第54話「最強ヴァンパイア、響け魂の旋律!人々の心を取り戻す!」
――静寂。
それは、音楽の終わりではなく、支配の始まりだった。
ダルクの最後の声が途切れた瞬間、
空気そのものが固まったようだった。
照明が淡く揺らいでも、観客は誰一人として瞬きをしない。
彼女の歌声の残響が、まだ耳の奥に残っている。
魂を震わせるほどの余韻――それはまるで「夢」の中に閉じ込められた感覚。
「……い、今の……何……?」
「声が……耳から離れない……」
「まるで……神様の声みたいだ……」
観客席のあちこちから、かすかな囁きが漏れる。
ステージの照明がゆっくり落ち、
ダルクのシルエットだけが逆光に浮かんでいた。
その立ち姿は、静止した彫像のよう。
人間離れした神聖さと、得体の知れない威圧感をまとっている。
ブラムーのメンバーも呆然としていた。
ユウトはギターを抱えたまま息をするのも忘れ、
アカネはスティックを落としそうになり、
マナブは苦く唇を噛みしめた。
「……ロックで空気を作るはずが……完全に持っていかれた」
マナブの声は低く震えていた。
「……ああ。凄かった」
ユウトが拳を握り、静かに言う。
リーラは俯いたまま、ゆっくりと目を閉じた。
その耳に、突如として直接響く声が届く。
「リーラ、聞こえるか?」
――セリウスだ。
脳に直接話しかける。戦闘民族であるヴァンパイアの特殊能力だ。
「……セリウス?」
リーラの表情がわずかに動く。
「魔力を感じる。観客の感情が揺れてる……いや、操られてるな。
おそらく、ダルクの声に“魔法”が乗ってる。音による支配だ」
「……やはり、魔界のものであったか」
「そうだ。でも焦るな。お前の声なら、取り戻せる。
“純粋なヴォイス”で、みんなを引き戻せ」
リーラは静かに息を吸い込み、顔を上げた。
瞳に、深紅の光が灯る。
「……わかった。ならば、我の歌で――魂を取り戻すまで」
ユウトが息を呑む。
「……行くのか?」
リーラは微笑んだ。
「当然じゃ。今こそ、ブラムーの音を響かせる時じゃ!」
マナブがすぐに指示を出す。
「2曲目、アコースティックで行く。
歌で勝負だ。――ブラムーらしさで叩き返す!」
ドームの照明が落ち、一本の光がリーラに落ちる。
静かに、アコースティックギターの弦が鳴る。
ユウトの指先が、温かい旋律を描く。
アカネのブラシが優しくリズムを包み込み、
マナブの低音が、聴く者の鼓動をなぞるように流れる。
――そして、リーラが歌い始めた。
「誰かのために笑える日を
誰かのために泣ける日を
それが“生きる音”――Life Sound」
静かな声。
だが、その一音一音が、心を撫でるように響く。
観客の瞳がゆっくりと動き始める。
まるで夢の中から目を覚ますように。
「……優しい……」
「なんで……涙が出るんだろう……」
「心が……洗われていく……」
リーラの歌は、音ではなく“光”そのものだった。
暗闇を切り裂き、迷う心を照らしていく。
審査員の一人が呟く。
「ダルクが“支配”なら……リーラは“解放”だな。
まるで魂を呼び戻すようだ。」
リーラは続ける。
「Life Road is long, but we walk together
重ねた足音が 明日の音を奏でる」
“Life Road is long”――その一節が響いた瞬間、
観客の胸の奥で何かが弾けた。
まるで自分の人生の道が、音と重なるような感覚。
リーラがマイクを掲げる。
「――皆で歌おう!」
ステージのライトが観客席を照らす。
数万人の顔が光の中に浮かび上がる。
「La la life road! La la life sound!」
リーラが両手を高く掲げる。
観客が一斉に手を伸ばし、リズムを刻む。
「La la life road! La la life sound!」
声が、重なる。
重なって、広がって、天井に届く。
リーラはマイクを下げた。
――もう楽器はいらない。
ブラムーの音が、静かに止まる。
ドームには、数万人の「声」だけが残った。
「La la life road! La la life sound!」
観客とリーラの声が、完全に一体となる。
涙を流しながら、笑いながら、皆が心の底から歌っていた。
その瞬間――ドームが生きていた。
それは単なる演奏ではない。
“生命”そのものが震えていた。
リーラが最後の一節を紡ぐ。
「皆、一つだ。仲間であり、家族であり、音で繋がる。
大切な人生を、力を合わせ、認め合い、
個性を大切に――生きていこう。」
最後のコードが鳴り響く。
――ジャアアアアアアンッ!!!
一瞬の静寂。
だがその後、ドームが爆発した。
「うおおおおおおおお!!!」
「ブラムー!!!」
「リーラ様ーーー!!!」
歓声、拍手、涙。
観客の誰もが、心の底から叫んでいた。
マナブが息を吐く。
「……これが、ブラムーの音だ。」
ユウトが笑う。
「やっぱ、俺たちは負けねぇな。」
アカネが涙を拭う。
「姐さん……すごかったよ。」
リーラはマイクを握り直し、静かに前を向いた。
「……歌とはな。」
その声は、これまでの中で最も低く、強く響いた。
「歌とは、そなたの表情、仕草、魂――
それらすべてが重なって、初めて“伝わる”ものじゃ。」
そして、真紅の瞳でダルクをまっすぐに見据える。
「姿を隠していては、正々堂々と戦えぬ。
魂をぶつける戦いがしたい。
さあ、出てこい、ダルク――その姿を、見せよ!!!」
ドーム全体が、ピリッと緊張に包まれた。
沈黙。
次の瞬間、闇の中から低く笑う声が聞こえた。
「……ふふ……さすがね。」
ダルクの口元が、ほんの少しだけ歪む。
――バンッ!!!
眩い光がステージを貫く。
光がダルクの背後からあふれ出し、その影を切り裂いた。
観客が一斉に立ち上がる。
「うわっ! ま、まぶしい!」
「見える……!?」
「あれが、ダルク……!?」
光に目が慣れていく。
輪郭が浮かび、ドレスが揺れ、長い髪が流れる。
そして――目が完全に慣れたその瞬間。
観客全員が、息を飲んだ。
「……えっ……嘘……だろ……?」
「ありえない……!」
「ど、どういうことだ……」
ステージ上で立つその姿は、
人間ではないほどの気高さと美しさを放っていた。
だが、それとは別の驚きがあった。
リーラの瞳が大きく揺れる。
「あれは……まさか……!」
ドーム全体が震えた。
光がうねり、空気が変わる。
――誰もが、言葉を失った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければ、率直な評価や、感想をいただければ励みになります!より良い作品が創れるよう、頑張ります!
よろしくお願いします。




