第6話「最強ヴァンパイア、初陣に敗北す」
ついに訪れた初めての音楽バトル。
会場は街のライブハウス。狭いながらも熱気に包まれ、観客たちの視線は舞台に注がれている。
「エントリーNo.69――ブラムー!」
司会の声に導かれ、リーラたちはステージに上がった。
リーラは胸を張り、赤い瞳を輝かせる。
「見よ、人間ども。我が歌を聞かせてやろう!」
ユウトがギターを鳴らし、マナブがベースを刻み、アカネがスティックを振り下ろす。
――音が走り出す。
練習では完璧だった。だが実際のステージは違った。
声の聞こえ方、観客の視線、緊張で速くなる心拍。リーラの声が一瞬震える。
「……っ」
普段なら完璧に響き渡る高音が、わずかに外れた。
観客はこちらを見ていない。
リーラの胸に、これまで感じたことのない焦燥が走る。
必死に声を出すが、焦れば焦るほどリズムがずれていく。
楽器隊は完璧だった。
アカネがドラムで支えようと強く叩きつけ、マナブが必死に音を繋ぐ。しかし観客は冷ややかだ。
「次のバンド、カモン!」
司会者が軽い調子で言い放つ。まるでブラムーの演奏を笑い飛ばすかのように。
その瞬間、リーラの歌はかき消された。
結果発表。観客投票アプリの画面に数字が並ぶ。
他バンドが200票、150票と並ぶ中、ブラムーの数字は――たったの23。
「……」
リーラは呆然と立ち尽くした。
控室に戻ると、彼女は突然、両手で顔を覆った。
「なぜじゃ……なぜ……。歌を聴いてくれないのは慣れておる。だが、我は最強、負けたことなど一度もない……!」
瞳が揺れ、唇が震える。
「皆、すまぬ……! 我のせいじゃ。死んで詫びよう……!」
マナブが慌てて立ち上がる。
「落ち着け、リーラ氏! 死んで詫びるとか、時代錯誤も甚だしい!」
アカネも声を荒げる。
「ちょっと! 姐さん何言ってんの!? あたしら、まだ始めたばっかだろ!バカヤロウ!」
しかしリーラは膝をつき、頭を抱え込んだ。
「負けた……負けた……! この我が……!」
そんな彼女に近づいたのはユウトだった。
彼は静かにギターケースを置き、腕を組む。
「リーラ。お前は勘違いしてる」
「な、何をじゃ……?」
「負けたのは歌じゃない。お前の“心”だ」
リーラは顔を上げる。
「観客を見ろ。お前は歌に必死で、目の前の人たちを一度も見なかった。歌は届かなきゃ意味がない」
「……届かぬ、だと?」
「そうだ。お前の声はすごい。でも、ただ強く響かせるだけじゃ駄目なんだ。相手を思い、相手に伝えようとする気持ちがなきゃ――誰にも届かない」
リーラの肩が震える。
「……我は、ただ上手く歌えばよいと思っておった。ねじ伏せれば勝てると……」
「それがお前の弱さだ」ユウトははっきり言う。
「でもな、改善はできる。MCだ。歌う前に、お前が観客に語りかけろ。怖がらず、自分の言葉で。お前の気持ちを伝えれば、歌も届く」
マナブが続けた。
「ユウトの言う通りだな。演奏の完成度は悪くなかった。要は観客との距離感。データ的にもMCが上手いバンドは投票数が伸びる傾向にある」
「姐さん、負けてヘコむのは分かるけどさ」アカネが苦笑する。
「姐さんの歌、あたしたちにはちゃんと届いてんだよ。姐さんは一人で戦ってるんじゃないんだぜ。あたしらの思いを、観客に届けようぜ」
リーラは三人を見渡した。
仲間が、自分を信じてくれている。
「……すまぬ。皆を危険にさらしたのは我じゃ」
「危険? ただの初戦敗退だろ」ユウトが鼻で笑う。
「いいか、これは“始まり”だ。ここで諦めるなら最強の名が泣くぜ」
リーラは深く息を吸い、静かに立ち上がった。
「……よかろう。我は最強。ならば何度でも立ち上がってみせよう」
その瞳に、再び赤い炎が宿る。
「次は必ず勝つ。そのために――我が観客に語りかけてみせよう! 我の声を、魂に刻め! とな!」
アカネが笑う。
「うん、それだよ。それなら絶対ウケるぜ!」
マナブも頷いた。
「改良点は山ほどあるが……可能性は0%ではなくなった」
ユウトはギターケースを担ぎ、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「よし、次は練習だ。――MC特訓だぞ、リーラ」
リーラは胸を張り、拳を握った。
「任せよ! 我が言葉で、人間どもを魅了してくれよう!」
こうしてリーラは、初めての敗北から立ち上がった。
それは大きな成長であり、真の“始まり”の一歩だった。
その頃、ヴァンパイア国。
「ほぅ、リーラが初めての敗北を喫したか」
ヴァンパイア王の渋い顔が少し和らいだ瞬間だった。




