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最強ヴァンパイア、人間界でバンドデビューを決意す  作者: Rockston.
バンドバトル 決勝トーナメント編
55/69

第55話「最強ヴァンパイア、光か闇か、ダルク正体を表す!」

「……えっ……嘘……だろ……?」

「ありえない……!」

「ど、どういうことだ……」


 ステージ上で立つその姿は、

 人間ではないほどの気高さと美しさを放っていた。


 だが、それとは別の――“根源的な驚き”があった。


 リーラの瞳が、大きく揺れた。

 唇がわずかに震え、声にならない言葉を漏らす。


 ドーム全体が震える。

 光がうねり、空気が変わる。

 そして――静寂が落ちた。


 観客も、審査員も、ブラムーのメンバーも、

 誰もが目を見開き、ステージの一点を見つめていた。


 そこに――立っていたのは。


 リーラ、だった。


 まぎれもなく、リーラと同じ顔。

 ただし、その瞳は澄み切った金色に輝き、

 髪は雪のように白く光を反射している。


 黒と赤のドレスを纏うリーラとは対照的に、

 その存在は“純白の光”そのものだった。


「……な、なんだ、あれ……」

「リーラが……もう一人……?」

「え、えっ、幻? まさか、クローン?」


 観客のざわめきが波のように広がる。


 ユウトが呆然と呟いた。

「……そっくりだ……リーラに……」


 アカネが眉を寄せる。

「どうゆうこと……?」


 マナブは目を細め、リーラの方を見た。

 リーラは固まっている。

 赤い瞳が揺れ、震え、まるで心臓を掴まれたような表情。


 その時、リーラの脳裏に直接、声が響いた。


「……リーラ、聞こえるか?」


 セリウスだ。

 冷静だが、いつになく焦った気配が混じっていた。


「あれは……まさか……。」


 リーラの息が止まる。

 ほんの数秒の沈黙のあと、震える声で呟いた。


「……ルーナ……。」


 その名を口にした瞬間、胸の奥が痛んだ。

 懐かしい、けれど、封じていた名前。

 決して忘れたことなどなかった。


 ――ルーナ。

 リーラの双子の妹。

 闇と光、対照的な存在として生まれたもう一人の“歌姫”。


 二人はいつも一緒だった。

 ヴァンパイア王国の森の奥で、夜空に響くように歌っていた。


 リーラは強く、誇り高く、闇を司る者としての力を磨いた。

 ルーナは優しく、穏やかで、光を纏う存在だった。


 彼女は自分よりも他人を優先した。

 誰かが傷つけば、自分の血を分け、痛みを癒やした。

 民が飢えれば、自らの糧を与えた。


 いつも笑っていた。

「姉様、皆が幸せなら、それでいいのです」――そう言って。


 だが、その優しさが、悲劇を生んだ。


 ルーナが与え続けたものを、人々は当たり前と思い始めた。

 欲深き者たちは、もっと欲しがった。

「与えてくれるなら、もっとよこせ」と。

 やがてそれは、奪い合いへと変わった。


 財宝を奪い、血を奪い、命さえ奪い合う争い。

 弱き者は倒れ、国の均衡が崩れていった。


 ルーナは、その光景を見て、膝をついた。

「私が……こんなことを……」


 彼女は部屋に閉じこもり、誰とも会わなくなった。

 自責と絶望の中で、

 “光”でありながら、心は“闇”に染まり始めていた。


 そして、ある日――姿を消した。


 どこを探しても、見つからなかった。

 父である王も、姉であるリーラも、

 何年も探し続けたが、ルーナは二度と戻らなかった。


 それから百余年。

 闇の歌姫となったリーラが、再び人間界で音楽を始めた。

 その舞台で――失われたはずの妹が、立っていたのだ。


「……嘘じゃろ……ルーナ……どこに……どこにおったのじゃ……!」


 リーラの声が震える。

 ステージを見つめるその瞳には、涙がにじんでいた。


 マナブが耳を疑う。

「ルーナ……? 妹……? リーラ氏に……妹が……」


 アカネが小声で呟く。

「つまり、それが“ダルク”の正体……?」


 セリウスの声が再びリーラの頭に響く。


「リーラ、落ち着け。まだ油断するな。

 ルーナがどんな思いでここに立ってるのか……それを見極めろ。」


「……わかっておる。」

 リーラは小さく息を吸い込み、マイクを握り直した。


 観客席からも、次第にざわめきが広がる。


「え、え? リーラに妹がいるってこと?」

「しかもそっくりすぎるんだけど……!」

「ていうか、歌姫ダルクって……“もう一人のリーラ”?」


