サイドストーリー「最強ヴァンパイア、人間界で初めてのデートを経験す!」
魔界編に行く前に、サイドストーリーをお楽しみください☆
――時は少し遡る。
ヴァンパイアの王女・リーラが人間界に降り立って間もないころ。
その姿は、まるで夜の光を閉じ込めたように美しかった。
月光色の髪、赤い瞳、そしてどこか浮世離れした雰囲気。
歩くだけで周囲の視線を集めるのも、無理はない。
そんなリーラが、夜の繁華街を歩いていた。
人間界の観察のため――そして、なにより「食」に興味津々だったからだ。
「この街は……眩しいのう。あれが“ネオン”というやつか。」
看板がピカピカと光り、香ばしい匂いが道のあちこちから漂ってくる。
串焼き、ラーメン、ピザ、タピオカ。人間たちはまるで魔法のような技術で食を作り出していた。
そんな彼女に、声をかける者がいた。
「ねぇねぇ、お姉さん、めっちゃ可愛いじゃん! 一緒にご飯どう?」
金髪にピアス、香水の匂いが強い若者。
リーラは首を傾げた。
「む……貴様、今“可愛い”と言ったな?」
「う、うん、言ったけど……あれ、怒った?」
「いや、嬉しいのう! 褒められるのは好きじゃ!」
リーラは満面の笑みで答える。
その無垢な笑顔に、チャラ男の方が一瞬たじろいだ。
「じゃ、じゃあ決まり! 俺、カイト! お姉さん名前は?」
「リーラじゃ。」
「リーラちゃんね! よし、メシ行こ!」
「よかろう!」
こうして、王族ヴァンパイアの“初ナンパデート”が幕を開けた。
カイトが案内したのは、最近流行りの「創作イタリアン×和食フュージョンレストラン《OROCHI TABLE》」。
内装はモダンで、間接照明がやたらとオシャレ。
グラスの水にはレモンが浮かび、店員は全員黒いシャツで統一されている。
「すごいのう……! まるで城の晩餐のようじゃ!」
「ははっ、そんな大げさな。好きなもん頼みなよ。俺、今日奢るから!」
「ほほう? 本当に良いのか?」
「もちろん! 遠慮すんなって!」
「ならば、遠慮はせぬ!」
リーラはタッチパネルを覗き込む。
画面が光り、料理の写真がずらりと並ぶ。
「なんと……魔法の鏡のようじゃ……! 指で押すと、注文できるのか!?」
「そうそう、押せば届くやつ!」
「なるほど……では――これと、これと……これも美味そうじゃ! それから――」
リーラの瞳がキラキラと輝く。
画面を押す指が止まらない。
「え、ちょ、リーラちゃん? まだ頼むの?」
「うむ、まだ始まったばかりじゃ!」
その後、10分ほどで――
テーブルはまるで宴会のような光景になった。
「お待たせしました~!」
運ばれてくる皿、皿、皿。
カルボナーラ、ステーキ、うなぎ、パスタ、寿司ピザ、抹茶リゾット……。
店員も苦笑いしていた。
「これ全部……!?」
「うむ。どれも気になったのでな!」
リーラはフォークを持ち、真剣な顔で構えた。
「では――いただこう!」
その一口目。
目を輝かせ、口角を上げた。
「……美味い!!」
そこからの勢いは止まらない。
ヴァンパイアの超人的な代謝と体力で、次々と皿を平らげていく。
「カイトよ、これも絶品じゃ! この“トリュフ”とやら、香りがよいのう!」
「い、いや……そんなに食えるのか……?」
「まだいける!」
結局、すべての皿が綺麗に空になった。
店員が会計票を置いて去る。
金額――10万3200円。
「ふむ、なかなかの学びであった。良い晩餐じゃ!」
「お、俺の財布も……学びを得た……。」
「感謝するぞ、カイト。良き“食の師”であった。」
「師……!?」
そして次に向かったのは、カイトの提案で「カラオケ」。
「リーラちゃん、歌うの好き?」
「うむ。音楽は大好きじゃ。人間の“カラオケ”というもの、体験してみたかったのじゃ。」
部屋に入ると、ネオンライトが光り、マイクが二本。
カイトがリモコンを握り、自信満々に笑った。
「まずは俺から! 聴いてな、心震えるラブソング!」
曲が流れる。
カイトはノリノリで歌う。
音程は多少ズレているが、魂はこもっていた。
「なかなかじゃの。熱がある。」
「だろ? じゃ、次リーラちゃんね!」
リーラはジュースを一口飲み、静かに息を吸った。
リモコンの検索欄に、言葉を打つ。
流れ出したのは、古の英語のバラード。
彼女の声が響く。
最初の一音で、カイトの目が見開かれた。
音が光となり、空気を震わせる。
高音は天井を突き抜け、低音は心臓を震わせる。
それはまるで、魂を抱きしめるような歌声。
曲が中盤に差し掛かったとき、カイトの頬を一筋の涙が伝っていた。
「……な、なんだよ……これ……。歌、って、こんな……。」
すると、ドアの外から人の声が。
「ねぇ今の誰の曲!?」「生歌!?」「やば……聞こえる!」
あっという間に廊下の人がドアを開け、部屋はぎゅうぎゅうになった。
みんな泣いていた。
年齢も性別も関係ない。ただ、その歌に心を打たれていた。
「名前、教えてください! あなた、誰ですか!?」
リーラは少しだけ微笑んで言った。
「我は――リーラじゃ。」
拍手が起こる。
誰もがその名を心に刻んだ。
その夜、カイトは帰り際に小さくつぶやいた。
「なぁ、リーラちゃん。今日のこと、絶対忘れないから。」
「うむ、よい夜であった。人間界の“食”と“音”、なかなか面白いのう。」
夜風が二人の間を通り抜ける。
ビルの明かりが星のように輝いていた。
その後、《OROCHI TABLE》では「黒髪の美女が全メニューを食べ尽くした夜」として語り継がれ、
カラオケ店では「伝説の歌姫」として、謎の名“リーラ”が記録に残ることになる。
――人間界、初ナンパ事件。
それは、リーラにとっても忘れられない夜となった。
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