
――リーラの胸が締め付けられる。
かつての戦。封印の瞬間。血と涙と音が交じり合った“あの夜”。
脳裏に、記憶がよみがえる。
「ダメだ……! 記憶が戻れば、完全に――!」
「手遅れだ、リーラ。」
ネフィアスの声が、耳の奥に直接響いた。
まるで囁くように、それでいて心臓を掴まれるほど強烈に。
「我が記憶が戻れば、我は全ての“音”を支配する。
貴様らの鼓動も、悲鳴も、風の音さえも――私の旋律になる。」
「そんなこと、させるかぁぁぁっ!!」
リーラの黒剣が閃く。
白炎がその刃に宿り、閃光が走った。
刹那、空間そのものが裂けるような衝撃。
ルーナも全力の魔法を放つ。
だが、ネフィアスはことごとく弾き返す。
光と闇、二重の旋律がぶつかり合い――爆発。
爆風が、世界を白く塗りつぶした。
「ぐっ……! まだ……!」
煙の中、リーラは息を切らしながら剣を構える。
全身が傷だらけ。血が頬を伝う。
だが、瞳はまだ死んでいなかった。
「ほう……まだ立てるか。」
ネフィアスがゆっくりと歩み出る。
その姿はもう、人の形から変わろうとしていた。
身体が影に溶け、輪郭が揺らぎ、いくつもの“音”が浮かぶ。
「貴様の中に宿る“人の心”――それこそが、貴様の限界だ。」
「それでも……守りたいものがある限り、私は――!」
リーラが叫ぶ。
その瞬間、魔王の掌が黒く輝いた。
「終わりだ、リーラ。
この一撃で、貴様という“不協和音”を消し去ってやる。」
黒い魔力が奔る。
轟音。雷鳴。空間が震え、地が裂けた。
避けられない――!
「姉様ッ!!」
ルーナの悲鳴。
リーラは、ゆっくりと微笑んだ。
涙が頬を伝う。
黒く鋭い光が迫る。
大地が揺れる。
全てが、音もなく飲み込まれていく。
ドゴォォォンッ!!
閃光。
轟音。
世界が、白く染まった。
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