第61話 「最強ヴァンパイア、集結せし五種族――魔界バトル開戦す!」
――赤と白の双月が、魔界の夜を照らしていた。
風が重い。
空気が震える。
まるで、大地そのものが何かを待っているように。
ヴァンパイア王国の城塞に、続々と軍勢が集まっていた。
獣族の咆哮。鬼族の鬨の声。
そして竜族の巨翼が夜空を覆い、雷鳴のような音を轟かせる。
「……これが、魔界全軍の力。」
ルーナが息を呑んだ。
彼女の視線の先には、果てしなく広がる軍勢。
炎の旗が翻り、地平線の彼方まで続いている。
「壮観じゃのう。」
リーラは黒きマントを翻し、前線の丘に立つ。
その瞳には迷いも恐れもなかった。
ただ――静かな覚悟だけが、燃えている。
魔族が再び動き出した今、もはや一刻の猶予もない。
ヴァンパイア族を中心に、各族の指導者たちが招集されていた。
◆魔界連合軍・戦略会議
円卓の広間。
巨大な地図の上に、魔族領の赤い印がびっしりと打たれていた。
その中心には、リーラが立っている。
「まずは、状況の共有からじゃ。」
低く響く声が、広間を支配する。
「魔族の本拠地《デモニア深層》で、異常な魔力反応が確認されておる。
おそらく、魔王の“影”が完全な姿を取り戻そうとしておるのじゃ。」
「ほう……それが噂の“復活”というわけか。」
口を開いたのは、獣族の王《狼王》。
狼の鬣を揺らしながら、腕を組む。
その声は雷鳴のように低く、響き渡った。
「我ら獣族の領地にも、すでに奴らの尖兵が侵入しておる。
動きは速い。……正直、嫌な予感しかしない。」
「我ら鬼族も同じじゃ。」
続いたのは、赤肌の鬼・《鬼神丸》。
かつてリーラが人間界で音を交わした、あの《焔鬼蓮華》のリーダーである。
今は鬼族の軍団長として彼女の味方についていた。
「魔族どもは卑劣よ。戦を始める前に、裏から呪符を撒いてくる。
我が兵の三割が既に“影”にやられた。」
リーラが地図を見つめながら、静かに問う。
「How fare the Dragonkin?(竜族の様子はどうじゃ?)」
重々しい足音が響き、鎧の鱗が光を放つ。
「We, the Dragonkin, remain unscathed.(我ら竜族は、まだ無傷だ。)」
答えたのは竜族の将軍、《ドラク》。
黄金の瞳が揺らめき、淡く光を放つ鎧が堂々と広間を照らしていた。
「But our leader remains missing.
The last trace of him was near the entrance to the Demonia Depths.(だが、我らの指導者が未だ行方不明だ。
最後に確認されたのは……デモニア深層の入口付近。)」
「……なるほど。」
リーラは静かに頷き、指先で地図をなぞる。
「魔王の影は、指導者を影の“器”にするつもりじゃ。
もし融合されたら――影竜の軍勢が出来上がる。」
「つまり、王の奪還が先決ということじゃな。」
狼王が牙を光らせる。
「うむ。」
リーラは頷いた。
「これより、我らは二手に分かれる。
第一部隊――獣族と鬼族は北方ルートより進軍。
第二部隊――竜族とヴァンパイア族は、深層の直接突入を試みる。」
静寂。
誰もが、その作戦の重さを理解していた。
やがて、リーラが両手を広げる。
「これは単なる戦ではない。
この魔界の未来を懸けた、“生”の戦いじゃ。」
その声が、広間の全ての魂を震わせた。
◆魔王軍の胎動
同じ頃――
闇の底、デモニア深層。
そこは、永遠に陽の届かぬ地獄。
黒い結晶が壁を覆い、空気すら腐っている。
その中心で、巨大な影が蠢いていた。
「……フフ……愚かなる娘よ。」
低く、粘つくような声が響く。
闇の奥から現れたのは、一人の青年の姿。
銀髪、紅瞳。
端正な顔立ち――だが、笑みの奥には狂気があった。
「我が影の“器”よ……ようやく呼応したか。」
青年の足元に、竜の指導者が鎖で縛られていた。
意識は朦朧とし、瞳は虚ろ。
「ふん……リーラ……お前が封じたのは“器”ではない。
“記憶”だ。」
黒い影が青年の身体を包み込む。
その輪郭が変化し、幾千の魂が蠢くような波紋を描いた。
「再び、全てを取り戻す時が来た。
我こそ、真の魔王――《ネフィアス》。」
その名が響いた瞬間、地の底から黒い炎が噴き上がった。
世界が震え、魔族たちが歓声を上げる。
「目覚めよ、我が眷属たち。
血を、魂を、恐怖を喰らえ。
――我らの“宴”の時だ。」
次々と生まれる影の軍勢。
その数、十万を超える。
かつての魔王軍を遥かに凌駕していた。
◆そして、戦の夜明けへ
「報告! 北の監視塔が陥落! “影軍”が現れました!」
伝令が飛び込む。
リーラは立ち上がり、すぐさま翼を広げた。
「来たか。」
ルーナもすぐに構えを取る。
「姉様、どうしますか!」
「迎え撃つ。これ以上の侵攻は許さぬ。」
リーラは空へ舞い上がった。
黒と白の翼が、双月の光を切り裂く。
彼女の後を追い、数千の兵が飛翔した。
地上では、獣族が咆哮し、鬼族が戦太鼓を打ち鳴らす。
竜族の炎が重なり、空気そのものが震えた。
――その瞬間、闇が割れた。
黒い霧が渦を巻き、巨大な影が姿を現す。
翼を持たぬ竜。
だが、その身体には人の顔が無数に浮かんでいた。
「なんだ、あれは……!」
「“影竜”じゃ!」
ルーナが叫ぶ。
「奴ら、すでに竜族の魂を喰らっておる!」
リーラは咆哮し、剣を構えた。
その刃が、闇の中で光を放つ。
「退くことは許さん! 突撃せよッ!!」
その一声と同時に、連合軍が動いた。
炎、雷、咆哮、魔法――すべてが夜空を焦がす。
地は裂け、空が燃えた。
その中心で、リーラとルーナが双剣を交差させる。
光と闇、二つの旋律が響き合う。
「いくぞ、ルーナ!」
「ええ、姉様――今度こそ、終わらせましょう!」
刹那、二人の翼が爆ぜた。
黒と白の光が交錯し、夜空を貫く。
その閃光が、影竜を切り裂いた。
轟音と共に爆発が走り、黒い霧が弾ける。
だが――その中に、ひときわ濃い闇があった。
霧の奥で、誰かが笑っている。
「フフフ……ようやく会えたな、リーラ。」
その声を聞いた瞬間、リーラの背筋が凍った。
忘れもしない声。
――封印の時、最後に聞いた、あの“魔王”の声。
「ネフィアス……!」
「百年ぶりだな。美しくなったではないか、リーラ。」
闇が形を取り、一人の青年の姿が現れる。
紅い瞳が、まっすぐにリーラを射抜いた。
そして――ゆっくりと笑った。
「さあ、続きをしよう。
我らの、終わらぬ戦いを。」
空が裂けた。
魔界全土を包むように、巨大な黒い魔法陣が広がる。
地が震え、月が血に染まる。
戦の幕が、上がった。
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