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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
58/69

第58話 「最強ヴァンパイア、別れの旋律――黒き翼、空へ帰還す」

 ――ドームを包む音が、静かに形を変えていく。

 ルーナとリーラの声が絡み合い、響き、やがて空気を震わせた。

 その音がまるで呪縛を解くように、観客たちの瞳が一つ、また一つと光を取り戻していく。


「……俺、今まで……何を……?」


「気づいたら……泣いてた……?」


 ざわめきが広がる。

 さっきまで息をしていなかったみたいに、みんなが生き返ったように息を吸った。

 ステージ中央では、光を背に立つふたり――リーラとルーナが、まだ音を放っている。


 そして、次の瞬間。


 観客の誰かが叫んだ。


「な、なにあれ……翼……?」


 リーラの背から、黒い羽根が広がった。

 ルーナの背には、白銀の翼。

 まるで闇と光――二つの対が、同時にこの地上へ降り立ったようだった。


「……リーラ……?」

 ユウトが息を呑む。

 リーラは静かに、仲間たちへ向き直った。


「……すまぬ。

 我は、ずっと隠しておったことがある。」


 声は震えていなかった。

 ただ、静かで、覚悟を含んだ音だった。


「我は――人間ではない。ヴァンパイアなのだ。」


 その一言が落ちた瞬間、ドーム全体の時間が止まった。

 音も歓声も、すべてが消えた。


 リーラはゆっくりと目を閉じ、語り出す。


「長い間、我は孤独であった。

 戦いの中に生まれ、血と力だけが価値だと教えられた。

 仲間も、笑顔も、愛も――すべて無駄だと。」


 マイクを持つ手が、微かに震える。


「強さだけを求め、何のために戦うのかも分からなくなっていた。

 だが、ある日、王から命を受けたのだ。

 “人間界に降り、仲間を作り、音楽で王位を継ぐ資格を示せ”と。」


 観客は、ただ静かに聴いていた。

 誰も声を上げない。

 ただ、ステージの上の黒翼の少女の告白に、全ての視線が集まっていた。


「最初は意味が分からなかった。

 だが……音を知った。

 お主らと奏でる音の中で、我は初めて“生きている”と感じた。」


 リーラは仲間たちに視線を送る。


「ユウト、アカネ、マナブ――。

 お主らと出会い、我は“戦うため”ではなく、“奏でるため”に生きる喜びを知ったのだ。」


 ユウトが一歩前に出る。

 その顔には、驚きも恐れもなかった。ただまっすぐな好奇心と敬意が宿っていた。


「……そうか。ヴァンパイア、か。」

 少し息を吐き、ニッと笑う。

「いいじゃん。種族とかどうでもいい。

 その声、もう音そのものが人間離れしてる。

 ……あ、でもさ、正直に言うと面白ぇ。

 いつか、もうちょい詳しく聞かせてくれ。」


 アカネが腕を組んで笑った。

「姐さん、何者でも関係ねぇよ。

 ウチらの音は、姐さんと作ったんだ。

 ……それだけで十分だろ。」


 マナブも眼鏡をクイッと上げて笑う。

「なるほど。

 これで今までの音の異常値、全部説明つくな。

 リーラ氏、今度ちゃんと測らせてくれ? 魔力の周波数を。」


「お主ら……相変わらずじゃのう。」

 リーラは微笑んだ。

 けれど、その笑みにはどこか哀しさが滲んでいた。


 その時、司会がマイクを握りしめてステージに上がった。

 声が少し震えている。


「え、えぇ……みなさん……。まさかの衝撃のカミングアウト……!

 “ヴァンパイア”という言葉が、この会場で飛び出すとは思いませんでしたが――!」


 観客席がどよめく。

 司会は汗を拭きながら、必死に言葉を続けた。


「しかし! 審査は審査です!

 我々審査員は、“音楽”という一点のみを基準に評価を行いました。

 表現力、構成力、創造性、そして……心。」


 会場が息を呑む。

 誰もが、結果を待っていた。

 司会は一度深呼吸し、ためを作ってから声を張り上げる。


「優勝は――」


 数秒の静寂。

 リーラも、ルーナも、観客も固まっている。

 司会が、ついに叫んだ。


「――ブラムー!!」


 大歓声がドームに響き渡った。

 アカネが「よっしゃぁ!」と叫び、ユウトがガッツポーズを取る。

 マナブは泣き笑いのような顔で笑った。

 ルーナは静かに拍手を送っていた。


 だが、リーラはマイクを見つめたまま動かない。

 そして、ゆっくりとブラムーメンバーに振り返る。

 その瞳には、決意が宿っていた。


「……お主ら、すまぬ。」


 アカネが無言で頷く。

 ユウトも笑って、ただ親指を立てた。

 マナブも「わかってる」とだけ言った。


 リーラはマイクを握り直した。


「この勝利――辞退する。」


 司会が目を見開く。

 観客のどよめきが広がる。


「な、なぜ……!? リーラさん、どういう――」


「我には、やるべきことがある。」

 リーラの声が、静かに響いた。

「魔王が復活した。

 竜族の長も攫われた。

 そして、その影は人間界にも忍び寄っておる。」


 誰もが凍り付く。

 ルーナが歩み寄り、リーラの隣に立った。


「お姉様……行くのですね。」


「うむ。ルーナ、お主も来るか。」


「もちろんです。今度は共に戦います。」


 リーラは、ブラムーの仲間たちを見た。

 その瞳が少し潤む。


「ありがとう。

 お主らと過ごした時間、我の中で永遠に生き続ける。」


 アカネが涙をこらえながら笑った。

「姐さん……泣かせんじゃねぇよ。」


「泣かせてはおらぬ。」

 リーラは小さく微笑んだ。

 そして――黒い翼を大きく広げる。


 光が彼女を包み、風が吹き上がった。

 観客は静かにその光景を見つめていた。

 もう誰も言葉を発しなかった。

 ただ、見送る。

 それが“別れ”だと、誰もが分かっていた。


 ルーナがリーラの手を取る。

 二人の身体がゆっくりと宙に浮かぶ。


「さらばじゃ、ブラムー。……そして、人間界よ。」


 光がはじけ、二人の姿が夜空に溶けていく。

 拍手も、歓声もない。

 ただ、静かに涙を流す音だけが響いていた。


 ――黒き翼は、光の彼方へ消えていった。


 そして、しばらくの静寂の後。

 ファン向けのSNSに、リーラからの投稿が上がった。


「ありがとう」


 たったそれだけの言葉が、何よりも強く、優しい、最後の旋律となった。



 《魔界編に続く》

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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