 ステージ中央。

 白い光の中に立つその少女――ルーナが、ゆっくりと口を開いた。


「久しぶりね……お姉様。」


 その声は澄んでいて、冷たくて、どこか悲しみを含んでいた。


「……ルーナ……! 本当に、ルーナなのか……!」


「ええ。お姉様。」

 ルーナは微笑んだ。

 だが、その笑みにはかつての温もりはなかった。

 代わりに、神々しいほどの決意が宿っていた。


「わたくしは――すべての種族を救うために来ました。」


「な、なんじゃと……?」

 リーラの眉がわずかに動く。


 ルーナは続けた。

「闇も、光も、人も、魔物も。

 すべての命が争わずに共に生きる世界。

 そのために、音を使うのです。

 この声で、皆の心をひとつに。」


 彼女の瞳に宿る光が、黄金の輪のように広がった。

 観客の息が止まる。


「そのために――個の意志はいりません。」

 ルーナの声が、透き通るように響く。

「個性は争いを生むのです。

 欲は痛みを、痛みは闘いを。

 だから、意志を捨ててください。

 その身を、わたくしの歌に捧げて。」


 瞬間、ドーム全体が震えた。


 壮大なオーケストラが立ち上がる。

 ストリングスが渦を巻き、ブラスが空気を裂き、

 光の波が客席へと広がっていく。


 観客たちは思わず手を胸に当て、涙を流した。

「……なんて、優しい音……」

「まるで心が溶けていくみたい……」


 ユウトが歯を食いしばる。

「やばい……これ、聴いてるだけで……頭が……ぼーっとする……」


 アカネがスティックを落とした。

「なにこれ……声が……耳から……心の奥に……」


 マナブの瞳が揺れる。

「……抗えない……音そのものに……命を支配されるような……」


 ルーナは歌い続ける。

 その声は、甘く、包み込むようで――恐ろしい。


 ♪個を捨てなさい ひとつになりなさい

 痛みも悲しみも もう必要ないわ

 あなたは私 私はあなた

 争いも嘆きも この歌に溶かして……♪


 リーラが立ち上がり、叫んだ。

「やめろ、ルーナ! それは救いではない! 魂を奪うことじゃ!」


 だがルーナの声は止まらない。

 その瞳がリーラを見据える。


「姉様。あなたも救いたいのです。」


「……っ……!」


 リーラの意識が揺らぐ。

 光の粒が、まるで指先から侵食するように身体を包み込む。

 心の奥で、かすかな声が囁く。


 “意志なんて、いらない。

 すべて委ねれば、痛みは消えるのよ……”


「だ、駄目だ……」

 リーラは膝をつき、頭を押さえる。

 セリウスの声が再び響いた。


「リーラ、負けるな! 意識を保て!」


「くっ……! わかっておる、でも……!」


 ブラムーの三人も苦しそうに耳を押さえる。

「ぐっ……頭が……!」

「これ……精神を直接……!」

「声が……体の中に入ってくる……!」


 その時――観客の声が止んだ。


 全員が、立ち上がったまま、無表情に。

 ゆっくりと、同じ動作で両手を胸の前に組む。


 数万人の観客が、同じリズムで呼吸をし、

 同じ言葉を口にした。


「――ルーナさま……」


 ゾッとするような静寂のあと、

 全員の瞳が黄金に輝いた。


 リーラの背筋に冷たいものが走る。

「……まさか……洗脳……?」


 ルーナは優雅に手を広げた。

 その指先から、光が再び放たれる。


「ようこそ――新しき世界へ。」


 ドーム全体が光に包まれる。

 音はもはや“音楽”ではなく、

 意志を溶かし、心を縫い合わせる“支配”そのものだった。


 リーラは歯を食いしばり、叫ぶ。


「ルーナ! それは救いなどではない!

 皆を“同じ”にして……どうするつもりじゃ!!」


 だが、ルーナはただ静かに微笑んだ。


「――皆が同じ、平等なら、誰も傷つかないでしょう?」


 そして再び歌う。

 その声は、もはや“神”の声のように響いていた。


 ♪すべてを一つに 声も涙も

 あなたを包み あなたを守る

 痛みはいらない 個性もいらない

 さあ、私の中で眠りなさい……♪


 観客の瞳が、一斉に閉じた。

 ブラムーのメンバーが膝をつき、意識が遠のく。

 リーラの指先が震え、涙が頬を伝う。


「ルーナ……なぜ……そんな音で……皆を……」


 ――白い光が、すべてを飲み込んだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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