第57話 「最強ヴァンパイア、導きの歌――互いの想いが交錯す!」
――光と闇が交錯していた。
白き翼を広げるルーナ。
黒き翼を掲げるリーラ。
天と地がぶつかるほどの音圧が、ドーム全体を包み込む。
それは音楽であり、戦いであり、祈りでもあった。
観客たちは意識を奪われたまま立ち尽くし、光の中で静止している。
音の流れが現実そのものを揺らし、空気が唸る。
ルーナが、静かに前へ進んだ。
その一歩ごとに、足元から黄金の波紋が広がっていく。
「お姉様……なぜ抗うのです?」
その声は優しく、けれど残酷なほど澄んでいた。
「この世界は、もう壊れている。生物は奪い合い、裏切り合う。
だから――皆が同じであればいい。
苦しみも、悲しみも、存在しなくなる。」
その瞬間、音が爆発した。
ルーナが両手を広げ、光の指揮棒を振る。
背後の空間に、無数の音符が浮かび上がる。
それらが連なり、眩い旋律となって奔流を成した。
「個性はいらない 意志を捨てて
その身をわたくしの歌に捧げて
痛みも涙も もういらない
全てをひとつの調べに――」
圧倒的な輝きが、ドーム全体を飲み込んだ。
それは神聖にして絶対的な“光の支配”。
観客の瞳が、黄金に染まる。
――ルーナの音は、意思を奪う。
愛の形で包み込み、心を静かに麻痺させる。
リーラは、歯を食いしばった。
瞳が紅く燃え上がる。
「……ルーナ……!」
闇が吹き荒れた。
リーラがギターをかき鳴らした瞬間、ステージの床が震え、黒い風が巻き起こる。
ルーナの光の旋律と激突し、音と音がぶつかり合う。
「我は――お主のいない百余年、常に孤独だった!」
リーラの声が轟く。
その声には、涙と怒りと誇りが混ざっていた。
「闇に生き、血にまみれ、誰にも届かぬ歌を歌ってきた!
それでいいと思っていた……それでしか、生きられぬと信じていた!
だが――」
ドォォォン!
リーラが構えたギターが燃え上がる。
リーラの背中から吹き出す黒い炎が、ドームの空気を震わせる。
「だが、ブラムーと出会い、仲間と出会い、ファンと出会った!
人と関わることで、我は知ったのだ!
ぶつかることも、傷つくこともある――
だが、それを越えた時、心が繋がるのだ!!」
叫びと同時に、黒光が放たれる。
ルーナの光の壁を貫くように、黒い音の奔流が襲いかかる。
リーラはマイクを握り、息を吸い込んだ。
魔法陣が足元に浮かび上がる。
「――《ヴォイス・オブ・ナイトメア》!」
爆発的な魔力が、歌に乗る。
リーラの喉が震え、息が切れるほどの力を注ぎ込む。
「個を抱いて 夢を描け
涙の数が 音を育てる
ひとりじゃ届かぬ願いも
共に響けば 空を越える――ッ!!」
ハイトーンのヴォイスが炸裂した。
その一音が、まるで稲妻の刃のようにルーナの光を切り裂く。
金色のオーラが砕け散り、音の結界が揺らぐ。
観客席にいた者たちの瞳が、ゆっくりと元の色を見せた。
洗脳が、一瞬途切れたのだ。
「お姉様……なぜ……!」
ルーナが震える声で叫ぶ。
「個があるから、人は争う!
欲があるから、奪い合う!
皆が同じであれば、誰も苦しまないのに――!」
彼女の歌が再び響く。
音の刃が幾重にも折り重なり、光の奔流が逆流する。
白い羽が散り、金色の風が吹き荒れる。
「愛も悲しみも 意味をなくして
ただ静かに 寄り添えばいい
痛みのない世界を わたくしは望む――!」
その清らかさは、美しくも恐ろしい。
世界が再びルーナの色に染まろうとしたその瞬間――
リーラは、マイクを下ろさず、静かに言った。
「……ルーナ。
正しく導くことが、重要なのだ。」
その声は、闇の奥から響く鐘のようだった。
「お主の行いは確かに争いを生んだ。
だが、それは“悪の火種”が燃えただけのこと。
お主は、皆に与えていた。救っていた。
悪いのは――奪おうとした者だ。
本質は、導けなかったことにある。国の責務としてな。」
ルーナの瞳が揺れる。
「……でも、わたくしが与えたから……奪わせてしまった……
もし、個性や欲がなければ、こんなことには――!」
「違う!」
リーラの声が雷鳴のように響いた。
「欲があるから、成長するのだ!
欲は、生きる証。
お主が悪いのではない。
導くことを恐れた――それが、罪だ!」
黒翼が大きく広がり、嵐のような風が巻き起こる。
ルーナの光が押され、後ずさる。
「王族として生まれた以上、導くことから逃げるな!
民を信じ、正しき道へと導いてやれ!
それが我ら姉妹に与えられた使命だろう!!」
その一言に、ルーナの唇が震えた。
目が大きく揺れ、声が掠れる。
「わたくし……は……ただ……みんなに……幸せになってほしかった……」
彼女の金色の光が、少しずつ揺らめき始める。
ルーナの心が、崩れかけていた。
その姿を見て、リーラは静かに歌う。
「欲があるから、音楽がある。
個性があるから、さまざまな音楽が生まれる。
悲しみも、喜びも、全てが“音”になるのだ。
それこそが――我らが愛する“音楽”だ!」
そして、リーラは微笑んだ。
涙を流しながら、優しく手を差し伸べる。
「ルーナ……また共に歌おうぞ。
そして民を導こう。
正しい音で、この世界を照らすのだ!」
その声は、光と闇を超えた“祈り”だった。
ルーナの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「……お姉様……わたくしは……ただ、皆に……幸せになってもらいたかった、それだけなの……!」
彼女の身体を包んでいた光が、一瞬、爆ぜた。
――パキィィィィィンッ!!
ガラスが割れるような轟音。
ルーナの背後で、オーケストラの幻影が砕け散る。
そしてその中から、黒い靄が抜け出した。
ねじれた影――魔王の魔力だ。
「……やはり、操られておったか。」
リーラの目が鋭く光る。
闇の魔力が宙に散り、跡形もなく消えていく。
ルーナの翼は白から透き通るような銀へと変わり、彼女は力を失って膝をついた。
「お姉様……わたくし、間違っていたのね……」
「いいや、違う。間違っていたのは、導こうとしなかった我らの国だ。」
リーラは膝をつき、ようやく会えた妹、ルーナを抱きしめる。
ルーナの頬に涙が落ちる。
光と闇が溶け合い、二人の周囲に柔らかな風が流れた。
黒と白。
闇と光。
その二つが、ようやく調和した。
「……さあ、ルーナ。」
リーラが微笑む。
「もう一度、一緒に歌おう。皆のために。」
ルーナは小さく頷いた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
姉妹の歌が、再び重なっていく。
それは世界を癒すような音。
夜明けの旋律だった。
――そして、洗脳されていた人々が目を覚ましていった。
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